old tales.5 夢と一生懸命
※9月27日 一部改正
「ペテロダ様、私に”教えて”くれませんか?」
大きな木ができたのは良いものの、あまり効果はなかった。
というより、すでに時間が経ちすぎていた。
自分が気になっていた時にはすでに宿舎の素材の木材は、連日の雨で駄目になっていたようだった。
大きな木を生やしたように、宿舎も直せるのではないかと尋ねると、意外にも首を横に振った。
宿舎が駄目になってからというもの、講堂でみんなで川の字になって寝た。
別に定位置があるわけではないけれど、きまってペテロダが隣で眠りにつく。
夜になると雨の降る音が、地面や屋根に打ちつく音が心地よくて、眠りに就くのが今までとは違って遅くなっていた。
一日が過ぎて、実際には見えないけれどまた日が沈んで、眠りにつく。その日に夢を見た。
打ち付けられる雨粒の一つ一つが、落ちていくときに引き伸ばされる。
水の粒が形を変えて、地面で溜まっていって、街全体が海に浮いているような風景が広がる。
曇っている空が汚いとは思わない。
雨雲はときに薄みがかった鼠色で、
ときに黒く、激しい雨を引き起こすけれど、雲が消える気配はない。
なぜかそこに当たり前を感じる。今までの時間よりも、ここ1年が重要に思えた。
目に見える限り広がる空は常に雲で覆われていた。
はっ、と目が覚めたような感覚がしたけれどまだ自分は眠りについている。
雨が降って、
降る雨は、水は引き伸ばされて、
地面を埋め尽くして、
水を張って、
そこには小舟が通っている。
講堂で眠る自分の近くにも、
雨が降って退屈している子供たちの周りにも、
雨が降り始めたころにも、
どこに行ってもペテロダの姿は見当たらない。
必死に思い出そうとして、必死に探し出そうとして、何度も何度も見続けているけど、そこにあるのは蒼い蝶がはたはたと跳んでいる姿だけ。
そして、
また雨が降って、
心地よい風が吹いて、
本を読んで、
学んで、
今日はどれだけできたかな、
とか、学校には行けるのだろうか、なんて考えて、また眠る。
その間にも、また雨は降っている。
雨のにおいと、心地よい風と、雨粒がぽたぽたと音を鳴らして。
時にザーザーと、降り注いで、私たちは生活している。
キーンと音が響いた。
講堂にある聖遺物が発した音ではない。
そして思い出したようなこの感覚。
この広がる景色。どこか似た雰囲気を感じる、あの日のような。
自然とペテロダを探す自分がいる。
きっとどこかにいるだろうと探している自分がいる。
目の前に広がるのは見たことのない木でできた森。
一歩足を踏み入れるとそこは緑で囲まれる世界になる。
空気感が違うような気がした、何気なく吸う空気がいつもとは違う。
雨が降り始めてからのいつもの空気も違うけれど、これはもっと、なんか、体中に空気が巡っているような。
そしていまも雨音は続いている。
ぽつぽつと、屋根に打ち付ける音。
路を通っている音。
空気を通る雨の音。
そしてその雨はきっと、きっと。
ペテロダを引き合わせてくれるだろうと、
あの日のように蒼い蝶はどこにでもいるのだから手を伸ばせば掴んでくれる人がいるだろう。
森へと足を踏み入れた。
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