old tales.3 誘い

  何も考えずにその世界へ手を伸ばした。

目の前に広がる不思議な光景を確かめるように、手を伸ばした。

何かをつかめるわけでもないのは承知の上で、ただまっすぐに。

 その手を伸ばす姿は、一人の幼い子供のように見えていたのだろうか。

隣で見つめている大きな影には目もくれずに、正面にある人の姿が視界には大きく映っていた。

 

«初めまして、握手とは随分とよくできた坊ちゃんですね»


 にこりと笑って手を差し出してきた。それは僕の手を確かに握って、少しだけ上下に動かした。


 霧が、瞬く間に晴れた。

あたりには水面が広がっていて、自分が立っているところだけが波立っている。

頭に響くような、そのきれいな声に魅了されて、考えることをやめていた。


ここはどこだとか、あなたは誰なんだ、とか、そういった不純なことに、余計なことに時間を割くのは勿体ない。

 何かが起こるのを待った、ただ、ひたすら。実際にどれだけの時間が経ったのかも分からない。


手を握られている感覚だけを頼りに、少しでもここに居続けようと思った。

 同時に、何もせずにその場に居続けるのが難しいことだとも痛感した。


 初めてこの場所に訪れたのは、私が10歳のとき。

そのときは、自分がどのような態勢でいるのだろうと考えてしまった。

すると、今まで塞き止めていた物が溢れかえって、

 気付いた、というより最初から何もなかったかのようにそこに”戻って”いた。


 ニコッとした笑顔でいたその女性...?は今日からここで暮らすのだという。

それがしきたりで当たり前なのだと教わった。

 すんなりと受け入れられているけれど、どうしても腑に落ちない所があった。

それがどこなのかは分からずじまいなのだけど、

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