第67話 【白黒景色】港町の姉
低空飛行のイーグルが丘の斜面を越えれば、目に飛び込んでくるのは白と黒で構成された不思議な街だ。
ローズに聞いたことのある港町みたいにたくさんの船が停泊していて、すぐそこに海があるのに大した武装は見えないが、ウォータードラゴンは大丈夫なのだろうか?
俺の困惑した表情に気が付いたローズが、いつものジョーシキ語りを始める。
「この内海の海は大陸の東側にだけ繋がっているわ。大河の流れ込む西の海にだけウォータードラゴンが居るのは常識ね。だからこの内海の海にはウォータードラゴンは居ないわ」
「そういう事だったのか」
「じゃあパピーもいないんだ~……」
俺が納得の声を上げると、唇を尖らせたおねえちゃんは残念そうにしている。
たくさん水があるのを見て、久しぶりにドラゴンでお造りがしたかったのかな?
「あの町がモヌクルなのだ。あの町は同盟と共和国の中間にあるから、そのどちらにも属してはいないのだ」
「獣人はいろんな連中が居るよ! モンスターと間違えて、斬らないようにね!」
白鎧に覆われた腕で指し示して、エテルナが町の紹介をしてくれて、アルテは楽しそうに注意喚起する。アギア共和国に住む獣人は全身を体毛に覆われた者達で、モンスターと勘違いされて、悲劇が起こると聞いている。
ガルト王国では見たことが無かったけど、ここには獣人が住んでいるのか。
確かにドラゴンばかりの山に住み続けるのが、嫌になる人も居るだろうし、当然の事だった。
「海外の連中も居るから、一人で行動しないのが無難だよ」
「海外って何~?」
ベクターが海外の人の事を話すと、おねえちゃんがローズにくっ付いて話を聞き始める。
それに対してローズは、嬉しそうに語り始めた。
「海外というのは、海の向こうにある別の大陸の事ね。時には魔導フロートで浮いて、巨大な海を船で越えてくるわ」
「そうなんだ~。すごく遠くから、来るんだね~」
「そこまで遠くから何をしに来るんだ?」
疑問に思った俺の質問にも、おねえちゃんにくっ付かれたままで赤い眼を細め、楽しげに答えてくれる。
「目的はモンスターがドロップする物品をこちらで購入して、あちらに持ち帰って販売する貿易と呼ばれる行為ね。他の大陸ではこの大陸ほどモンスターが居ないのよ」
「じゃあ、安全なの~?」
モンスターが居ないと聞いて、おねえちゃんが聞くけど、モンスターが押しとどめられた結果は、最近聞いた話だ。
ローズが俺の想像通りの答えを返し、当事者だったエテルナが白い兜を軽く上下して、達観したことを言う。
「モンスターの代わりに、人間同士で戦っているわ。生きる限りは、戦いから逃れられないのは常識ね」
「仕方の無い事なのだ」
「生きるためになら、仕方ないね~」
□当機は、門の前に着陸します~□
納得したおねえちゃんの言葉を最後に、モヌクルの町の左右で白黒な門へとイーグルが降りて行く。
町の壁を構成するレンガも、白と黒の交互に組まれているみたいで、ちょっと目がチカチカするけど、随分手間がかかっている。
話が通っているのか、これもまた真っ白と真っ黒な衛兵たちが並んで迎えてくれた。
ここまで揃っていると、何だかおしゃれだな。
街の門の奥から、白黒の服を着た男が小走りでやってくると、息を切らしながらこちらの事を歓迎してくれた。
「ハアハア、マダイジュの勇者様御一行でございますね。ハアフウ、私が町長でして、お話は伺っています。フウ、皆さんのご来訪を歓迎いたしますぞ!」
ゼイゼイと息を荒げる町長が、先導して案内してくれるらしい。何だかこのパターンはオーヴァシーで見たけど、大丈夫なのだろうか?
「あまり無理をして歓迎されると、こちらが困ってしまうのだ。それなりでお願いするのだ」
「ウンウン!それなりー、でいいよ!」
ついて行きながら、白鎧なエテルナと楽天エルフが釘を刺している。俺達も今回は、シャドウナイトの秘匿戦艦待ちなので、早く出るわけにはいかないと、みんなで頷く。
それに対して白黒な町長は目を何度か瞬くと、安心したように笑みを浮かべた。
「そういう事でしたら、町のいい宿がありますので、そちらにご案内しますぞ!」
「それで頼むのだ」
どんな場所に案内しようとしていたのか気になるが、藪蛇になると困るので黙っておく。いつの間にか戦果を積みすぎて、話が通っていても凄い歓待をされるようになっているみたいだ。
いい宿と聞いたおねえちゃんは緑の眼を細めて喜んでいる。
「楽しみだね~!」
「今回は長く滞在する予定だから、楽しまないとね?」
「海で、水泳技をやってみたいな」
ローズも前に引き続き、ここでの滞在に乗り気な事を言ってるので、俺も大きな海で技を試せると内心考えていたことを口に出す。
それを聞いていたベクターは、蒼い眼をこちらに合わせて注意してくれる。
「海にも川の様に流れがあるから、慎重にだよ?」
「こちらに、波が押し寄せるだけじゃないのか?」
「押し寄せると言う事は、離れる流れもあるんだよ。遠くまで流されると聞いたことがあるから、やめておくのが無難だよ」
遠くに押し流されてしまうのは、危ない。海というのは、ウォータードラゴン無しでも、知らないで入ったら怖い場所だった。
白と黒の石で、交互に舗装された道を町長に連れられて、歩きながら思う。
「練習したから使いたいのは分かるけど、またの機会にしましょう?」
「ゆっくり、休もうね~」
おねえちゃんとローズの二人にも止めるので、海辺の町を素直に楽しむことにする。
「ここですぞ!」
町長が連れてきてくれたのは、海辺に立つ大き目な宿で、ここも白と黒だ……!
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