wedding ceremony
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双子が一才を迎える区切りとしてリゾートウェディングをすることに決めた賀城夫妻。
親族と親しい友人のみの、小さなバタバタ子連れ結婚式。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一人じゃない。
だからと言って二人でもない。
これまで流した涙の分、きっと幸せな人生になりそうな気がした。
この人となら、不幸なんて言葉は無縁だと思った。
…
結婚式はしなくても良いと本人が言う。
だが一度きりの人生、せっかく女性として産まれてきた里美のためにも、そして日々関わる人々への感謝を込め、挙げることを修二は良しと思っていた。
「結婚式?今になってするの?」
「したくないか?」
「んー、したくないわけでもないけど…恥ずかしいじゃない?それにこの子達いるし大変だよ。」
目の前で遊んでいる子どもたち。
もうすぐ一歳の誕生日を迎える双子と長男亮二はリビングでそれぞれ遊んでいる。
ブロックを自分で繋げられずイライラする亮二。
少し早いが愛梨と優梨の誕生日プレゼントに買った『LOGO』というカラフルなブロックは修二や里美が子どもの頃から存在していたが、小さなパーツを誤飲しないよう大きなパーツで作られている物が有ると知り、プレゼントにそれを選んだのだ。
「桃瀬はさ、お父さんとお母さんがいるだろ。親孝行したくない?」
「そうねぇ…感謝はしてるけど、結婚式じゃなくても他の方法もあるし?」
「なるほどね。俺はさ、桃瀬のためにも…って言うと押し付けがましいけど、挙げたいんだよ。人生のケジメっていえばいいのかね。愛梨と優梨も一歳になるし、色々な区切りとしてさ。」
確かにそうかもしれない。
これまで、結婚式など考える余裕などなかった。
決して湯水の如く使ってきた訳ではないが、ここ数年はお金も時間も目まぐるしく流れ、何より里美の身体が付いていかれる状態ではなかった。
そんな中でも結婚指輪だけは出産前に互いの指に着ける事ができ、悪阻の最中、少し無理をしてでも夫婦のスタートとしてのケジメを作れた事はかなり良かった。
「ホテルで盛大にとかじゃなくてさ、こじんまりとしたのなら良いかな。」
「全然それでいいと思うぞ。近場でもいいし、旅行も兼ねてやるのもいいかもな。ほら、また沖縄なんかいいんじゃないか。」
「行きたいー!」
里美の顔がパァっと明るくなる。
二人で最後に行った旅行も沖縄だった。
あの時は気づいてはいなかったが、悪阻らしき症状も出始めていて万全な体調で過ごせなかった後悔もあり、また行きたいと二人とも頭の隅で考えていたのだ。
決まれば話は早い。
だが、何から進めるべきなのか全くわからず、まずはパソコンを開く。
国内外のリゾートウエディングを扱うブライダル会社のホームページを見つけると、それに関連したSNSの情報がどんどんと見つかった。
「うっ、高っけーなぁ…」
「このドレス可愛いねぇ。ファミリーフォト、海で絶対撮ろうね。」
「チャペルとかって自分でホテルに予約するのか?」
「えー?わかんないけど、こういう結婚式を扱ってる会社に頼むんじゃないの?」
「さぁ…そうなのか?」
二人は一先ず店舗型の窓口へ出向き予約を取ることにした。
…
「場所は沖縄ということで、いつ頃をお考えですか?」
「今から予約だと、現地でマリンレジャーとかは厳しいですかね?」
「いえ、土日にとか六輝に拘らなければ大丈夫かと…確認してみますね。ただ夏休みシーズンはお高くなります。」
せっかく行くのだから、やはり海でのレジャーを楽しみたいと思っていた。
「九月の…この辺り、いかがでしょう。飛行機の時間もまだ選べそうですし、まだまだ暑いですが海でも遊べますよ。シーズンのピークも越えて少しはお安くなります。」
「なるほど。」
予算の見当もついておらず、ざっと見せられただけでも目眩がしそうだったが、新婚旅行と結婚式を兼ねればこんなもんかと納得した。
「人数はお決まりですか?」
「自分たちと親兄弟だけで考えてるので、十人前後かと。」
里美の両親と、歩美、それから奈々。
たったこれだけの親族だが、一緒に過ごせたらきっと思い出になるはずだ。
「私、利佳子も呼びたい。」
「いいんじゃないか。俺も来て貰えたら嬉しいし。」
親族の中に友人一人なのもどうかと考えたが、修二と里美にとって大学時代からの友人である利佳子とは、日々仕事でも顔を合わせプライベートでも交流のある家族の様なものだった。
特に里美は世話になりっぱなしで、母の様な姉の様な存在だろう。
「それでは、人数が決定しましたらお知らせ下さい。今後のスケジュールはこちらになります。ここで最終的なオプションも締切になります。」
紙に書かれたスケジュール表を見る限り、ここにはあと数回は足を運ぶ事になりそうだ。
…
声を掛けた人々から日程の了承を得ると、その後はドレスやタキシードの試着やら撮影後のアルバムの種類、料理、ドリンク、チャペルの装飾までも自分たちで決めるとの事で優柔不断な里美は疲労感でいっぱいだった。
それでも変わらぬ日常。
子ども達の初めての飛行機はどうなることか、機内でぐずらず過ごさせる為にはどうすれば良いか。
里美はそれも気になっていた。
