ぼくのママ

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双子の誕生後、退院した日の事を思い出していた。

兄になった0歳10ヶ月を抱えての三人育児が始まった日の話。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

二人の妹が家にやって来た日、亮二は何とも不思議な顔をしていた。

人形でもない、おもちゃでもない、本物の赤ちゃんがやってきた。

それも二人。

その赤ちゃん達は同じような顔をしていて、寝てばかりなのにママとパパは可愛がってばかり。

産まれてからのこの一年、『ぼく』だけのママだったはずなのに、そのママは違う赤ちゃんを連れて帰ってきたのだ。



そりゃあ、何の理解もできないまま環境が変わっては、乳児であっても納得はいかないだろう。

ふぎゃふぎゃと泣く双子を抱っこしていると、やきもちを焼いているのか私の膝に乗って来る。

甘えたい気持ちはとても分かるし、本当ならまだ亮二に付きっきりでお世話をして遊んであげたいのが本望。

だけどそれはどうしても出来なくて、私も葛藤していた。


「あんまぁぁぁ!やぁぁーぁー!」

「どうしたの?亮くんも抱っこしようか。」


大きな目を涙で潤ませる息子を抱きしめる。

こんな時、代わりに甘えられるはずのパパはお仕事でいないし、余裕のない育児環境に置いてしまい本当に亮二には申し訳なかった。

妹や弟が産まれたら上の子を優先にしてあげるってことは聞いていたけど、こう月齢が近いと兄とはいえ上手く事情を伝えることも難しい。


妊娠中、私の大きくなるお腹を見ながら育ったとはいえ、その本人がまだまだ赤ちゃんで毎日生きる事で精一杯だったのだから、母親の変化など意識していないはずだ。

もう少し年齢差があれば、新たな命が誕生した喜びの表情を見ることが出来たかもしれないが、当の本人はご不満のようだ。

左に愛梨、右に亮二を抱え二人同時に母乳を吸わせる。


「亮くん、あーちゃんのこと押さないでね。赤ちゃんは優しくだよ?お兄ちゃん、色々教えてあげてね。」


乳首を咥えながら首を左右に振り『イヤイヤ』と意思を示す。


「優しくしてあげないの?」


本人はまだ喋りはしないが、大人の言っている事は大分理解しているのであろう。

乳首に吸い付いたまま亮二は首を縦に振ると、今度は足を伸ばして私の腕の中から愛梨の事を押し出そうとしている。


「あんよはダメなの。ママはずっと亮くんのママだから大丈夫だよ。でもね、ママは赤ちゃんたちのママもしなきゃいけないの。」


そう声を掛けると、亮二をぎゅっと抱きしめる。

心のどこかで『ごめん』の気持ちが見え隠れしていた。

たが、その思いは亮二にも双子にも決して嬉しくない思いだろう。

次の子も考えていた中、こんなに早くて授かるとは思っていなくて驚いたけど、授かり物だし、分かった時は不安ながらも嬉しい気持ちが一番だった。

亮二を孕った時、流産した後なかなか授からず、妊娠への思いを遠ざけようとした中わかった妊娠。


亡くなってしまった子も、亮二も愛梨も優梨も、どの子の時だって宿った事が分かった時の思いは絶対に忘れることはないし、目の前にいる子たちは皆大切に育てていきたい存在なのだ。


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