old tales.2 出会い

10歳の日

 あだ名はしっかり浸透していた。

 もともと言い返す気もないくらい気にも留めていなかったけれど、どこかしっくりくる呼び名に愛着が沸いていた。

 きっかけは飛んできた蝶だった。

 いつものように本を読み漁っているとき、違った種類の大きな声がいくつも聞こえた。

 次第に自分以外にも興味を持っていた自分の好奇心を抑えるということがその時はまだできなかった。

本を読んでいるときに話しかけられはじめ、人との距離はだんだんと近づいていた。

 部屋から出て、廊下を歩いていくとたくさんの声が近づいてくる。小さな頭の痛みに顔をしかめながらも歩いていった。見慣れない青の翅を持つ蝶に人だかりができていた。

 

 初めて雨が降ったのは10歳になって間もないとき。大人たちがバタバタとしているときに雨は降り始めた。

 雨が降ると朝には深い霧がかかり、日中は雲が空を埋め尽くして、4つか5つの日に太陽が見えるも雨は降ったままだった。


 生まれて死ぬまでの間に、雨が降るときには必ず、エピスケピン≪来訪者≫が人の住む場所に、その雨が止むまで何かを運び続ける。

最初の雨は突然だった。

前触れもなく空が暗くなっていって、葵い蝶に向けられた目は空へと離れていった。するとぽつぽつと顔に水が落ちてきて、どこか心地良い初めての雨が降り始めた。

 その日、いつも読んでいた本が開かれることはなかった。


 翌日、葵い蝶は霧と人影とともに再び現れた。

 体に疲労感が残って、なんとなくいつもより寝た時間が少ない気がしていた。

それでも目が覚めてしまったから、いつものように講堂へ歩いた。

 左手にはいつもなら見える景色が、今日はすぐそこの地面も見えないくらいに真っ白だった。

外に出ると飲み込まれてしまいそうな光景に、しばらくの間体を止められた。

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