それでも三人お揃いの服を着せて写真をとりたいとか、久しぶりにおじいちゃんおばあちゃんと会わせてあげられるとか、もちろん楽しみも多かった。
…
結婚式前日
前入りする賀城家に合わせ、里美の妹、歩美も一緒に行きたいとのことで、折角ならと飛行機の便を同じにした。
「私も早めに行きたい!それに子ども達の面倒も見るわよ。」
一歳の誕生日を迎えたとはいえ、まだまだ見た目は赤ちゃんな愛梨と優梨。
歩美は亮二と初めて誕生した姪っ子二人を溺愛していた。
「みんな大っきくなったねぇ。」
亮二は歩美の元へ小さな歩幅で飛び込んだ。
「あゆちゃんの事覚えてるのー?嬉しいなぁ。亮くん、これからアレ乗るんだよ?飛行機だよ。」
「こーき!」
「そだよー、お空の上に行くの。」
歩美は亮二を抱き上げると、久しぶりの再会に里美と修二の存在など忘れている様に見えた。
「歩美ちゃん、今日はサポート感謝するよ。」
一歳の子どもが三人。
どこへ行くにしても、大人の手はあればあるだけ有り難かった。
「今日仕事は?」
「休んだの。有給もあるからね。特に休みを取る予定もないし、私こんな事も無いと使わないんだよね。」
「そう…働くわねぇ。」
七歳下の里美の妹。
一時期は修二、里美、歩美の三人で暮らしていた頃もあったが、大学を卒業して働く様になって自立した。
「修二さんの妹さんは?奈々ちゃんよね?」
「奈々はまだ学校があるからな。ちゃんと終わってから来いって話してあるよ。」
「一人で来られるの?」
「もう奈々も高校生だぞ。スマホさえあれば何とかなるもんさ。」
修二の妹の奈々は施設暮らしが始まった三、四歳の頃から里美の事を知っていた。
三人で出かけたり、アパートに泊まったり、里美は小さな頃から奈々を可愛がった。
ホテルに到着すると、明日の最終確認を済ませる。
「おー、奈々がそろそろ着くらしいぞ。」
「流石、高校生にもなると色々としっかりするものね。」
ホテルのエントランスまで迎えに行くと、バスから降りてきたのは久しぶりの奈々。
毛先を巻き、少々露出の多いワンピースで降りてきた。
「里美ちゃん!」
里美はもう一人の妹との再会を喜んだ。
「おい奈々、俺は?お兄ちゃんが先だろ?」
「お兄ちゃんはいいのー。ねぇ、おチビちゃん達は?」
「私の妹が見てる。部屋にいるわよ。」
するとバスから降りてきた見慣れた顔。
「あれ!?お父さん?このバスに乗ってたの?」
「やぁ、里美ちゃん。いやぁ疲れたね。」
両親共に奈々と同じバスに乗っていたのだ。
「初めまして、賀城奈々です。」
「修二さんの妹さんね。いつもお世話になってるわ。里美の両親です。実の親ではないんだけどね。」
「こちらこそ。里美ちゃんには小さい頃からお世話になってます。」
奈々もこの様な初対面の人ともきちんと挨拶が交わせるのだと知り、いつまでも子どもではないのだと修二は実感した。
部屋に到着すると現れた大人達に驚きつつ、自分たちの知る人物だとわかると子どもたちは笑顔になる子、人見知りをする子、表情は色々だがその場の雰囲気は和やかだった。
「優梨ちゃん、泣かないでくれるか。おじいちゃん皆んなと一緒に遊ぶの楽しみにしてきたんだからな。」
「やぁ〜、あんぁ〜!」
おじいちゃんに抱かれながら大泣きし、修二に手を伸ばし助けを求める優梨。
その姿を見ながら皆が笑う。
「明日、朝十時集合で宜しくお願いします。チャペルでの挙式の後、下のレストランで食事の時間を用意してあります。それから明日の朝、挙式前にもう一人僕たちの友人が合流します。」
利佳子も当日早朝便で沖縄へやってくる事になっていた。
利佳子も子育て中の身、単身で来る為には日帰りを選ぶしか無かったのだ。
…
当日
「ごめんね、子ども達お願いします。亮くん良い子にね、ママとパパ行ってくるね。」
里美が両親の部屋に子どもたちの身支度のため預けにきた。
そして支度が終われば歩美も合流することになっている。
「子どもたち大丈夫かしらね。そっちの方が心配だわ。」
「心配したってどうしようもないんだし、今は式のことを考えないと。」
男性はもっと遅くからの準備でも良かったのだが、修二の希望で初めから付き添う事にしたのだ。
まずはメイク。
「こんなにメイク濃いんですか?私似合わないですよ?」
「お式の後お写真を撮りますからね。ブライダルメイクは写真映えする様濃いめにするんです。薄く直します?」
「えーどうしよ、修二くぅん…おかしくなぁい?」
「おかしい事ないさ。写真、たくさん撮りたいんだろ?そうしたら一番可愛く映らないと。」
大きな鏡に映る里美の、その後ろに座る修二が鏡越しに答える。
順調にメイク、ヘアセットが終わるといよいよドレスの着用のため別部屋に着替えに行く。
「賀城さん、本当にお子さんがいらっしゃるの?こんなに細くて…」
「いますよー。三人いると毎日大変でお腹空いてる事も忘れちゃって。」
「おいくつのお子さんなの?」
「三人とも一歳なんです。」
「三つ子ちゃん?」
「年子なんですけど、下の双子が早く産まれたので今は全員一歳なんです。でも学年は違いますよ。」
「賑やかで楽しそうね。」
そんな会話をしながらもドレスの着用を終えた。
子部屋を出ると、修二もタキシードの着付けを終え待機していた。
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