第7話 それから~エピローグ
ここからは後日の話になる。
国王陛下は数日療養の後、無事公務に復帰、アルヴァート様も国王代理の仕事が減り、王太子としての公務に集中できるようになった。
バレーナ様はしばらく悪魔憑きの後遺症で全身が脱力していたが、私が静養の間つきっきりで聖女の癒しを施していたので、すぐに回復した。
カトリーヌ様は変わらずアルヴァート様の補佐として動いているが、どうやら婚約者の大公家の嫡男との結婚式が近いらしい。
そして…。
ダイナム様は、辺境の塔に幽閉されることになったのだが、なんとバレーナ様のためにダイナム様が雇った侍女と関係を持っていたことが発覚。
その侍女というのが前世で私の侍女をやっていた(確かこの時もダイナム様が選んだと思う)、伯爵家出身の嫌味な人物だったこともあり、今の王家だけでなく、使用人の間でも鼻つまみ者だった(当人はダイナム様に気に入られているから気にしていなかったけど)。
国王陛下は厄介払いもかねて、彼女をダイナム様のお世話係として一緒に辺境に送ることにした。
あまり説明を加えられなかったようで、ダイナム様と一緒というだけで喜んで自慢していたようだが、ダイナム様が幽閉されることを知っているほかの使用人から冷淡な目で見られていることに気づいていなかった。
当のダイナム様自身がすでに何もする気力がないようで、
「…マリア、ありがとう。
無事にハンナが戻ってくることができたわ。
あなたのおかげよ」
というわけで、無事ハンナさんが復帰することになり、今日がカトリーヌ様の臨時の侍女として最後の日になる。
「いえ…華やかな王家に携われたこと…誇りに思います」
少し感極まって涙があふれそうになってくる…もう、王家の皆さんとかかわることもほとんどないだろう、と。
しかし、カトリーヌ様は「華やかさの裏を見てしまったのに?」と意地悪な微笑みをしていた。
カトリーヌ様にとって私は臨時の侍女でしかない、ということなのだろうか…。
と、そんなことを思っていた矢先だった。
「失礼するよ…さ、マリア、行くよ?」
「…へ? アルヴァート様?」
「お兄様、宜しくお願いしますわね」
「ああ、任されよう」
私は頭の上に?マークを乗せたまま、アルヴァート様に手を引かれていった。
「さ、入ってくれ」
案内されたのはバレーナ様の部屋だった。
「…え?」
「カトリーヌの侍女の役目は今日でおしまいだろ?
で、王家からの提案があるんだ…さ、入って」
「…失礼、します」
部屋に入ると昔の気品に満ちたバレーナ様がソファーに座っていた。
王妃様もそうだけれど…なぜ王妃になる方はこんな美しいのだろうか…。
「マリア嬢、来てくれたわね。
早速だけれど、あなた、これからどうなさるの?」
「…実家に帰って…おそらく婚約者探しかと…」
私ももう18歳…ダイナムとの婚約がひどかったものだから、婚約者なんていらないと縁談を断ってきていたが、そろそろ探さないと、という気持ちになっていた。
というより、国王様と王妃様をみて「こんな関係の男性がいたらな」と思ったのも確かだ。
「…もったいないわ。
侍女として優秀な貴族家の娘…そして私の侍女はダイナムについて行ってしまって、今侍女がいないのよ」
「…?」
バレーナ様が何を言わんとしているのか、まだ私は理解できない。
「私の侍女として王宮で働く気はない?
…最高で国王側妃になれるお仕事なのよ?」
そういってバレーナ様は微笑んだ。
「…やり…やりたいです…憧れのバレーナ様の傍で働けるなんて…ぜひ、やらせてください…」
「…そういってくれると思っていたわ…アルヴァート」
「ああ、じゃぁ契約書だ、ここにサインを…ありがとう。
そうしたら一度、フリージア子爵領で数日間準備を整えるといい。
その間はハンナにバレーナの世話もしてもらうことになっているから」
「…はい、ありがとうございます」
そういって私は頭を下げた。
それから数年。
国王様は本格的に引退…アルヴァート様が新国王に就任して、すでに結婚していたバレーナ様も王太子妃から王妃になり、王妃様の侍女として忙しい日々を過ごしている。
カトリーヌ様もその間に婚約者の大公様と結婚し、二男一女をもうけて幸せそうだ。
アルヴァート様とバレーナ様の娘さんである第一王女・ベティ様も誕生されているが、数年間男児が生まれないことで、先代王妃の王太后様から「マリアさんに側妃になっていただいたら?」と言われバレーナ様も「そうね、マリアならいいわよ?」と言われたりもしているが、さすがに固辞しているところ。
ちなみに私がダイナムのアルヴァート様暗殺を未然に食い止めたことで、フリージア家は伯爵に格上げされ、当主のお父様も、次期当主のお兄様も忙しくしているようだ。
第二王子の婚約者ではあるが、悪魔を召喚した男の傍にいる聖女として幽閉に近い状態だった前世に対して、今世はカトリーヌ様・バレーナ様の侍女として幸せに過ごしている…これ以上ない幸せをつかんだ。
私、マリア・フリージアは、ダイナム第二王子に婚約破棄され、本当に良かった…心からそう思っている。
~fin...~
婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない 粟飯原勘一 @K-adashino
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