緑茂る

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二人の過去についての復習ストーリー◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

朗らかな風が髪を揺らす、別れと出会いの季節。

今はこうして家族となった私たちも、過去に一度別れを経験している。

未成年なのにひたすらセックスを繰り返し互いを愛し、大人でもない子どもでもない中途半端だったあの頃。

もう付き合う事はないと思っていたけど、あの時再び出会えて本当に良かった。



大学三年の二月

修二と同棲を始めてもうすぐ丸二年が経とうとしていた。

19歳の誕生日に告白されて付き合い始めた冬、そのわずか四ヶ月後には同棲を始めていた。

大学生になって少し大人になった気分でいたけど、まだお酒も煙草もダメな年齢で、所詮まだまだ子どもなのだと里美本人もわかっていた。

たった一年前は高校の卒業式で涙し、やっとの思いで決めた大学への進学に、楽しみと不安が入り混じりながら春の新生活にむけて準備を進めていた頃だ。


希望の学部に合格できなかったことで実の両親の後を追いかけられない事が決まり、そんな自分を否定ばかりしていたが、修二との出会いは私の人生を荒波に飲み込むかのように巻き込んで行った。


「ねぇ、賀城くんて私のこと嫌いなの?」

「へ?何で?」

「だって私ね他の先輩とは話してるけど、賀城くんは全然話しかけてくれないし、私も話しかけにくいもの。」

「あー、そうだった?悪かったよ、でもそんな嫌いとかないから大丈夫。」


あの時の突拍子もない発言を受けた修二の顔を、里美はよく覚えていた。

そんな修二も、以前から里美にはどこか好意を抱いていた事は今も本人に伝えてはいない。


「それウーロン茶だろ。桃瀬は酒ダメなのか?」

「私、まだ未成年なんで。」

「マジメだなぁ…確かに背小さいしまだ子どもか。150cmないくらい?」

「それ以上はあるけどね。」


修二はジョッキに10センチほど残ったビールを飲み干した。

未成年が酒を飲まなくて何が悪いのだろうか。

ひょんなことがきっかけで修二にはタメ口だった事もあり、他の先輩後輩よりは親しい雰囲気はあったが、自分を子ども扱いする事についてはあまり印象を抱いていなかった。

だが、その時頭をポンポンとされたドキドキ感に里美はそれまで感じた事のない何かを感じた。



「俺、桃瀬の事好きだわ。これから先、長く一緒に居たいと思うし幸せにしたいと思ってる。ずっと一緒に居てくれないか。」

「ありがとう、私も…嬉しい」


出会って暫くの印象はどちらかと言うと良くなかった。

嫌いではないけど、周りの人たちと同様に自分を当巻にし、距離が近づいても避けるような雰囲気を出し続けた唯一の人物が修二だった。

まるでプロポーズかのような告白の後、優しいキスを繰り返し舌が入り込むそんな激しいキスは、里美にとって初めての経験だった。


「んっ、ん…はぁっ、ふぁ…」

「これからは修二って、下の名前で呼んでよ。」

「修二…っ、くん」

「少しずつでいいさ。可愛い、すげぇ好き…これからずっと守るから。もう我慢できねぇ…」


クチュクチュと水音を立て口内に侵入してくる舌に驚きつつ、もとめられるまま同じように舌を絡め合うと、里美は自然と修二の背中に腕を回していた。

そんな人生19回目の誕生日の出来事は、里美にとって初めての思い出の夜となった。


紆余曲折を経て、出会ったその年の最後の月にに二人は付き合い始めた。

里美が二年へ上がる頃には同棲を始め、敵うのなら今すぐにでも結婚したかったし、毎日のように相手を求め身体を重ね、子どもも早いうちにと願った。

そういう行為もこの年齢相応の数だったと思うし、日々幸せで心は満たされていた。

だが、幸せの余り勢いに任せた所で身に降りかかる現実をきちんと理解し、抑制できる彼は流石だった。


そんな中訪れた現実。

付き合い始めて三度目の春がやって来る頃、二人は別れることを決めた。

告げたのは里美であり、修二もここ数ヶ月通院する彼女の変化に気づいていた。

修二は精一杯強がり、受け入れたフリをする事で精一杯だった。


「別れたい」


同棲していた部屋を離れるまでの一週間はあっという間だった。

里美の口から出たその言葉に、来るべくしてそういう時期がやってきたのだとその意思を受け入れた。

修二の就職というこのタイミング、急なドイツ転属命令や里美の体調のこと。

女性の生理が止まる程の変化とはよっぽどの事だろう。

これ以上相手に縋り付いてもどうにもならない事を、それぞれが理解していた。


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