第61話 【マイ秘宝】利器の姉

  楽天エルフのお爺さんに連れられて、俺達はエルフの家である巨大なテントへお邪魔する。


 テントの中はしっかりした柱が立ててあって、木の床も敷いてあるので壁が厚い布であること以外は、家そのものだ。

 

「外からの客なんて、久し振りだな! 俺の作品を見せてやろう!」

「まあ、座ってよ! 寄り合いの為に、座る為のクッションは多めに用意してあるから!」


 おじいさんエルフが作品を見せてくれると言って、奥に行ってしまったので、アルテに勧められ、テント内に置かれた背の低いテーブルを囲んで、クッションに座り待つ。


「何を見せてくれるんだろう~?」

「魔法使いだと言うから魔道具かもね? 長寿のエルフが考えた魔道具、楽しみね」


 おねえちゃんとローズは、見せてくれるものを楽しみにしているみたいで、予想を立ててみたりして期待している。


「じいちゃんはへんてこな物ばっかり作ってるから、期待しない方がいいぞ!」

「擁護できないのだ」


 おじいさんエルフを知る二人は、期待する二人に対して、期待しすぎないようにと釘を刺している。


 しかし、へんてこな物と言われると俺も気になってしまう。


「へんてこな物ってどんな――」

「へんてこな物とは失礼な! これが俺の作品だ!!」


 俺が聞こうとしたところで、おじいさんエルフが帰ってきて、聞こえていたのか抗議しながら、机に色々と並べる。


 円柱状の物を一つ手に取ってみると、これは……コップだ。 外側に複雑な模様の付いた金属製のコップで、内側は普通だ。


「ククク! それに目を付けたか! その魔導コップは凄いぞ!」

「魔導コップ?」

「コップ裏に刻まれた術式によって、中身を冷やす事と温める事が出来る!」

「それは凄いコップだよ!」


 俺が持つコップを指差しておじいさんが言うには、術式と言われるものが刻まれていて、魔法の効果が発動できるらしい。 その効果にベクターが感動している。


 暖かい飲み物を喜んでいたから、いつでも暖かい飲み物が飲めるこのコップは、ベクターの好みなのだろう。


 俺としても、火を使う手間なく暖かい物を用意できるのは凄いと思うし、冷やす事が出来るのなら、汲んだばかりの井戸水と同じ、冷たい水をいつでも飲めるという事なので、凄い道具だと思う。


「どうやって使うの~?」

「中身に水を入れて、魔力を通せば動くぞ!」

「魔法使い専用なのね。 魔道具のコアが見当たらないと思ったわ」

「俺が使えれば良いからな! 魔石を使っても使えなくはないぞ!」


 おねえちゃんが肝心の使い方を聞くと、おじいさん専用との答えが返ってきたので、ぬか喜びをしたベクターと顔を見合わせて微妙な表情になってしまう。 


「やっぱり、へんてこな発明! 自分専用って何!?」

「誰かに売るわけでもないからな! 自分が使えれば良いんだ!!」

「機能は素晴らしいと思うのだ」


 アルテが発明品の用途の狭さに文句をつけると、おじいさんは自分が使えれば十分だと堂々と開き直って、エテルナはその機能について高く評価した。


「ならばこれだ!」


 おじいさんが今度は、大き目なコップを拾って、テーブルに置いてあったリンゴを放り込むと、コップを両手に握って光らせる。


 ローズが魔導鎧の魔力チャージを魔石でやっている所に似ているから、魔力をチャージしてるんだろう。


 少ししてからコップを置いて見せると、中の変化は劇的だった。 リンゴは無くなって、黄色い液体に細かい赤色、赤いリンゴの皮と思われる物が浮いているのだ。


「どうだ! この果物破砕コップの力は! 凄かろう?」

「リンゴが水になっちゃったよぉ!」

「これは凄い!」


 種とかも浮いてるのは気になるけど、一瞬で食べ易そうを超えて、飲み物になってしまった! 粉々に砕いたみたいで、リンゴの良い香りが漂ってくる。


「魔力の消費が激しすぎないかしら? 魔石何個分?」

「……美味しいから!」

「良いなぁ~!」


 ローズの指摘に明後日の方向を向き、リンゴの液体を一気飲みすると、味の良さをアピールするおじいさんに、おねえちゃんは羨ましそうにしている。


「これの良さが分かるか! 予備があるから一個あげよう!」

「ありがと~!」


 羨ましそうなおねえちゃんに、転がしてあるもう一つの果物破砕コップをくれるという、おじいさんエルフは太っ腹だ。 運用費は考えないようにしよう……。


「発明品の良さを分かって貰えて、嬉しかったんだろうね!」

「この村だと、寄り合いの時くらいしか自慢する機会が無いのだ」


 早速、腰の袋に隠し持っていたリンゴをコップに入れて、おじいさんに頼んでいるおねえちゃんを眺めて、エルフの二人は微笑ましそうにしている。


 すぐに完成したリンゴ液を飲み干したおねえちゃんは、また袋からリンゴを取り出していて、一体いくつ隠し持っているんだろう?


 そこに待ったがかかる。


「チェルシー、食べ過ぎだわ。 さっき食べてから大して時間が経ってない」

「食べすぎは体に毒だよ」


 ローズの言う通り、村に来る前に焼きリンゴを食べ尽くしているおねえちゃんは、食べ過ぎかもしれない。


「この位にしておくよぉ……」


 おねえちゃんは残念そうだけど、おねえちゃんの為だから仕方がない。


「食べ物以外か! 外に面白い発明品があるぞ!見てくれ!」


 その話を聞いていたおじいさんエルフは、今度は外で発明品を見せてくれるらしい。


「あ~、あれか!」

「あれなのだ」

「あれって?」


 通じ合っているエルフ二人に聞いてみると「見てのお楽しみ!」と返された。


 おじいさんエルフの先導で、再び村に出る。

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