職員旅行2
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職員旅行でやってきた温泉宿は過去にも宿泊したことのある思い出の宿。
恋人同士だったあの頃から、息子が産まれ更に五人家族となった賀城家が参加した職員旅行。
温泉旅行三部作最終話。
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今年の職員旅行は温泉旅。
家族を持った賀城家にとって初めての子連れ参加となった。
ここ数年で結婚、出産を経験する者が増え、組織にとって休職する女性職員の能力を頼りに出来なくなる事は痛手であったが、人として家庭を持つ事は、更なるキャリアアップと日々のモチベーションを高める為にも良い環境だろう。
そんな里美自身も、出産までの間に積み上げてきたキャリアと家庭との葛藤を抱きながら早期の復帰を望み目指して居た。
桃瀬里美と賀城修二夫妻、この二人の場合どちらも同一施設に勤務する職員であり、今年数年ぶりに家族でこの旅行へ参加したのだ。
「もう何年振りかしらね、私の最後は亮二が産まれる前の沖縄だもん。あのお腹でよく行ったものだわ。」
「あれは色々と帰って来てからが大変だったよな。もう三年か…」
数年毎に大規模な旅行年となるのだが、今年は関東近郊の温泉旅行だ。
悩みはあったが里美の気晴らしや周囲も家族での参加者が多い事もあり、里美も家族での参加を決めた。
育児も落ち着き始めたこの頃、自家用車での移動許可が出た事で賀城家も子ども達を連れて現地へと車を走らせていた。
「ぱーぱぁ、あーちゅー!」
「何だ?桃瀬、俺は何を求められてるんだ?」
「アイスだってよ。修二くん何か約束したの?」
「何言ってるかわかんねー。愛梨、パパはアイスのお話なんてしたか?アイス好きは桃瀬似だな。」
「アイスは今ないよ?あーちゃんがご飯ちゃんと食べたら出てくるかもね。」
先程から後ろのチャイルドシートで喋り続けている愛梨は、どうやら機嫌が良いらしい。
それにしても修二は子ども達から発せられる拙い言葉を聞きとる事が苦手だった。
特に双子は女子らしくお喋りをしたい気持ちが強いのかよく喋るが、どうにも聞き取れず理解が出来ないことばかりだった。
…
そんなこんなで到着した温泉宿。
ここは決してリーズナブルとは言えないのだが、高いお金を出してでも泊まりたいほど魅力的な地であり、かつて修二と里美は何度かこの宿へも宿泊したことがあった。
四季折々の自然と風景、空気は都会暮らしの一家にとって新鮮でしかなかった。
「亮二はここ来た事あるんだぞ。覚えてなんかないだろうけどな。」
「たぶん産まれて半年くらいの時よね。やっと首が座った頃だったかしら。今日って貸切風呂出来るの?」
「さぁ…料金払えば使えそうだが、皆で来てる中で貸切ってどうなんだ?」
「そうねぇ…確かに。」
公共交通機関を利用して現地にやってきた同僚職員たちと合流すると、割り振られた各部屋へと案内される。
部屋割りはファミリーエリアと単身エリアと分けられ、里美は我が子たちが騒がしくなる事を心配していたが、そんな配慮に不安も和らいだ。
「里美ちゃーん!車で来たんだって?新幹線で会えると思ったのに居ないんだもん。家も車で来れば良かったよ。」
「優香ちゃん!結衣ちゃんたちは?」
「あの子たちは、おばあちゃん家でお留守番。母がね、隼人と二人で行っておいでって言ってくれたの。」
「いいなぁ…」
「隼人にも声かけるから、修二くんも誘っておいでよ。」
里美は優香のそんな時間が羨ましかった。
