第5話 きらきら

 モフェアリーに夢中だった私たちは、ようやく自分たちのピザとサラダを口に運んだ。

 どちらにもタラモ、つまりタラコとジャガイモが入っている。

「おいしいね」

「うん、おいしいね」


 モフェアリーたちは相変わらず、私たちにしっぽを向けて口福を追求している。よく見ないと分からない程度だけれど、しっぽはほのかにキラキラしている。


「ねぇ、しっぽがキラキラしてる理由、知ってるかも」

 思い出したように爽子は話しだした。

「マニアの個人サイトで見たんだけど、繁殖期にはしっぽがラメをまぶしたみたいにキラキラするんだって。この子たちはまだ全然あの画像ほどじゃないし、ハッキリとは言えないけど、もしかしたら繁殖期が近いのかも」


「へぇ……じゃあ、この子たちは、オス? メス? どっち?」

「そういうのはないんだ。モフェアリーは雌雄同体だよ」

「てことは……オスだけやメスだけなら増えない、っていう飼い方はできないのね」

「だね。去勢とか避妊手術とかも……研究してる人はどこかにいるかもだけど、ボクらに手が届くほど普及はしてない」

「ねずみ算式に増やしたくないなら、1匹飼いしかないの……?」


「とは限らない。その都度しっぽを切除するとか……」

「なんて?」

「……モフェアリーの繁殖について話したほうが良さそうだね」


 爽子が聞かせてくれた話はたいそう奇妙なものだった。


 繁殖期を迎えたキラキラのモフェアリーどうしで、互いのしっぽを触れ合わせると、しっぽは融合して一つのかたまりになる。その筋では「しっぽ合わせ」と呼ばれる。


 かたまりは白いハート形のクッションのような見た目で、自然に「本体」からポロッと取れる。

 クッション状の物体は、内部で授精が進行して多数の卵が発生すると考えられる。いわば「卵塊」になる。

 やわらかなクッションは卵の塊をしっかりと保護するうえに栄養分も蓄えられているらしく、卵から孵ったモフェアリーの幼生は、クッション状の物体を内側から食い破って外に出る。

 一つの卵塊から外界へ生まれてくる幼生の数は、多いときでは一ダースほどになる。


 「親」は卵を守る必要はなく、しっぽ合わせを終えると自分たちの身体を離れた「卵」をそのまま置いてどこかへ移動してしまうが、そのときにはごく小さな新しいしっぽが生えかけている。


「繁殖期のモフェアリーのしっぽは『しっぽ合わせ』以外で本体から離れた場合……たとえばナイフで切り離された場合は、卵を発生させる可能性を失う。

 その一方で、本体にはまた新しいしっぽが遅かれ早かれ生えてくる」


「その都度しっぽを、ってそういう意味ね。下手をすると傷つけてしまうし、モフモフのしっぽが惜しいよね」


「うん。反対に、成熟したキラキラふわふわのしっぽを生え替わらせないで、そのままでも生きられる……1匹飼いならね」


「ねぇ爽子、もちろん約束どおり1匹あげるけど、あなたが連れて帰る時までは一緒にいさせてあげたいね」


「そうだね」


 モフェアリーたちはおなかいっぱい食べた後、ころげ回って遊んでいる。









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