第11話 実は初期段階だと前半の話がメインだった
※注意
ここからはサッカー部のイケメンで正義感に溢れ性格もよいモテ男な間音小太郎君が初期段階で想定してた妄想となります。
我妻瑞貴は、宇和木祥子に告白されたがそれを断った。
しかし翌日には「フラれた腹いせに性的暴行を働こうとしたクズ」という噂が蔓延していた。
クラスメイトたちの罵倒に晒され涙する瑞貴。
彼には信頼する幼馴染が、仲の良い妹が、気の置けない姉弟子が、ぶっ飛びギャルがいた。
責められた瑞貴はまず幼馴染である音無梓にすがった。
「あ、梓……」
「みーちゃん、最低だよ。女の子に乱暴を働くなんて」
「違う、俺はそんなことしていない!」
「嘘吐き! みーちゃんがそんな人だとは思わなかった! もう二度と話しかけないで!」
梓は弁明を一切信じず離れていった。
今までずっと一緒にいたのに。こんな簡単に崩れるのか?
絶望する瑞貴に追い打ちをかけたのは結愛だった。
「我妻。このことは師範にもオレから伝えておく。道場には来るなよ」
「結愛……な、なんで、苗字で」
「名前で呼ぶなっ! お前の姉弟子だったなんて、思い出すだけでも恥ずかしい!」
「俺はやってないのに」
「……まだそんな卑劣なことを。お前には、武術を学ぶ資格なんてない」
唾を吐きかけ結愛は去っていく。
ギャルで性には寛容な藤崎瑠奈でさえ、当たりは強かった。
「うっわ、キモっ」
「るなちー」
「近寄んな、ゴミ男! あー、ないわー。もうキモいからどっかいって? てか学校辞めればー?」
美少女でコミュ力が高く人気のある瑠奈がそう言えば、陽キャ連中は右に倣えで瑞貴を責める。
学校に居場所はなくなり、それは家に帰っても同じことだった。
「どっか行ってくれません? 家の空気が悪くなる」
「雪乃まで、兄ちゃんのことを」
「あなたみたいな男が兄だなんて吐き気がする。同じ空気を吸いたくないです」
「なんで、みんな信じてくれないんだよ……」
昨日までは、かわいい女の子たちに囲まれて素晴らしい学園生活を満喫していた。
なのにたったこれだけのことですべてを失ってしまった。
今や瑞貴は学校で最底辺の、誰からも疎まれるゴミでしかない。
それを親しくしていた筈の梓たちが見下す。
「うーわ。こんな人と幼馴染だったんだぁ」
「梓姉さんはまだいいじゃないですか。私は妹ですよ?」
「女に乱暴するのも、泣いてんのもなっさけねぇ」
「もーどうでもいいよー、みんな遊びに行こ―」
そうして四人に見捨てられた。
代わりに、彼女達の傍には男らしいサッカー部のエース、間男小太郎の姿があった。
「音無さん……いや、梓。あんな奴のこと忘れて、俺の腕の中で眠りな」(キリッ
「小太郎君、素敵……♡」(きゅん
まずは梓。
幼馴染として長い付き合いがあっても、本当に魅力的な男を知れば簡単に体を預けてくる。雪乃も同じだった。
あとはじっくり結愛の魅力的な体を、美しい瑠奈の容姿がグズグズに蕩けるまで抱いてやる。
そう、我妻瑞貴が、あんな美少女と仲良くなれたのは単なるタイミングでしかない。
すべてが無に帰せば、当然のように彼女達は自分に惹かれる。
つまりは成功体験の話だ。
幼い頃から顔も成績もよく運動もよかった。他人にチヤホヤされるのが日常だった。
だから彼にとって「都合よくいくこと」は前提条件でしかなく、我妻瑞貴のような人間が持て囃される状況の方がおかしい。
自分が前に出ればごくごく自然に立場は入れ替わると、間音小太郎は一切の疑いなく信じ切っていた。
実際、妹である我妻雪乃はいともたやすく小太郎の誘いに乗った。
一緒に下校しながら、彼女は興味があるのか色々と質問してきた。
時折『先輩の家はどこですか?』だの『家族構成を教えてください』と『よく遊ぶ場所や友人は』と個人的な質問をしてくるので、ついつい気分がよくなって喋り過ぎてしまった。
だが、そのおかげで。
『確かに、私と兄さんは婚約者です。でもこんなことがあって、すこし不安に思っています』
なんて言葉を引き出すことに成功した。
ああ、なんて容易い。多少順番が違ってしまうが、この一つ年下の和風美人を食って自分好みに染めてやろう。
計画は上手くいっているはずだった。
……なのに。
いざ雪乃を誘い出し、色っぽい店の立ち並ぶホテル街に連れ出したはいいが、途中で現れた屈強な男性の集団に間音は絡まれた。
意味が分からない。
何も悪いことをしていないのに、どうしてこうなったのだろう。
妄想終了。
◆
俺が辿り着いた時には、既に間音くんは道場の皆さんに囲まれており、それを雪乃と結愛が眺めていた。
あれ、なんで結愛も?