実の両親は亡くなり、里美と妹の子育てを終えた養父母は、落ち着いた郊外へと住まいを移しのんびりと暮らして居たのだ。
遠方ゆえ、わざわざ預けるためだけに向かう事はできなかったし、三人の乳児の世話はなかなかハードルが高いだろう。
「皆でお風呂行かない?双子ちゃんは里美ちゃんと入るでしょ?私手伝うし、一緒に行こうよ!」
「うん!」
用意を済ませ再び合流すると、広々とした大浴場で里美と優香は恥ずかしげもなく浴衣を脱ぐ。
「二人とも静かにだからね、じっとしてないと。」
「優梨ちゃん、優香ちゃんと手つなご。」
「やーだ!」
「滑って転んじゃうよ?」
「ないのー!」
「ごめんねー、この子達イヤイヤ期真っ只中でね。優梨はまだ性格が穏やかな方なんだけどさ。」
プイッと手を払い、一人で歩こうとする優梨。
優香はそのぽっこりと膨らんだ乳児らしい体型に懐かしさを覚える。
里美は二人の髪と身体を洗うと、お待ちかねの温泉へと浸かる。
「あっちゅーい!」「あちゅー!」
「あのお姉ちゃんみたいに、愛梨もあんよだけ入れてごらん?優梨もほら、気持ちいいよ。」
二人して入ろうとしないのも仕方ない。
ここの熱めの温泉は子どもには酷だろう、離れた所に座る幼稚園児くらいの子を真似て足だけ何とか浸かるとやっと二人にも笑顔が見えた。
「里美ちゃんオッパイ大きいね、羨ましいわ。」
「まだ授乳してるからね、そのうち萎んじゃうでしょ。」
「元々が大きいんだし、そこそこは元のままなんじゃない?修二くんって里美ちゃんのオッパイ好きでしょ?」
「隼人くんだって優香ちゃんの好きでしょ?」
「うちは最近減っちゃってさー。お互い仕事忙しいし。正直言うと三人目も欲しいけど現実厳しいのよね、家も建てちゃったしさ。里美ちゃんの所は三人で打ち止め?」
「うちも三人で充分、これ以上ムリよ。私もこんなんだしさ。でも、修二が…」
「どうした?」
里美は言葉を止めた。
「私ね、夏に流産したの。」
「そう…なの?それは辛かったね。」
「あの時まだ入院中だったんだ。妊娠してた事も気付かないまま大量出血、恐かった。」
里美からの思わぬ告白に優香は驚いた。
そしてこの夫婦にはまだ、そのような行為がある事が正直羨ましかった。
セックスレスと言える状況下であろう優香にとって、自分の本心を打ち明けたのは里美が初めてだった。
「あーり、もうでる…」
「そうね、優梨も顔真っ赤。」
お風呂上がり、パジャマを着た双子に水分補給をさせると、里美は修二と亮二が戻っているであろう部屋へと向かった。
…
畳の香りが心を癒す。
「ゆーり、あいしゅあるよー」
「あーちゅ!」
「あーりも、あーしゅるー」
部屋の奥では一足先に戻っていた亮二が、カップアイスを頬張っていた。
そのアイスを亮二がスプーンですくうと、妹二人に分け与える。
「ちゅめたーい!」「おーしぃー!」
「修二くん、これからご飯なのに買ってあげちゃったの?」
「だって亮二の顔真っ赤でさ、可哀想なんだもん。アイスくらい大丈夫だろ?愛梨と優梨の分も買ってあるぞ…勿論桃瀬の分もな。」
「今一個ずつ食べたらご飯進まないわよ。これを皆んなでたべてね。」
里美はあと一つを皆んなで食べるようテーブルに置くとアイスの蓋を開けた。
三人で仲良く食べていると、里美は洗面所にいる修二に呼ばれる。
「桃瀬、ちょっとこっち来て。」
「ん?…ちょっ、やだ!何?」
「何でずっと俺の事は放置なの?」
「何?放置なんてしてないでしょ…イヤっ!子どもたち…居るのに」
「大丈夫さ、すぐ終わる。」
突然強く抱きしめられ体を引き寄せられた。
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