白黒の町の海辺

第66話 【三重矢雨】山麓の姉

『矢よ輝け』


 空を飛ぶ俺達へ追いすがる地龍の群れは、魔樹を打ち砕きながらこちらに突撃してくる。

 それらに対してアルテが金色の巨大な弓を引き、発動句を唱えると、矢が輝き三本に分身した!


 撃ち放たれた三本の輝く矢は、それぞれが無数の矢に分身して地龍の群れに襲い掛かる。


 上から見ていると美しい光景だが、着弾した地面は捲りあがっている。

 魔樹の森だから、すぐに成長するし大丈夫だろうけど、それ以外の場所で使った時のことは想像したくない。


「ふぃ~!気持ちいい!」

『回復の奇跡』


 自分の攻撃に大満足なアルテは、見下ろして達成感に笑っている。

 そこへエテルナが回復の奇跡を使って、反動で痣になっている指先を回復した。

 俺達は、エリン森林同盟と、アギア共和国の国境である魔樹の森の果て、山麓の場所までイーグルの飛行で一気に来ていた。


 山麓に沿って東に行けば、内海に着くはずだ。


『矢よ輝け』


 回復した指で、再びのアローレインを用意する楽天エルフの顔は楽しげだ。

 既に逃げ腰の地龍達は遁走を始めるが、前の攻撃で掘り返された森には、逃げ場がない。


 再びの三重奏が降り注ぎ、残敵を殲滅した。


『回復の奇跡』

「よっし! 全滅! 大勝利!!」


 エテルナがすかさず回復した手を握りしめて、アルテが鬨の声をあげる。


「たくさん居たね~!」

「でも、みんなアルテが倒したわ。安心ね?」

「おそれ、うやまえ~!」


 おねえちゃんがたくさん居た地龍の感想を漏らすと、それを聞いたローズがアルテを持ち上げた。


 アルテは耳に両手を添えて、目を閉じている。


 ドロップを拾い集めていると第二波が来そうなので、そのまま山麓へと飛んでいるが、今度は山の方から羽音がしてきて、これはドラゴンパピーだ……!


「本当にアギア共和国のドラゴンはとんでもない数なのだ」

「多いのも限度があるよ?」


 エテルナとベクターが呆れているが、本当にその通り千客万来だと思う。

 山肌の影から顔を出した目を丸くしているパピーたちが、次々と飛び立ってこちら目指して飛んでくる。

 

 □たくさん集まってしまう前に、降りて倒しますか?□

「その必要は、無いわ」


 イーグルの提案を制止したローズが機械槍を構えると、次々とパピーの目に当てて撃ち落とす。

 簡単そうに当てるので、俺とおねえちゃんも機械槍を構えて撃ち込んでみるが、目には全然当たらない。


 奇跡的に頭に当たった一発が有効弾か? 弾かれたけど。


「クロ、飛行中の射撃にはコツが要るわ。未来位置を予測して射撃をするのよ。更に自分の移動も計算に入れて撃てば、当てることが出来るわ」

「計算……? 予測……?」


 ローズがコツを伝授してくれようとするが、見本として撃ち落とすパピーが居なくなるまで粘った後に、おねえちゃんと一緒にリンゴを齧り始める。


「ローズは上手だね~!」

「そうだね。おねえちゃん」


 おねえちゃんと俺は雰囲気で機械槍を使っているけど、ローズほどの腕を得るには、感覚だけじゃなくて深い理解が必要みたいだ。

 増援がないことを確信したローズが、こちらに来て分解清掃を始めるので、俺達もそれに倣って分解清掃を始める。


「ローズぅ! 村でもやったけど、こんなに必要なの~?」

「しっかりと整備をしないと、いざという時に困るわ」

「そうなんだ~!」

「そうなのか」


 おねえちゃんが分解清掃の頻度に疑問を持てば、サボれば困ったことになると、答えてくれた。

 確かにローズが話に聞く、機械槍の弾詰まりなどを起こした所は、一度も見たことが無い。組み立て終わった赤い機械槍を自慢気に拭いた後に、俺達の組み立てを手伝ってくれた。


「ありがとう、助かる」

「ありがとう~、ローズ」

「先達として、面倒は見るわ」


 俺達が二人で感謝を伝えると、胸を張って頼もしい事を言うローズ先生。



 山麓に沿って進む関係で、山のドラゴンパピーをたくさん倒した俺達だが、装備が落ちる気配はない。


 俺が倒さないと、ここまで出ないものなのか。


「クロが倒さないと、装備が全然出ないんだね〜」

「知ってはいたけど、本当にそうね」

「普通はこんなものなのだ。チェルシーの蒼い剣はマダイジュの国で、国宝として飾ってあったのを見たのだ」


 あんまりにも装備が出ないので、おねえちゃんが残念そうに装備が出ないとこぼすと、ローズが同意した。

 それを聞いたドラゴン討伐のプロであるエテルナは、おねえちゃんの剣と同じ物が国宝になっていると、衝撃の発言をする。


「そうなんだ~。流石はクロだ〜!」

「国宝クラスの装備を量産……ヤバすぎだよ!?」


 おねえちゃんが嬉しそうに、俺を褒めてくれるので、俺も嬉しくなってしまう。

 ベクターが蒼い目を丸くして、大げさなことを言っているけど、ここまでたくさん拾ってると、そこまでの装備とは思えない。


「良い物だから。有効利用しないと」

「その通りね。装備は使ってこそよ」


 俺が自分の考えを語ると、ローズが同意してくれた。

 他に選択肢がなかったとはいえ、最初にドラゴン装備を使い始めたローズに同意されると、心強い。


「あったかいのは、良いよね〜!」

「ここでは、あたしの考えが少数派だよ……」


 おねえちゃんも実感のこもった言葉を話すと、ついにベクターは自信をなくしてしまった。


「そういう事もあるのだ」


 白鎧のエテルナが、真っ黒なベクターの肩に、手を置いて慰めている。


 イーグルの快速で回り込んだ山の尾根の先には、海が見える。


 内海までは、もうすぐそこだ。

 

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