「雪乃っ」
「に、兄さんっ……!」
声をかけると、振り返った雪乃が俺の胸に飛び込んできた。
そのまま抱き着き胸にすりすり。かなり怖かったのか、呼吸がかなり荒いし肩が震えている。くんかくんかすーはーなんてゼッタイしていない。
「大丈夫だったか?」
「はいっ。すみません、兄さんというものがありながら、あのような輩について行ってしまって……」
申し訳なさそうに雪乃は言うけれど、俺の「大丈夫?」には若干サカイケ君の無事を確かめる意味もあるのでこっちも申し訳ありません。
「あー、瑞貴。一応オレが付いているから安心しろ」
「結愛。これ、どういう状況だ?」
「そこは、なんと言おうか。ごめん、雪乃。説明任せていい?」
うまく順序立てられなかったようで、結愛はそのまま雪乃に丸投げした。
「では、私から。まず、間音先輩は今回の騒動の裏で、私たちに何度も接触してきました。顕著なのは梓姉さんにでしょうか。“君達は我妻に騙されてる。俺なら皆を大切にするし守ってやれる”。性犯罪者であることを隠して私たちに近付く兄さんなんか見捨てろ、という論調ですね。当然梓姉さんや藤崎先輩は激怒して取り合いませんでしたが、私は婚約者という立場だけに不安がある……という形で、間音先輩といくらか話をしました」
それが以前るなちーの見た、サカイケと下校する雪乃だったらしい。
というか婚約者をどこまで押すのこの子。
「私は初めから、ある程度の仮定をいくつか立てていました。今回の騒動が、単純に宇和木先輩の意趣返し。または兄さんの評判を下げるために仕組まれたモノ。他にもいくつか考えた上で、間音先輩のタイミングの良さに、狙いは私たちの関係性では……と踏みました。なので罠にハマったふりをして色々聞き出して、兄さんの名誉を回復させるだけの証拠を得ようと考えたのです」
「馬鹿、なに危ないこと考えてんだ。名誉なんてどうでもいい。そんなゴミみたいなもんのために雪乃が傷付いたら、俺はどうすればいいんだよ」
「兄さん……」
ぎゅっ、っとさらに強く雪乃が抱き着いてくる。
この子は俺のために無茶をし過ぎる。もしも、サカイケが仲間を集めてムリヤリ……なんて考えてたらどうするつもりだったんだ。
「瑞貴、そう怒んないでやってくれよ。雪乃も一応オレに前もって連絡して、ちゃんと自衛は考えてたんだし」
「そりゃそうかもしれないけど。もしもが合ったら、結愛だって危なかったわけじゃないか」
「そこら辺は、オレだって腕に自信はあるけど向こう見ずじゃない。だからさ、師範に相談したんだ」
うん、たぶんそっから話がおかしな方に転がったんだよね?
「……そしたら、な? 師範が“ウチの弟子の妹に不逞の輩がぁ!?”ってメッチャ怒ってさ。そんで兄弟子の寺島先輩が“安心しろ。我妻兄妹と綾瀬の敵は、俺の敵だ”とか言い出して、師範と先輩……桧木流の最大戦力二人が動き出すだろ? そしたら雪乃ファンの門下が“俺らのアイドルに上等かますやつなんざぶっ潰すぞ!”ってなって。その、瑞貴とオレが結婚したら桧木流安泰じゃね? とか言い出す奴まで出てきてさ」
「その結果、雪乃と結愛の護衛のために古流武術・桧木流一門が護衛についた、と?」
「………………うん」
「すっごいありがたいけどウチの流派ノリよすぎない?」
いや、ほんと助かったけどね?
