old tales.7  始まりと終わり

 力を伝承し、生きていた印を残す。

世界に存在していたことが子に、孫に、大切な人たちにとって良い思い出になるように。

思い出に浸って、生き抜いたことが関わってきた人たち全員に幸せになるように。


 最初は、脆く軟弱だ、だから早死にする。と蔑まれても、ふと思い出されることがあって、そして、修行に出る。


「負けているところは無かった。だが、あいつも悪くはなかった。」

 

 それでも何かを思い出しては剣を振る。術を練る、意識を高める。

 もちろん誰とも関わらないものもいる。だからといって、何も思わないことはない。挑まれて、勝負に勝つということは、敗者とはいえ、そのもののを奪うということ。それなりの責任が伴う。

 故に、世界は繋がって出来ている。


 そして、それは唐突に訪れる。それぞれの限界点が無慈悲にも突然。

 声をそろえて言う、

 『間合とは、こういうことか。』と。

 

 すべての型、術の根底。相手との距離から実力的な差まで、技を少しかじる程度でも、誰でも感じるそれが始まりである、と。行き着いた者も口をそろえて、納得した顔で記す。残す。


 階級で区別されて、鍛錬を積んだことは無駄にはならない。その言葉だけを信じて、何万もの犠牲の上に立つ者だけが真実ほんとうを知ることができる。

 間合を見る。予知ともいえるかもしれない。ただそれは考え方を変えればしようとすることはできる。それに見合う器は、成りあがった者でしかない。ただそれだけのこと。常人とそれ以下は起こったことにも気づかないうえに、すぐに現状に適することしかできない。無意識で”している”のではない、させられている、手のひらで無様にも転がっている。

 

 すべての常識を捨てる、概念から抜け出す。時間を自分で創りあげる。


 お師匠は、ある日そう言った。


 幸運にも気付くのにそう時間はかからなかった。


 誰よりも最初にその境地に辿り着き、モノにした。


 この場所で、ということは忘れないでおく。


 きっと、このイレギュラーな場所でしかいまだ使えないだろう。


 




 あの日のようにお話をさせてもらっている、この身を助けてもらった上に感謝の言葉も言い尽くせない。

 今、私の前には両目を失い、片腕片足も無い。残った腕もひじから下はぶら下がっていない。骨と皮の間には何も残っていないかのような老婆に仕えている。語る者、どこの国にいようが伝わるその単語で称されているこの御方の継承で忘れ去られずに済んだ偉業の数々は数えきれない。確かに、残るだろう。すべて残すべきものを確かに残す。それが残された者の、生きている者の仕事。


 それを、多少になるか分からない。今から私が壊す、


 1秒先と、1,1秒先の存在する空間。どれだけ鍛えようが、技を鍛えようが、術を鍛えようが、型を鍛えようが、日が昇って沈む生活の基盤を覆せない限りその空間に辿り着くことはできない。さらに言えば、これを今はないあの均衡の世界以外で使えば何もかもが無に還るだろう。

 語る者、からのお言葉を、脳が、私が理解するのに40日ほど要した。気付いただけではやはり、立ち上がることはできなかった。



 「抗えない、それが運命。

生きて死んで責任を果たす以前に、運命があるから存在する我々が生きているのは、言うまでもなく運命のおかげじゃ。

 その運命が『生きる』、そう、私はただそれだけの人間。

 私がいれば対が存在するのは世の理だろう。

 まもなく、対が生まれる。

 私を殺せ、公平に、公正に、平等に、生きる権利は、ある。

 誰にでも、ある。

誘え、境地へと。」




-現世へと降り立った日-


 そして現在、都合よく歴史を塗り替えた。

本のページをたった一枚だけ、

すぐに消し去って何もなかったかのように、精密に、偽装した。


 手始めに、この大陸全範域に濃霧を発生させた。

これ自体難しいことではない。

空気だけでない、すべては繋がっているのだから。解れず、失われない限り雨を降らすことだって、濃霧だって作り出せる。1秒と、1年ほどの空間から引き出すものをうまく使えれば、自然だって動かせる。

 このは神域にも達している、まごうことなき魔術。

 先人らが、それをどう発動したかはわからない。

 私のは真似事なのだろう、確かにものの、創り出した変化以外何も起こらないのだから、きっと真似事だ。本来足場を見ることもできないはずの場所。


 そして、その領域をずかずかと侵して、歩いていく。

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