ユニーク英雄伝説 英雄を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?

青色の鮫

第一章 ユニクとリリンとタヌキ

プロローグ「絶望、その名はタヌキ」

『ウマミ・タヌキ』


 コイツは村の近くでたくさん取れる小動物で、とても素敵な奴だ。


 その肉は、焼けばジューシィーな肉汁が滴り落ち、煮ればホロホロとトロけてお年寄りにも大人気。

 他にも、『蒸す』『燻す』『揚げる』と無限の可能性を秘めた村の特産物。

 しかも、食えない毛皮は保温性が高く敷き物の材料になり、余った骨すら包丁を研ぐのに使えるという素晴らしい小動物。


 俺も、焼きタヌキと揚げタヌキは大好きだ。

 サクサクッ!ジュワッ!!って美味いんだよなぁ……。


 ……。

 …………。

 ……………そう思っていた時期が、俺にもありました。



「どうしてッ!!こうなったぁぁぁッッ!?」

「ヴィギィー!!」



 順風満帆だった俺の人生に唐突に降って湧いた、抗いがたき絶望。

 ソイツは鋭い牙を生やし、尖った爪を持ち、獰猛な眼を光らせ、ふわふっわな茶色い毛に身を包み、そして……足が短い。

 そんな雄々しきタヌキが、全力で村へ逃げ帰る俺を追いかけて来ている。



「こっち来んなッ!!俺が悪かったから、謝るからッ!!」

「ヴィィィギルアァーッ!!」



 俺の懇願に、タヌキは律義に答えてくれた。

 うん。これは明確な殺意だな。


 ……って、ふっざけんなよ!?

 なんだその、魔獣みてぇな鳴き声はッ!?

 お前は村の特産物、今晩の夕食になるはずだった素敵な獣だろうがッ!!



「すみませんでしたッ!!調子に乗って、すみませんでしたァァァッッ!!」

「ヴィッギルアーッ!!」



 つーか、コイツがこんな化物だなんて聞いてねぇんだよ、村長じじぃッッ!! 

 帰ったら絶対に文句を言ってやるからなァァァッ!!


 だがそれは、生き残れたらの話だ。

 俺の背後には、雄々しきタヌキが迫っている。

 ……。

 …………。

 ………………5匹も。



「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギルア!!ギギルギル!!」


「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」



 何でこんなにいるんだよッ!?!?

 5対1とか卑怯だろォォォォォッッ!!


 俺は背筋を強ばらせながら、赤い髪を乱して振り返……、ひぃ、近い!!

 既に足元まで来てやが……、えっ、なにその一糸乱れぬ、精錬された動き!?

 お前ら週二で食卓に並ぶ定番のおかずの癖に、戦闘力ありすぎじゃないッ!?



「どっか行け!!頼むから、どっか行ってくれぇぇッッ!!」



 唐突に遭遇したコイツらこそ、順風満帆な人生に降って湧いた絶望『ウマミ・タヌキ』。

 あろうことか、意気揚々と狩りに出掛けた俺は、まさかの狩られる側だった。



「ヴィギルアッ!!ヴィーア!ヴィーギルアンッ!!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」

「ヴィギッー!」


「こんちくしょォォォめぇぇぇぇッッッ!!」



 鬼の形相で迫りくる、5匹のタヌキ。

 『素敵な獣』どころか『無敵な魔獣』感が漂っているタヌキから全速力で逃げつつ、こうなった経緯を必死に思い出す。


 ……。

 …………。

 ………………あ、これが走馬灯って奴か。


 って、タヌキなんぞに殺されてたまるかッッ!!

 絶対に生き残ってやる、そして……!


 とりあえず、お前の顔に拳を叩きこんでやるからなァァァァァッッ!!

 村長じじぃぃぃぃぃぃぃッッ!!


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