にしたって過剰戦力が過ぎる。あとなにそのユメミズ勢。俺らそういうのじゃ一切ないんだけど。
「……まあ、とにかく状況は理解した。二人とも無事だってのも分かった」
「心配かけたよな。ごめん、瑞貴。でも本当にオレらは全然平気。ただ問題は……」
「放っておいたらサカイケくんがぶっ潰されるってことくらいか」
いや、うん。腹立つは腹立つけど放置はできないよね。
ということでガタイのいい男性陣に囲まれて怒声を浴びせられて半泣きどころか全泣き、それ以上に亡き者になりそうなサカイケくんのところに向かう。
「あのー、兄弟子がた? この度は雪乃のためにありがとうございます」
「おお、我妻! 待ってろ、いますぐこいつを詰めるから!」
「いや、詰めんでいいです。とりあえず、話をさせてほしくて」
「ん? そうか?」
渦中にいるのは俺だと分かっているからか、素直にサカイケ君を開放し差し出してくれた。
ただしみんな帰ったりはせず、それぞれ構えて変な動きをしたら一瞬で飛び出せるよう備えている。
臨戦態勢マッチョメンが待機するその中心で、俺とサカイケくんは向かい合う。
なんぞこれ。
「あっ、ひっ、あ、我妻……?」
「どーも、サカイケくん。宇和木さんから全部聞いたよ。俺を罠に嵌めて、梓たちを手籠めにしようとしたってところまで」
俺が冷たい視線を送ると、彼は怯えながらも噛みついてきた。
マッチョメンの筋肉も躍動した。
「うっ、うるさいっ! お、お前みたいなやつが、なんでハーレム気取ってやるんだっ。その立ち位置は、どう考えてもサッカー部のエースで、イケメンな俺の場所だろ!? なのに、なのに……調子こきやがって!」
「自己肯定感えっぐい」
それはるなちーも一緒なんだけど、この男の場合はただただ腹立つ。
「自分を高く見積もるのは良くても、他人様に迷惑かけるなってなるよね」
「何を偉そうに……!」
「偉いと思っちゃいないけど、君みたいなのに見下されるほどじゃないとは思ってるよ?」
なんて言いながら散歩するような気安さで近付いていく。
そうして至近距離。そのムカつく顔面に狙いを定め俺は腕を振り上げ…………血が出るくらいまで握りしめた拳を、そっと優しく結愛に止められた。
「やめとけ、瑞貴。冤罪とはいえ、ただでさえ問題起こしたみたいになってるんだ。暴力事件なんて今度は退学になってもおかしくない」
「結愛……」
心底俺を心配して、そう諫めてくれる。
彼女はどこか慈愛というものを感じさせる、柔らかな微笑みを見せた。
「やるんなら跡が残る顔じゃない。ボディにしとけボディに」
「うっす!」
「がぁぁぁぁあぁぁ!?」
素直に頷いてサカイケくんに、ぼでぃぶろー。
ひらがな表記にすればなんか可愛らしい感じで許される気がする。
「おかっ、おかひい……⁉ 今の、完全にやめ、やめる流れだったのに」
「そんな流れ全然ないですが?」
「おまっ、正気かよ……!?」
変なものを見るような目になるサカイケ君。
それが妙に面白くて、俺は声をあげて笑ってしまった。
「あっはっはっ、サカイケくんってば面白いなぁ。だってさ、お前。俺の大切な人に手を出そうとしたんだろ?」
同時にサカイケ君の首を掴み、親指で喉仏を押し込む。
呼吸ができなくなってもがいているが気にしないの精神でさらに力を籠める。
「“正気か?” おいおい、変なこと聞くなよ。なんで梓たちに手を出そうとしといて、正気でいてもらえると思ってんの?」
そんなもんとっくにかなぐり捨てていますが?
もちろん俺だって退学はしたくないから怪我はさせない。
代わりに腕の筋、肘、肺や関節。痛苦を与えても跡が一切残らないところを攻めに攻めて、産まれたことを後悔させてやる。
……なんて思いながら、ちょっと凄んだら一気にサカイケ君は脱力した。
なんというか、傲慢な態度に隠れていただけで、本質的には気弱なタイプだったのかも。
俺の睨み付け程度で怯えて、お漏らしまでしていた。
さすがにこれ以上打ち据える気にはならなくて雑に手を放す。そのままへたり込んでしまったサカイケ君は、涙目で俺を見上げていた。
「……間音先輩」
いつまでも動けないでいる彼の下に、雪乃が歩み寄った。
静かに見つめるその瞳はいったなにを想っているのだろう。
少なからず時間を共にしたのだ。情のようなものが沸いたのかもしれない。
そう考えると、ちょっと寂しい。
「ゆ、雪乃、ちゃん……」
たどたどしく名を呼ぶサカイケ君。
それを受けた雪乃はたおやかに、目じりを下げた。
「気安名前を呼ばないでもらえますか、気色の悪い」
柔らかな表情から飛び出てきたのはめっちゃ辛辣な言葉だった。
「宇和木先輩は明確に名誉棄損ですが、間音先輩は微妙です。兄さんの悪評を用いて私たちを口説いたことを、なんらかの罪に問えるかと言えば、正直難しいでしょう。宇和木先輩から自白を得られなかった場合、関与を明らかにするのも手間です。なので貴方と色々お話をさせていただきました。おかげで住所、家族構成、交友関係、普段行く場所等々粗方知ることができました。もしも今後兄さんや私たちに不愉快な介入をしてきた場合、貴方の発言をいつでも流せることを留意していただければ幸いです」
雪乃は手の中にあるボイスレコーダーを見せつけ「これが心ならずも貴方と行動を共にした理由です」なんておっしゃった
つまるところ、生活圏を知って弱みを握って、外面のよいこいつの日常をぐちゃぐちゃに出来るよう準備を整えるのが目的だったらしい。
「あ、ああ……」
好かれている、とでも思っていたのか。
そこで心の支えを完全に折られ、サカイケ君は自分の作った小便の水たまりにうずくまった。
周りの桧木流門下の皆さんが「俺も殴っていい?」とか聞いてきたけど空気読んでください定期。
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