第1話「5年間の想い」
「いよっしゃぁぁぁぁぁ! ついにレベルが100になった!!あの
湧き上がった歓喜を斧に乗せ、目の前の薪へ振り下ろす。
幾度となく繰り返してきた日課も、気持ち一つで最高のアトラクションに早変わりだ!!
「あぁ、なんて清々しい気分なんだ。斧を持つ手にも力が入っちまうってもんだよなぁ、そいやっ!!」
俺が11歳の時から取り組み、5年の歳月を経て達成した目標。
それは『自分のレベルを100にして、村の外へ出る許可を貰う』ことだ。
「ほほほ、『ユニク』よ。村の外に行ってみたいとな?じゃが、まだまだ弱すぎるのぅ。だから『レベル100』じゃ。お前さんのレベルが100を超えたのならば、その時に村の外へ連れて行ってやろう」
そんな約束を交わして、5年。
毎日コツコツコツコツ……、薪を割り続け、ついさっき念願のレベル100に到達した。
「これで俺はナユタ村で最強。どんな動物も怖くない!!とぅ!!」
周囲一面が大自然に囲まれた辺境の村、『ナユタ村』。
幼くして此処に預けられた俺は、村から出る事を禁止されている。
その理由は凄く単純。
どうやら、村の外にある森には、凶悪な獣がウロウロしているというのだ。
「なんで森に行っちゃダメなんだよ、じじぃー?」
「今のお前さんが行っても、瞬殺されるからだのぅ」
「瞬殺されんの!?」
そんな暴言を言われ続けた俺は、鍛練と称した薪割りを始めた。
いつの日にか来るであろう狩猟生活を夢見て、自分のレベルを鍛える事にしたのだ。
―レベル100―
俺の近くに表示されている『レベル』とは、『人生経験を数値化したもの』だ。
そして、この数字が高ければ高いほど、様々な経験をしている事になる。
つまりレベルとは、『その生物がどんな経験をしてきたか=戦闘力を示す指標』なのだと、
「あぁ、目に映るレベル表記が3桁もある……。なんてカッコイイんだ……。そいやっさ!」
そんな訳で、レベル100は凄い事だ。
なにせ、村最強の
最早、桁が違うレベルとなった俺に、文句を言えるはずがない。
……って言っても、そこまで不遜に振る舞うつもりもない。
身寄りがない俺を育ててくれた恩だってある訳だしな。
だけど、今日くらいは馬鹿みたいに喜んでても罰は当たらないだろッ!?
「このレベルを村長に見せて許可を貰い、そして――!……っと、その前に薪割りを終わらせねぇと」
今日は、何の変哲もない普通の日だった。
だからこそ、いつも通りに薪割りを始めて……、ふと気になって、自分の腕に視線を落としてレベルを確認。
すると、レベル表記が99から100へ変わっていた。
レベルには何気ない日常で得る経験も加算される。
朝起きる、飯を作る、食う、薪を割る、昼飯を作る……、どんな些細な経験もレベルに貢献しており、こんな風にいつの間にか上がっているものなのだ。
「このハイテンションのまま、一気に終わらせる!行くぞッ!!そいッていッおらァッ!!」
まずは中途半端な薪割りを終わらせるのが先だ。
村長の性格を考えるに、「薪割りすら終わらせられん奴に、許可を出す訳がないのぅ。ほほほ」って言われるに決まってる。
残り少ない薪を見据え、昂ぶった想いを斧に乗せる。
毎日毎日、朝起きて飯を食い、薪を割って飯を食い、ちょっと読書をして寝るだけの日々はもう――、飽きた。
「まだまだ行くぜっ!!うしッ!せいッ!うおりゃあッ!!」
掛け声に合わせて斧を振り下ろし、薪の山を積み上げていく。
いつもより散らかっているが気にしない。
むしろ、もっと散らかしたい気分だぜ!!
「ぶっ飛べ、薪ィッ!!……あっ。」
……。
…………。
………………、すげぇ良い音がしたな。
明らかに薪じゃないものが折れたっぽい。
恐る恐る視線を落として見ると、そこにあったのは刃と持ち手の繋ぎ目が無残に折れた斧。
調子に乗った矢先に折れるとか縁起でもねぇ……、いや待てよ?
