第62話 【森林車両】車上の姉
おじいさんなエルフに連れられて来た、巨大テントの裏手には大きめのテントがあって、こちらは普通の扉ではなく両開きの大きな扉が付けられている。
「ここは俺の作品!が保管してある倉庫だ!」
「家に入りきらない程、作ってるのだ」
「まあ、物置きって事!」
おじいさんの説明に、エテルナは作品数に対して呆れた顔をして、アルテが同調して実態を伝えると、おじいさんが音を立てて大きな扉を開くと、まず目に飛び込んだのは……魔導車だ!
魔導車というのは魔力を動力にした移動用の道具で、ガルト王国だと街道に定期便が走っている。
大きさによって複数人が乗ることもできるが、テント内に安置されている魔導車は四つの車輪を回転させるタイプの物で、最前列に背もたれのある椅子が二つ設置されていて、その後ろには背もたれ付きの長椅子が向かい合わせで並んでいるので、かなりの人数が乗れそうだ。
前に見た定期便の魔導車に比べて、車輪が大きく見える。
「これは魔導車をエリンの森用に改造した、名付けて森林魔導車だ!」
「驚いた? 数少ないまともな発明だよ!」
「この魔導車には、世話になったのだ」
倉庫内に入ったおじいさんは、魔導車の車輪を叩いて自慢げに語り、この魔導車については、他の道具に辛辣だったエルフの二人も高評価。
「この車輪を見てくれ! 大きいだろう! これで小さな段差や罠、木の根を乗り越えるぞ!」
「確かにこれなら、落とし穴くらいは通り過ぎそうだ」
森の中は障害物が多いので、大きな車輪を使って乗り越えるみたいで、感心した俺は相槌を打つ。
「凄い槍がついてるよぉ! これ何~?」
「車載の機械槍ね。 使い方がコピー元に近いから、大型で威力があるわ」
おねえちゃんは、魔導車の上に備え付けられた、大型の機械槍に注目してローズに聞いている
それに答えるローズの話だと、大きい分強い機械槍らしい。
「試し撃ちしてみるか? 村の外にちょっとした演習場があるぞ!」
「魔法使いなんでしょ~? 大丈夫なの?」
「丁度、制御力を鍛え切ってレベルを上げれるんだぜ!」
そんなおじいさんの提案によって、俺達はまた森の中へと繰り出すことになった。
一番前の運転席に座るおじいさんが操る魔導車は森の中をゆっくり進んで、それにイーグルが徒歩で並走している。
□前方の木にリンゴのモンスターが、二体いますね□
イーグルの警告に、運転席の隣にある少し高めの席に座ったおねえちゃんが車載の機械槍を前方に向け、重そうに引き金を引き絞ると。
普通の機械槍より間隔の短い発泡音と共に、木にぶら下がって擬態していた巨大リンゴが、次々と砕け散って普通のリンゴに変わる。
背後の木も両断していて、凄い威力だ!
そのままだとリンゴが地面に落ちてしまうが、いつの間にか降りていたアルテが、素早くリンゴを回収して齧り付いた。
「フハハ!採れたては美味しい!」
「上手いじゃないか! 良い武器だろう?」
「今度は採れたてを食べたいな〜」
おじいさんが見上げて車載機械槍の扱いを褒めるけど、おねえちゃんはアルテの齧る新鮮リンゴに夢中になっている。
おじいさんが魔導車で連れてきてくれた演習場は、定期的に整備しているらしく、罠やモンスターが少ない。
装備の試し撃ちにはちょうどいい場所だと思う。
「それにしても、そこの銀色の魔導機械は凄い代物だな! 何かの術式で重量を軽減してるんだろうが、軽快な動きだ!」
□飛行補助術式の応用です。 イーグルと呼んでくださいね□
魔導車に並走するイーグルを見て、予想しながら軽快な動きについて称賛すると、イーグルの答えに魔導車の速度を緩める。
「飛行!飛ぶのか!ここがエリンの森で無ければ頼んでいたな!」
魔導車を止めたおじいさんは、イーグルが飛行すると聞いて手を上げて喜んでいるが、こんな森で空を飛んだら文字通り目の敵にされそうなので、やめて欲しい。
「イーグルは凄いよ~! 凄い早さで全員を乗せてここまで来たんだぁ!」
□凄い?照れるな~!□
「背中のコンテナに乗せてきたのか! 凄い力だな!」
新鮮果物の魅了から復帰したおねえちゃんが、凄いと褒めるとイーグルは翼で頭部を隠して照れている。
おねえちゃんの言う通りで、森の中を縫うように飛ぶイーグルは、もしかしたらこの森で最も速い存在かもしれない。
クレイドルではとんでもなく目立っていたので救世主扱いされていたけど、このイーグルのお陰であのタイミングで辿り着いたのは間違いなく、救世主扱いは妥当だったのだ。
「コンテナの固定が甘いな。 家に帰ったら固定具を作ってやる!」
□ご支援感謝します! その功績は勇者チェルシー軍に記録されますよ?□
コンテナを眺めていたおじいさんが、固定の緩んでいる所を見つけると、助かる提案をしてくれる。
その提案にはイーグルも大喜びで、例のチェルシー軍の記録に残すと言い出す程だ。
「急造だったから、助かるよじいちゃん! ありがとう!」
「俺の発明品が役に立ったと、村の皆に自慢できるからな!」
アルテの元気な感謝に対して、おじいさんは嬉しさを隠す様に自慢の為だと思っても無さそうな事を言っている。
「素直じゃないのだ」
「それを言うのは野暮って奴だよ」
そんなおじいさんに対して、エテルナは大げさな動作と言葉で呆れを表明して、ベクターがそれを諫めるが、その表情は半笑いだ。
「そうと決まれば! 俺の家に帰ろうか!」
自分の不利を悟ったおじいさんが、魔導車を上手に旋回させると、元来た道に帰り始める。
ちょっと荒らしてしまった森を後にして、俺達はエルフの集落へ帰っていく、森の演習場での魔導車体験は終わりだ。
――あとがき――
10/8 すいません、このお話にはおじいさんが制御力を鍛え終わっている事を後から追加しました……。
重大な設定ミスにかなり遅れて気が付いて、悲しい。
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