妖精の村の休息

第60話 【妖精集落】天幕の姉

 結局食べ切れ無かった果物をイーグルのコンテナに詰め込んで、俺達はエルフの集落へ進んでいる。


 ちなみにイーグルが掴んでいたコンテナは、俺達の乗せてもらっていたコンテナ内部に固定して、纏めてある。


 □木のモンスターに名前は無いのですか? 登録しておきたいのですが□

 イーグルが尋ねると、ブドウを持って上機嫌なローズが答える。


「一応辞典で類似したものを見たことがあるわ。辞典では果物の魔物なんて、ぶら下げてなかったけど、トレントと言われているわ。ドロップは香木ね」

「香木って何~?」


 物珍しい言葉におねえちゃんは、興味津々で拾ってきた木材を見つめている。


「香木というのは香りのする木の事で、焼く事で香る物も有るけど、それその物が香る物もあるわ」

「そうなんだ~!」


 ローズの言葉におねえちゃんは、ドロップした木材に顔を近づけて、顔を傾ける。


「匂いはしないよぉ?」

「じゃあ、燃やさないと香りの出ない奴かもね?」


 魔樹を倒すと樹液の甘い香りが広がったが、香木はどんな香りがするのか興味を覚えつつ、エルフ二人の先導について行く。


「レベルアップしたとはいえ、野宿からの連戦だから集落で休んだ方が良いのだ」

「果物以外何にもない所だけど、休むのには十分!」


 二人の提案でエルフの集落で休む予定、アルテは果物以外何もないと言っているが、どんな場所なのか気になるので聞いてみる。


「エルフの集落はどんな場所なんだ?」

「マダイジュやオーヴァシーに比べると地味!」

「木の床が村中に張り巡らされていること以外、本当に普通の村なのだ」


 俺の質問に元々暮らしていた二人は、普通の村だと答えた。

 しかしそんな場所で、果たして二人みたいな英雄や罠をぶっ壊して解決するみたいな考えが生まれるのだろうか?


「ダンジョンの中に住み続けてる時点で、常識外よ。 普通とは違うと思うわ」

「こんな場所に暮らして、普通は無理があるんだよ」


 エルフ二人の言葉はローズとベクターに住んでいる場所の時点で普通ではないと、否定されてしまった。


「普通じゃないところに、普通の村があるんだ~?」

「楽しみだね、おねえちゃん」


 おねえちゃんは見たことのない場所に楽しみそうな顔をしていて、俺も楽しみになってしまう。


 二人の案内で森の中をぐんぐん進む俺達は開けた場所に出てきた。


 その場所は地面に床が敷いてあって、その上に布を組み合わせた巨大なテントの家が点々と建っている。

 家から顔を出した耳の長い人たちが、こちらを物珍しそうに観察していると思ったら、よぼよぼの小さい耳長が飛び出してきた。


「エテルナとアルテマ! よくぞ帰ったな! 後ろの者たちは何者だ?」


 銀に近い金色の髪に空色の目のおじいさんエルフは、なんだかアルテに似た喋り方でエルフ二人を歓迎して、こちらの事を訝しげに見てくる。


「ドラゴンのダンジョンを攻略に行く面々なのだ!」

「楽しそうな旅に相乗りしてるところ! ただいま、爺さん!!」

「おう! しかしドラゴンか! 我等の歴史に伝説が打ち立てられるな!!」


 テンション高めだと思ったら、アルテのお爺さんみたいでドラゴンのダンジョンと聞いて大興奮だ。


 しかし、エルフでお爺さんって相当な高齢と言う事では……?


「エルフなのにお爺さんなの~?」


 おねえちゃんが気になった事をすぐに聞いてくれるが、デリケートな話題だが大丈夫なんだろうか?


「俺は魔法使いなんだ。 頼られるのは良いが、レベルが上げられなくて、こんなに年老いてしまってな。 ま!しゃあないけど!家に案内するぞ!」


 ちょっとテンションの下がったアルテのお爺さんは、切り替える様に案内してくれる。


「悪い事聞いちゃったかなぁ?」

「大丈夫!エルフの人生はレベルの加護抜きに長いから!折り合いはついてる!」

 おねえちゃんが気にしてしまったけど、それを聞いたアルテが肩を叩いておねえちゃんをフォローする。


「人間の魔法使いより、全然マシさ! あいつら本当に時間が無いからな」

「そうなんだ~!」


 それが聞こえていたお爺さんは、人間の魔法使いを例に出して、自分の境遇を笑い飛ばす。 確かにエルフは元々が長命と聞くから、人間よりは差が少ないのだろう。

 おねえちゃんも本人が気にしていないならと、相槌を打って微笑んだ。


「ここが俺の家だ。 好きにしていってくれ」

「そして僕の家でもある。 人数が多いから予備の家も出そうかな?」


 案内されたのは、他と同じく巨大なテントで、骨組みとしてしっかりした柱が使われている。 しかし予備の家とは、簡単に建てられるものなのだろうか? 聞いてみる。


「そんなに簡単に家が出せるのか?」

「建ててある家に沿って出すだけだから。 楽なんだ! 見せよう!」


 そういったアルテは家の中から長めの棒をいくつか出してきて、組み立てて家に取り付けたら、それに布をかけて固定、巨大テントを増築してしまった。


「こんなもんさ! イーグルが入れれば床はいいよね!」

「凄い家……家というか固定された天幕だよ……!」


 アルテの自慢する簡単に増築してしまった家を見て、ベクターは感動しながら突っ込んでいる。


「火事が起きた時に木製だと困る! 固定されたテントが家!」

「あの火を噴く一つ目リンゴね。 床も木だし燃えたら大変そうだわ」

「そういう時は床も砕いてしまって、火を止めるのだ。 破壊消火なのだ」


エルフ集落の火事事情を聴きながら、今日の所はここに泊まって休むことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る