これは斧からの祝福じゃないのか?
「今日からは薪を割る生活では無く、外の世界へ出掛けなさい」と言ってくれているに違いない!
「行くぞ、こんな事もあろうかと用意していたスペアの斧!うおりゃああああ!!」
自宅から別の斧を持ち出し、意気揚々と薪割りを再開。
それからは順調に進んでいき、そして、ついに最後の一本。
コイツを叩き割れば、俺の世界が劇的に変わる!!
「――お前で最後だぜ、薪。俺の全身全霊を掛けた最強の技で葬ってやる。くらいやがれッ!《
自分の赤い髪よりも高く斧を振り上げ、落雷の如く振り下ろす。
それはまさに電光石火。
目にも止まらぬスピードで空気を切り裂き、一直線に薪へ直撃。
バキィィィィィッッ!!という派手な音を立て、最後の薪が爆砕した。
そこに取り残される俺。
ちょっと痛々しくても問題ない。俺は村最強だからな!
……。
…………。
………………誰も見てないよな?
うん、見てないな。よし。
本日最大の手応えを感じつつ、切り株に突き刺さった斧を見下ろす。
案の定、薪は跡方も無く吹き飛んだようだ。
そこにあるのはスペアの斧と、5年連れ添った相棒の切り株……。
「相棒がッ!真っ二つなんだけどッッ!?!?」
目の前に残されているのは、無残に両断された切り株だ。
どうやら俺の必殺技は、親しみを覚えつつあった相棒まで破壊してくれたらしい。
うっわぁ、流石にこれは不吉すぎる。
……が、こういうのって気持ちの持ちようだよな?
ここはポジティブに行くぜ!!
「ふははははは!俺は強大な力を手に入れてしまったようだ。見ろ!この無残に破壊された切り株を!!」
だめだ。小物臭が半端じゃない。
ぶっ壊れた切り株を自慢するって、馬鹿なんじゃないのか?俺。
「なんかスッキリしない終わり方だが……、まぁいいや。そんな事より
そろそろ独り言も痛々しくなってきたし、さっさと
あ、そうだ。ついでに拳も叩き込んでおこう。
長年のストレスを忘れた訳じゃねぇぞ、
「ん、そういえば……」
散らかった薪を拾い集めている内に、ふと、かつて抱いた疑念が頭をよぎった。
『レベル40~50しかない村の人達が、何の問題もなく狩りに行ってる』という違和感。
幼い頃から不思議に思って確認してみるも「レベル100にならないと危険」と言われ続け、いつからか「ほほほ、見識に差があるからのう」なんて、お茶を濁されていた。
……見識の差?技量ってことか?
まぁ、そんなものはどうとでもなるはず。
煌めく包丁でジャガイモを裁く隣家のお姉さんでさえ、レベル70。
俺よりも、30レベルも低いのだから。
**********
「やっと、やっと……。見つけたっ!」
風が揺らめく丘の上。
歓喜に奮える少年を見下ろしながら、少女がポツリと呟いた。
その少女の雰囲気は冷淡で大人びていて、しかし、幼さの残る顔つきで、感嘆に打ち震えている。
幾年月の旅の果て、偶然に辿り着いた村での邂逅。
その奇跡に胸が高鳴る少女は「ほうっ」と息を吐き、想いの籠った熱い視線を薪割り中の少年『ユニクルフィン』へと向けている。
そして、じっくりとその行動を眺めた後、ほんの少しだけ大きく空気を吸った。
「《
鈴のような声で少女『リリンサ』が魔法を唱えると、その存在がゆらりとブレて消える。
それは、高位冒険者のみが扱えるという空間転移の魔法。
目視している場所へ物理法則を無視して移動する、一握りの魔導師に許された偉大な魔法だ。
そうして、リリンサの周囲の景色が移り変わった。
切り立った山頂から、ユニクルフィンが住む村の入り口へと。
**********
「ふざけんな、
スペアの斧を背負いながら、一心不乱に
約束の条件を満たしたと報告し、一人前の証明として狩りに出る。
そして見事に獲物を仕留め、華やかな外出デビューを飾ってやるぜ!
……って思っていたのに、
普段いるはずの公民館や
ふと思って、家の下とか屋根の上とかも確認するが、やっぱり居ない。
あんの野郎、こんな大事な時に何処に行きやがった?
