第10章 報いを受ける人々(再び回帰一か月後より)
第78話 スポイルされてきた能力と人格
「天罰だと思えばいい」
父ブレイズ卿の非情な言葉に9歳に戻ったダンゼルは耳を疑った。
◇ ◇ ◇
炎魔法の天才児として、その際を幼いころから存分に示していたダンゼルだったが、ある日急にその技が使えなくなってしまった。
魔法省に務めている魔法使いが見に来てくれたが理由はわからなかった。
使えなくなったというより、使おうとすると自身も火で焼かれるような苦痛を味わうという不可解な現象が起きるという。
「どうしてだ! なぜ彼がこんなことをしたんだ!」
魔法を使うとするたびに苦痛にのたうち回りながら9歳のダンゼルはわめいた。
彼とはいったい誰なのか?
父をはじめ周囲の人には全く見当がつかない。
しかし、術が使えなくなってから約一か月後、王宮に改めて呼び出されたブレイズ卿は、息子ダンゼルの魔法能力の消失と王家との秘術とのかかわりあいを知る。
自分たちが一度四十年以上未来を生きてきて時をさかのぼった、と。
国王からの話をうかがった後、帰りの馬車の中で、ブレイズ卿はただの夢とは思えないリアルな白日夢を見る。
騎士団長の息子としての立場と優れた魔法能力。
その二つがダンゼルの人格を台無しにして、人を人とも思わない非情な行為を平気でする人間にしてしまった。そして、妹のステラまでもがその犠牲となり、その後の激しい後悔をブレイズ卿は再度味う。
後日、確認のため、魔法省の人間よりもさらに優れた魔法使いにダンゼルのことを見てもらったが、術を解くことは不可能だと言われる。
「これは逆に天啓かもしれない」
ブレイズ卿はそう考えてみることにした。
◇ ◇ ◇
「ダンゼルよ、使えない術にこれ以上執着しても仕方がない。今後は地道に剣の腕などを磨いて立派な騎士となることを考えよ」
ブレイズ卿は息子に助言した。
「治せないってどういうことだよ! 俺の能力は国の宝というほどのものだろう。だったらどんな手段をもってしても再度使えるようにするべきだろうが!」
「『国の宝』か……」
そんな言葉が、自分は何をしても許される、と、いう間違った特権意識を植え付けてしまった。
「それをどうしてあいつが使えなくなる術を施すんだ、味方じゃないのかよ!」
「お前は誰のことを言っている?」
「父上には関係ない!」
「お前は術が使えなくなった時のことを覚えているのか? 理由がわかっているのか?」
ブレイズ卿は問い詰める。
「父上こそ王宮で何を聞いてきたんだよ?」
息子のダンゼルは逆に質問を返した。
「その魔法で多くの人を傷つけ、人すら殺したこと。実の妹の人生をめちゃくちゃにしたことも覚えているのか!」
ブレイズ卿は言葉をぶつける。
「なんだよ、その言い方! 魔法攻撃は正当な攻撃の範囲内だ。妹ってステラの事か! 王太子殿下の妃になれたことを『めちゃくちゃ』とは人聞きの悪い!」
ダンゼルの返答で彼が前の時間軸の記憶があることを父のブレイズ卿も悟った。
「記憶があることはよくわかった。ならば見た目はともかく、お前の中身は四十年以上生きた人間とみなしても良いのだな。では、そのレベルに合わせて言うぞ。能力を取り戻すのはあきらめろ」
「はあっ?」
「なくなってしまったのは『天罰』だと思えばいい。せっかくの力を誤った形で使ってばかりいたから取り上げられたのだ」
「誤っただと……」
「先だってもカース伯爵の子息に炎魔法で大けがを負わせたな」
「あれはヤツが生意気なことを言うから……」
「生意気とは何だ? 騎士団少年部に入って日の浅いお前が二年上の者を『生意気』だなどと言っていられる立場か!」
「やつを攻撃したとき同じ組の者も喜んでいた!」
騎士団の少年部はいくつかの組に分けられる。
組内の子らは一蓮托生の間柄で結束が強まり、そのつながりが大人になってからも続くことはある。
だが、逆に別の組への対抗心も生んでしまう。
「間違った結束力だ、あんなことをしでかして、お前やお前の組の者たちに反省の心がないなら、組みなおしも考えねばならぬな」
前の時間軸でも似たような問題は起きていた。
それを、子供同士のいさかいに過ぎない、と、解釈し放置してきた。
それがダンゼルの認識を歪ましてしまったのなら、こんどこそ間違わないようにせねば、と、ブレイズ卿は考えていた。
「最初から能力はなかったものとして一からやり直すのだ。他の子どもたちはみなそうしている。魔法能力を持っている人間の方が稀有だ。剣や格闘の腕を磨いて頭角を現すようにせよ」
「そんなことをしていたら、王太子殿下付きにはなれないだろう……」
ダンゼルは絞り出すように言う。
前の時間軸では魔法能力に頼っていたせいか、ダンゼルの剣や格闘の腕前は並レベルであった。学園で王太子に近づき側近のようにふるまえたのは傑出した炎魔法の能力があったからだ。
「情けないことを言うな!」
ブレイズ卿は厳しく言い捨て話をそこで打ち切った。
後日、騎士団に通うようになったダンゼルであるが、能力が使えなくなったことが広まると、これまで被害を受けてきた少年たちの報復を受けるようになった。
ダンゼルは少年時代から、ライバル関係にある組の能力のある少年に何度も炎魔法を浴びせて、顔に目立つ火傷の後を残させたり、脅えて反撃できない少年を他の者に攻撃させたことがある。他にも小さいケースは列挙にいとまもなく、その復讐を一気に受けるようになった。
音を上げたダンゼルは再び騎士団に通わなくなり、家に引きこもるようになった。
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