マイホーム

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友人宅で飼われている犬を気に入った子どもたち。

その姿を見て里美はとあることを提案したその結果…◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


友人家族が犬を飼い始めたとかで、自宅へ招待された日曜日。

賀城一家は車を走らせ自宅マンションから一時間程の場所にある、大学時代の友人隼人・優香夫妻宅へとやってきた。

夫婦と姉妹二人、その子どもたちは八歳と四歳になったという。

若くして授かり婚をした友人、海沿いのエリアに念願のマイホームを手に入れたのが去年の秋。

その頃の賀城家は里美のワンオペ育児真っ只中であったため、この時期になり漸く訪ねることが可能となった次第だ。



「久しぶりねー。こんにちは、皆大きくなったわね。」


友人の優香は腕の中に手のひらに収まってしまいそうなほどのサイズの犬を抱き、玄関にて賀城家五人を迎え入れた。

里美より年齢は一つ上、修二や彼女の夫も同い年であり大学時代からの友人であり一緒に旅行へ出かけたこともある仲だ。


「わんわんいたー。まま、わんわん!」

「ね、可愛いね。亮くんより小さいよ?優しくしてあげないとね。」

「ティーカッププードルって言うの。小ちゃいでしょ?まだお母さんから産まれて5ヶ月なんだよ。」

「おーくんね、2しゃいなの。」

「そうなの。じゃ、亮二くんの方がお兄ちゃんだね。よろしくね。」


自分が二歳だと伝えるその手には、三本の指が立っているが、優香も二歳児がスムーズにピースサインをする事が難しいとわかっているのだろう。

また看護師という職業柄なのだろう、フワフワとした雰囲気の優しい表情が賀城家の子どもたちの緊張を解す。


「遠い所わざわざ悪かったな。ゆっくりして行って。桃瀬ちゃんも久しぶり。」

「ですね、いつもお世話になりっぱなしで。先輩、修二が何か悪さしたら本当叱ってやってくださいね。」

「いや、修二は仕事と家庭ばっかりだろ。趣味とか本当に無いのか?」

「好きな事くらいあるけどさ、家に奥さんと子ども放って自分の事ばっかりしてる訳にもいかないだろ。」


新組織に移る前もその後も、修二は日本国内、そしてヨーロッパを行き来し、里美のワンオペ育児はここに来て漸く落ち着きを見せ始めたのだった。


「結衣!瑠璃!お友達来たぞ、ご挨拶だ。」

「こんにちは。あっちで遊ぼ!」


妹の瑠璃が亮二、愛梨、優梨を遊びに誘い、庭へ連れ出す。

その先には夫妻が準備したバーベキューグリルやら、子ども達用のテントやら楽しそうな空間が広がっていた。


「ほら、お前らも庭に出てさ、昼食にしよう。」

「準備大変だったろ、悪かったな。」

「構わないよ。うちはこういうのが好きだからね、元々持ってたし。」

「マイホームねぇ…」



庭に揃うとバーベキューが始まる。

賀城家の子ども達にとって、こういうイベントは初めてのことであり、成長して大人と同じ普通の食事が出来るようになったことでレジャーの幅も広がったように思う。


「ままみて!わんちゃんの、おしゃんぽしてるのー!」

「結衣、亮二くんに付いてあげてね。」

「あーちゃんも!わんわんしゅるー!」

「愛梨、お散歩は順番こだぞ。」


小学生にもなると結衣はやはり小さい子の面倒見が良い。

場所まで来たら愛梨と交代だと伝えると、普段イヤイヤ期真っ只中の亮二が珍しくいう事を聞いている。

子ども同士、何か通じるものがあるのだろうか。


「里美ちゃん、子育てどう?あっという間に三人のママになっちゃって。」

「可愛いけど大変よね。それより職員旅行ってまたそろそろ沖縄回じゃない?今度は子ども同士遊ばせられるね。」

「懐かしいわね!あの時私、里美ちゃんがお腹痛いとかで部屋行ったもの。覚えてるわよ。」

「へへへ。」


里美は苦笑いするしか無かった。

あの夏の終わり。

迷いつつも参加した妊娠中の職員旅行で空気に飲まれ、行為に及んでしまったことでの結果は、今思えばよく現地や帰路で出産しなかったものだとゾッとする。


「三人ってどうなの?うちとは年齢差も色々違うと思うけど。」

「まさか優香ちゃん、三人目?」

「違う違う!うちはもう無いわよ。家買っちゃったしこれからは二人で働き続けないと。早く産んだから早く子育て終えて終えてのんびりしたいもの。」

「そっかー。…三人ね、一人一人にちゃんと付き合ってあげられないのが申し訳ないよね。赤ちゃんの時からそう。みんなが一緒に泣いても一人ずつ構ってあげる余裕はないし手を繋ぐ時もかならず一人は私とはつなげない。仕方ないんだけどね。あと…」

「どうした?」

「心療内科に通ってるの。優香ちゃんだから話すけど、私もうずっと良くないんだ。昔パニック障害って言われたこともあるんだけど、ずっと落ち着いてたの。でもそれも戻ってきちゃってね。」

「そう。ちゃんと通院してるのよね?それならちゃんと先生の指示に従って信じて。良くなるといいわね。」


看護師として働く優香は色々と感じていそうだったが、口元では笑いつつどこか悲しそうな表情の里美の思いを聞き、年子三人育児は想像以上に大変なのだろうと優香は感じた。


「ゆーりー!おしょとでねんね、めーだよ!」

「あれ?優梨ちゃん寝っ転がってるけど!」

「もうこんな所で…」

「ゆーちゃん、ねんねなの?でもお外で寝ちゃだめなの。ほら草だらけじゃないの。」


里美が駆け寄り優梨を抱くとクルクルの髪にも服にも芝生がくっ付きそれを払う。

庭で焼いた食材をウッドデッキに設置したテーブルで食べていた女性二人は、眠たそうな優梨を寝かしつけながら暖かな視線で賑やかな空間を見守っていた。


「優梨ね、眠くなるとすぐに何処でも横になっちゃうのよね。あの子寝ぐずりはすくないんだけど本当これ困るのよ。」

「愛梨ちゃんはまだ大丈夫なのね。瑠璃もまだお昼寝するけど、こういう日はもう一日起きてるかな。遊んじゃうと寝るタイミングないもんね。」


視線の先では隼人に手伝ってもらいながら、愛梨が犬を抱いていた。


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