いつもなら居るだろ。そこら辺に。
だんだんと激しい感情が湧き始めた頃、ついに
村の入口に立つ二人の人影。
ショボくれた
「なんだよ、客が来てたのか。そりゃしょうがないよな。……って、えっ?」
見慣れた
問題は少女の方だ。
俺が近づくにつれてハッキリと見えてくる、見慣れないもの。
少女の横には、ありありと神聖な数字が浮かんでいた。
そしてその数字こそ、俺が求め続けていた3桁のレベル表示だ。
「なん……だと……?」
思わず呟いてしまったのは、目にしている物が信じられなかったから。
だがそれは、紛れもない事実。
神の造りしレベルの概念に、間違いなんてものは存在しない。
生物が持つレベルを確認するには、対象に視線を合わせ『レベルを見たい』と念じればいい。
実際、自分の腕に視線を落とせば、しっかりと『―レベル100―』と表示されている。
これは俺だけでなく全ての生物が見れる光景で、どんな生物であろうと、生きている限り必ずレベル表示を持っている。
だが、普段は見る必要が無いし、非表示で生活をするのが常識だ。
だけど、浮かれまくっていた俺はレベル目視を起動したまま颯爽と走り出した。
……我ながら、ホントに馬鹿だと思う。
そうして意図せず、その少女のレベルが目に入ってしまったのだ。
そして。
―レベル484―
その少女のレベルは、今まで見たことがない程に高かった。
この村最強となった俺よりも、圧倒的に格上の存在。
少女のレベルは『484』。
俺よりも4倍以上も強い、だと……。
「おや?」
「んっ……!」
そんな事実を知り茫然としていると、
……にも関わらず、お互いに向かい話し出す。
つまり無視だ。
レベル二桁の癖に良い度胸してるじゃねぇか。
「こんな辺境の村に、よくぞお越し下さいました。『
「うん、ありがとう。本当に長い旅だった。……感動で身体が震えそう」
見たこともない
これはたぶん、全力の営業スマイルというやつだろう。
とても恐ろしい雰囲気を醸し出している。
そして、見たこともない少女も、とても朗らかな笑顔をしていた。
本当に嬉しいことが有ったんだろう。
整った顔立ちが太陽に照らされ、柔らかい頬笑みから優しげな雰囲気が溢れ出している。
その少女の背は俺よりも小さく、160cmも無いだろう。
キラキラと輝く刺繍が施された白いローブは体よりも大きくて、ちょっとだけ幼く見えた。
そんな薄蒼色の髪を持つ少女は、日の光に照らされた頬をうっすらと赤く染めて、とても綺麗な――、ってそれはそれ、今は自分の事に集中しよう。
「
「して、
……完全に被ったな。
いや、待てよ?
今のは……。
「私の任務は2つある。1つは、ここら辺に出る危険動物の駆除依頼の実行。もう1つは人探し」
よし、今だッ!
入念にタイミングを見計らい、気合いを入れて声を出し――。
「聞いてくれ!ついに、お――」
「ほう!確かにこの地域には危険動物が数多くいますな!なにぶん山や滝なども近く、野生動物が豊富でして!」
再び、
……この野郎、分かっててやってやがる!!
普段は「ほう!」とか言わねぇだろッ!!
そこから先は、言葉での戦い。
しかし、
「なあ、レベル――」
「儂が駆除を要請した危険動物は『
「違う。そんな雑魚の依頼は私の所には来ない。もっと大きいやつ」
「俺、レベ――」
「やや!もしや、村の裏の滝の……?」
「うん。先回りして見てきた。割と大きかった」
「頼むよ聞い――」
「そうでしたか、我が村も奴が現れてから水産物が取りに行けなくて困っていたのです。助かりますじゃ」
「それじゃあ、さっそく行「話を聞いてくれッ!」」
あ、しまった!少女と被っちまった!!
心の中で申し訳ないと思いつつも、この沈黙は絶好のチャンス。
このまま話を聞いて貰おうと、俺は口を開きかけた。
……。
…………。
………………
いや、
物語小説に登場する鬼のボス的悪役――、『
うん、ヤヴァイ……。
すうぅ……。と息を吸い始めた
こんな生物を、俺は見たことが無い。
「ウルッッッサイわ、この、小ワッッパが!レベルが100になったくらいでギャアギャア騒ぎおって!!世界を守護する
クワッ!と目と口を見開いた
ひぃぃ!滅茶苦茶、怖ぇぇぇぇ!!
「いや、ちょ、まっ……」
「誰が待つか、小僧!!家に帰って薪でも割っておれ!!」
ちゃんと割ってきたんだがッ!?
なんなら斧と切り株も割ったぞッ!!
「村長、いい。彼が私に対して行う全ての非礼を許す」
……よかった。助かったし、正直怖かった。
あんな顔で怒鳴らなくてもいいだろ!!
「すまんな、助かったぜ! それでさ、
「はん、レベル100ぐらいで意気がりおって。まだまだ未熟過ぎて、尻から溜め息が出そうになるわい」
「……。」
予想の上を行く凄まじい暴言を吐かれたせいで、なんの反応も出来なかった。
自分の語録の無さを呪いつつ、なんとか反撃の言葉を探していると、再び少女が口を開く。
「村長、彼がした私に対しての非礼は許すと言った。……けど、彼に対しての侮辱は許さない。これは、警告」
少女は綺麗な顔立ちを崩さないまま、たったの一言で
その言葉から発せられる闘気は、並の経験から得られるものじゃなさそうだ。
これが、レベル484の威圧か。
可愛らしい顔立ちなのに、すっげぇ怖い。
怒り狂う小動物って、こんな感じだろうか。
「ハッハッハ、すまなかったですじゃ、老いぼれはすぐに熱くなってしまうのですじゃ、さて、レベル100になったか、さてはて、どうしたものか……」
「私もちょっと気になっている。その年齢でレベル100はとても凄い。見たことがない」
おい、
そんなキャラでもないくせに!!
だが、少女のおかげで、やっと真面目に取り合って貰えそう。
しかも少女が言うには、レベル100は凄いらしい。
そうだといいなと思っていたが、俺はもしや天才だったのか!?
……って、目の前の少女のレベルが484もあるんだが?
「いやいや、キミこそ凄いレベルだよな!どうすれば、そんなに上がるんだ?」
「私は特別な経験を数多く行っている。でも、あなたも直ぐに、このくらいになれる」
動揺を悟られないように、何でもない風を装って質問をしてみる。
そして、少女は嬉しそうに答えてくれた。
……そっかー、直ぐにレベル484になれるのかー。
レベル100になるのに5年も掛ったんだけどなぁー、はははははー。
その規格外さに思わず笑ってしまうと、少女も笑顔を返してくれた。
あぁ、笑うと凄く可愛い。
横のレベル484という数字は見ないようにしよう。
「で、どうなんだよ?
「うむ、
「そういうことなら、彼のレベルが100になったお祝いも一緒にやろう。私の故郷では大事な記念日として扱う」
「ということで、ウマミタヌキ10頭よろしくじゃ!」
あっ。と言う間もなく、村の外に出られる許可が下りた。
……しかし、待って欲しい。
自分のお祝いを自分で用意するのは、なんか違う気がするんだが?
「まあいいや。見てろよ
「ほほほ、1時間も"保った"ら誉めてやるわ(笑)」
「……なんだその含みのある言い方。タヌキなんて簡単に獲れるんだろ?」
「そうじゃな。少なくとも儂は獲れるのう(笑)」
その言葉に違和感を覚えつつ、ニヤニヤ笑う
村の入り口の先に見える未来。
そこは輝かしい栄光に――、ん、腕を捕まれた?
「ちょっと待って欲しい」
「どうしたんだ?」
「《
体が温かくなる感覚が押し寄せ、直ぐに消えた。
……なんだ今の?
不思議な感覚だなーと思ったが、今は村の外への興味で頭が一杯だ。
そのまま少女の横を通り過ぎ、木枠が突き立てられているだけの村の入り口を潜り抜けた。
「よし!じゃ、行って来るぜ!」
「うむ、せいぜい気をつけるのじゃぞ」
「頑張って」
こうして俺は、村の外デビューを果たした。
待ってろよ、タヌキ!!
直ぐに捕まえてやるからなッ!!
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