old tales.6 旅
※9月27日 誤字+一部改正
「混乱、していないんですね
私の見解では...いえ、今はよしとしますか
てっきり本当に何も分かっていないのかと不安にも感じていたのですよ、
やはり、何十年と長い間生きる人と関わらないでいると相手が何を考えてるのか、分かりかねませんね」
振り返ると、ペテロダがそこにいた。
不機嫌というのか、少し安堵しているのか分からないけれど、頬杖ついてこちらを見ている。
初めて声を聴いた気がした。
---ペテロダ目線---
今回は私の番、やっとというべきか、嬉しいということには間違いない。
ただ、不安なことももちろんあった。なにせ久しぶりに現世へと降りるうえ、
失い、忘れ去られていた術を使う。
不安な要素はぬぐい切れない、それは常に心の中で反芻していた。そしてなにがきっかけで忘れ去られていたのかも、理解しているつもりでいる。
『クロノ-キアクロ』
かつての世界は絶妙なバランスで保たれていた。
ヒト族、
いくつもの種族と、土地が、世界が互いの均衡を保っていた。
もちろん争いも、平和を求める声も、最強を敬い畏れることも、生きていればどこでだって起こることが当たり前だった。
いわば、当たり前が当たり前で、それがどうして成り立っているかを理解できている空前絶後の世代。
戦うための古武術や剣術、槍術から魔術はいつしか護身や、低級魔物の討伐と言った生温いお遊びの道具へと成り下がった。どこの兵に所属しようが、実践は来ない。冒険に出ようが、敵に王はいない。強大な敵はどこにもいない。
もう信念をもって、鍛錬するものはいない。
過去になってしまった、その過去に存在していた者たちはみな、もうこの場所にはいない。例外を除いて皆死ぬのが生きてきた者の最後の仕事だ。
力を伝承し、生きていた印を残す。世界に存在していたことが子に、孫に、大切な人たちにとって良い思い出になるように。思い出に浸って、生き抜いたことが関わってきた人たち全員に幸せになるように。
最初は、脆く軟弱だ、早死にする。と蔑まれても、ふと思い出されることがあって、そして、修行に出る。負けているところは無かった、それでも何かを思い出しては剣を振る。術を練る、意識を高める。
もちろん誰とも関わらないものもいる。だからといって、何も思わないことはない。挑まれて、勝負に勝つということは、敗者とはいえそのものの時間を奪うということ。それなりの責任が伴う。
故に、世界は繋がって出来ている。
そして、それは唐突に訪れる。それぞれの限界点が、無慈悲にも突然。
声をそろえて言う。
『間合とは、こういうことか。あいつとの違いはこれか。』と、
すべての型、術の根底。相手との距離から実力的な差まで、技をかすめる程度でも誰でも感じるそれが始まりである、と。行き着いた者も口をそろえて、納得した顔で記す。残す。
階級で区別されて、鍛錬を積んだことは無駄にはならない。その言葉だけを信じて、何万もの犠牲の上に立つ者だけが真実を知ることができる。
間合を見る。予知ともいえるかもしれない。
ただそれは考え方を変えればしようとすることはできる。それに見合う器は、成りあがった者でしかない。ただそれだけのこと。
常人とそれ以下は起こったことにも気づかないうえに、すぐに現状に適することしかできない。無意識で”している”のではない、させられている、手のひらで無様にも。
すべての常識を捨てる、概念から抜け出す。時間を自分で創りあげる。
ある日そう言った。
だから、誰よりも最初にその境地に辿り着き、モノにした。
それが意味、な気がした。こうすることが、生きてきた意味なのだと。
(少しすれば勘違いにも気づくけれど。)
この場所でできた、ということは忘れないでおく。
このイレギュラーな場所でしかいまだ使えない。きっと。
あの日のようにお話をさせてもらっている、この身を助けてもらった上に、感謝の言葉も言い尽くせない。
今、私の前には一人の老婆がいる。
両目を失い、片腕片足も無い。
残った腕もひじから下はぶら下がっていない。
骨と皮の間には何も残っていないかのような老婆に仕えている。
一人だけど、独りじゃない。彼女は多くの者を背負っている。
語る者、
どこの国にいようが伝わるその単語で称されている。
この御方の継承で忘れ去られずに済んだ偉業の数々は数えきれない。確かに、残るだろう。すべて残すべきものを確かに残す。それが残された者の、生きている者の仕事で責任だ。
結局、案外と言うべきか、生きているだけでも大変で、偉いのだ。
今になってようやく、本当に分かった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます