第64話 【空色の夢】補修の姉
黒い剣が砲を担いだ空色の人型を乗せて、青空を飛んでいる。
=ナンバー20、もう少し速くならないか?
=ナンバー5、可能だが予定の速度で移動している。
黒い剣に乗る空色の人型が持つ砲は、先端が煤けている。
=ナンバー5、整備はどうした?
=ナンバー20、無理を言って、簡易で済ませてもらった。
空色の人型は黒い剣にしっかり掴まった。
=ナンバー20、頼む加速してくれ。 僕が救いに行かないと!
=ナンバー5、了解した。 振り落とされるなよ?
空色の人型が掴む黒い剣は、青空を割いて飛び去って往く。
意識が浮かび上がってくる。
親愛を感じる夢を見た。
空色の人型は黒い剣を急かしたりと生き急いでる感じがして、それを黒い剣は心配している様だった。
しかし、今は目の前の事に対処しなければならない。
昨日はローズと手を繋いだ上で、それをおねえちゃんに抱かれて、微睡んでいたことまでは覚えている。
現状を見ると、俺はおねえちゃん抱き寄せられていて、多分大きな胸に顔を押し付けられている!?
「むぅ……おねえちゃん、少し力を緩めて欲しい」
「もぅ~仕方ないなぁ、クロは」
半分寝ぼけたおねえちゃんが力を緩めてくれたので、顔を天井に向ける事で鋼の相棒の事を守った。
クレイドルの時はローズがほぼ起きていたけど、今朝は巨大果物の収穫で働きすぎたせいか、手を握っても反応が無いので寝入っている。
半分寝ぼけたおねえちゃんが、緑の半目でこちらを覗き込んで微笑んでいる。
「どうしたの?おねえちゃん」
「クロのお陰でいろんなところに来れて、楽しいなって思ったの」
俺が傭兵になろうと思ったのは、おねえちゃんが結婚すると言ったからなので、半分はおねえちゃんのお陰だ。
でも、あの時は俺の妙な勘違いもあったので黙っておく。
「おねえちゃんと一緒で、俺も楽しいよ」
「クロ~!」
微笑みのとろけたおねえちゃんが俺の頬に頬ずりしてきて、レベルアップ直後で輝く髪の艶やかさに目を奪われる。
桃色の流れに吸い寄せられそうになる体を鋼の相棒で押さえつけて、耐えているとつないだ手の先に反応があった。
おねえちゃんが大きく動いた結果、ローズが起きたみたいだ。
「おはよう、チェルシーとクロ。 待たせたみたいね?」
「おはよう、悪いけどおねえちゃんを起こして欲しい」
「おふぁおー、ろーずぅ!」
半分寝ているおねえちゃんも挨拶するけど、頬ずりしながらの挨拶なので口がうまく動いていない。
ローズがしばらく肩を叩いて起こしていると、目がちゃんと開いたおねえちゃんがしっかりと挨拶をしてくる。
「おはよう~!」
「「おはよう」」
何事もなかったような、おねえちゃんの様子にローズと目を合わせて笑うと、俺達もおねえちゃんへもう一度、挨拶した。
テント内の低いテーブルのある居間に行くと、おじいさんが座って例のコップでお湯を飲んでいて、徹夜したんだろうか?
「お~! おはようさん! 固定具は作って、黒い魔導鎧にあった肩の被弾跡も補修しておいたぞ!」
固定具作成以外にも、俺の魔導鎧の傷を補修してくれたらしい。
「ありがとうございます。 助かります」
「良いってことよ! アルテマも中々に、迷惑をかけているだろ!」
確かに居間に置いてある俺の魔導鎧の傷は塞がっていて、色も塗りなおしてくれたのか、黒く輝く。
よく見れば、おねえちゃんとローズの魔導鎧も綺麗になっている!?
「助かるけど、今日出るのよ? 塗装が乾くの?」
「大丈夫だ!魔法で何とでもなる!」
そういったおじいさんは座ったまま手を突き出して、詠唱破棄した魔法を放つ。
魔法使いは魔力の制御力の関係で、全員が詠唱を破棄可能なのだ。
「風よ! 火よ! 風よ! ヒートストーム!」
かなり威力の弱められた熱風の嵐は、俺達の魔導鎧を暖かく包み込み乾かした。
「部屋の中で、複合の魔法を使うなんて結構な自信ね」
「並みの魔法使いよりも経験がある上に、制御力に余剰がある状態だからな!」
自分の制御力に対して胸を張るおじいさんに、寝室から居間にやってきたアルテが突っ込みを入れる。
「ちょっと前に制御をしくじって、火事にしてたじゃん!」
「二十年も前の話は時効だ!」
「ガルト王国の時効は覚えてる人が居なくなるまで!有罪!」
屁理屈を言い合う二人を無視した、マイペースなエテルナが鍋とバスケットを持って居間にやってきた。
「毎度よくやるのだ。 オレンジを潰して煮たから、パンに付けるのだ」
「オレンジをパンと食べるんだ~?」
「これは美味しそうだわ」
鍋の中身はオレンジらしく、いい香りが漂ってきて、言われた通りにバスケットでもってきてくれたパンに付けて食べると、とても美味しい!
おねえちゃんが既に二つ目に手を付けているので、焦った二人も喧嘩を辞めて、席に着いたら食べ始める。
「クロ、おいしいね~?」
「そうだね、おねえちゃん!」
エルフ集落を出発前の朝は、穏やかに過ぎていった。
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