第65話 【森の昼食】踏破の姉
おじいさんの魔法によって魔導鎧の塗装もしっかり乾いたので、コンテナの固定具が作り直されたイーグルと共に、エルフの村を出発する。
「アルテマにエテルナと、その仲間達よ! 達者でな! 朗報を待つぞ!」
「このドラゴンキラー・アルテ様に任せなさい!」
「伊達に英雄扱いされてないことを見せるのだ」
おじいさんの激励に、エルフ二人は意気揚々と返事をした。
村のエルフ達もおじいさんが伝えていたのか、見慣れないイーグルを警戒して遠巻きにだが、こちらに手を振って見送ってくれる。
おじいさんには色々と世話になって、魔道具まで貰ってしまったので、朗報をお届けしたい所だ。
俺達も手を振り返して、木の板の張られた安全なテントの村から、モンスター蠢く危険な森の迷宮に進んでいく。
「村を出たらすぐにダンジョンか、慣れそうにないわ」
「僕らはこれが普通だったの! ね? エテルナ」
「意外と暮らしてれば、慣れるのだ」
ローズが落差の激しすぎる変化に頭を押さえると、エルフの二人組が住めば都だと答えた。
こんな環境に慣れるとは思えないけれど、実際に慣れている人たちが居るから本当の事なんだろう。
「ローズゥ! 果物がすぐに食べれるよ~! 良い所だよ~!」
「チェルシー……。もう慣れたのね」
ここに、もう慣れているおねえちゃんが居た!
「おねえちゃん、凄いよ……!」
「慣れちゃダメだよ!?」
□ヒトは慣れる生き物らしいですからね□
この森の事を熟知している二人の先導で進んでいくと、広いはずの森を予定より早く踏破していって、少し先には見慣れた魔樹の森が見える。
レベルアップの結果俺達が早くなったので、広大なエリンの森をたったの二日で踏破してしまったのだ!
巨大果物の森とはお別れになるが、おじいさんに餞別として果物をドライフルーツと交換してもらったので、しばらく甘味に困ることは無い予定。
「良い所だったね~!」
「そうだね。おねえちゃん」
「ちょっと、名残惜しいわね」
「また、来たいね〜!」
「その時は案内するのだ」
おねえちゃんがへそくり果物でパンパンに膨らんだ腰の袋を撫でて、明るいエリンの森を振り返って呟くと、俺とローズも同じように振り返る。
そんな俺達に白鎧で完全装備のエテルナが、また連れてきてくれると約束してくれた。
「どうせだから! エリンの森を眺めながらお昼を食べよう!」
アルテの一言で、エリンの森から離れたところで、森を眺めながらお昼を食べる事になった。
折り畳みの机を組み立て、奥に比べればマシな明るさの魔樹の木陰に設置すると、おじいさんにチャージしてもらった魔道具でお湯を沸かす。
□ここからは、当機の出番ですね! 山の付近で降りれば大丈夫ですか?□
「その通りなのだ。山にはドラゴンが居るから、飛ばない方が無難なのだ」
一日ぶりの仕事に張り切るイーグルが手順の確認をすれば、快くエテルナが答えている。
金属の鳥に全身鎧が話している様子は、不思議とマッチしている気がする。
「森の中にはドラゴンは潜んでいないの? ドラゴンに国境なんて関係ないでしょう?」
その様子を眺めていたローズが鋭い質問をすると、魔樹に矢で傷をつけて樹液を集めていたアルテが答えた。
「地龍が出るけど、連中は鈍いから飛び越していけるよ! 飛んでなければちょっと面倒だったかもね!」
南側だと魔樹の森林内にもドラゴンが出るらしい、地龍といえば空を飛ばない事で有名なので、北までは来ていないんだろう。
お湯が沸いたので、簡易茶を放り込んでお茶の出来上がりだ。
オーヴァシーで新調した木製のカップへ注いでいく。
アルテが、魔樹の樹液付きなパンを簡易コンロであぶり始めると、何とも言えない甘い香りがする。
「皆も樹液を塗って焼くと良いよ! 良い感じになるから!」
おねえちゃんが早速たっぷりと塗りたくって、順番待ちをしているので予備の簡易コンロを発火させる。
喜んであぶり始めたおねえちゃんは、緑の眼を細めて嬉しそうで、俺も嬉しい。
「あぶったら、ジャムを塗って完成!」
余りになっていたオレンジジャムを瓶に詰めてきたのか、瓶を懐から取り出したアルテがフォークに付けたジャムを塗りたくり掲げて見せる。
掲げられたジャム塗れのパンは神々しく輝いていて、俺もつばを飲み込んでしまった。おねえちゃんの目は、もうキラキラだ。
「私にも、ちょうだい~!」
「良いよ! どんどん塗って! 悪くなるからね!」
瓶はすぐに空になったけれど、魔樹の樹液だけでも十分においしいパンは、凄い勢いで減っていく。
「こんな遠征で、有り得ない御馳走だよ」
「イーグルのお陰で旅が短縮されるから、どんどん使っているのだ」
□当機がお役に立てたようで何よりです!□
ここからの魔樹の森は地龍蠢く危険地帯だが、イーグルに乗って飛んでいく限りはアルテの言う通りに安全なんだろう。
問題は着地時だけど、その時はどうするんだろうか?
「ところでアルテ、山付近で着地する時はどうするんだ?」
「当然、こいつでやっつけるよ! いや~、アローレインはどんな感じかな!」
どうやら、ドラゴン弓の試し撃ちをやるらしい。 強化されていなくても魔樹をなぎ倒していたアローレインがどうなってしまうのか。
楽しみなような、不安なような不思議な心境だ。
「回復の奇跡は、回数が回復してるから安心するのだ」
頼もしいエテルナの言葉に、森の昼食は和やかに過ぎていく。
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