第59話 【射的合戦】銃士の姉

 地面に縫い留められた事で、目を見開いた木のB級モンスターが揺れて、落ちてくる巨大果物たちは目を開けた端からローズに撃ち抜かれ、消えていく。


「なかなか楽しいじゃない!」


 軽快に撃ち抜いていくローズは楽し気に赤い眼を細めると、追撃とばかりに木の開いた目を撃ち抜き、手慣れた手順でマガジンを変えて、再装填する。


 両目を撃ち抜かれた木は暴れだすが、余程深く根を縫い留められているのか動けない。


 木が暴れた拍子に巨大な果物達が次々落下してきて、それらが地面に落ちた衝撃から復帰するのを皆で機械槍の弾をバラまいて妨害していると、一部の上手く復帰して擬態を解き足を生やした果物から、反撃の火炎弾や石礫が散発的に飛んでくるので、それを回避したり機械槍で反撃したりを繰り広げる。


「大漁だ!撃て撃て!!アハハハハ」

「意外と当たるのだ!」

 アルテも背中に担いでいた機械槍を狙いもせずに撃ち込み、弓と通ずる所でもあるのか当てていて、エテルナも思い切り良く突っ込んでは槍の延長の様に当てている。


 折角なので、巨大な果物を皆で収穫だ!


「近接武器じゃないんだよ……?」

 戦いだと切り替えの早いエテルナに呆れているベクターは、一発一発確実に弱点に当てている様で、機械槍が得意というのは伊達ではない。

 

 安定した戦況は暴れる木によって破られた。


 目を潰された木が矢に縫われた根を引きちぎると、狂乱して周囲の木に突っ込んでは他の木に突っ込み始めたのだ。


 狂乱した大型モンスターの大暴れによって、安らかにぶら下がっていた巨大果物が降って来て、こちらを視認すると氷に火に石にと様々な魔法の礫が飛び交い始め、一方的な収穫場所は果物の焼けたり砕けたりする匂い香る、フルーティな魔法と機械槍の撃ち合いの場所に変貌してしまった。


「美味しそうな匂いがして、賑やかな森だね~!」


 そんな状況でもおねえちゃんは楽しそうに片手で機械槍を構えて撃ち抜いていく。


 此方を狙う一つ目リンゴが居れば、撃ち抜いてただのリンゴに変え、飛んでくる氷の礫をもう片手の剣で切り捨てる。


「ちょっと数が多いわね。 チェルシー! 木のモンスターを倒しちゃって!」

 氷の礫を放った1つだけ目玉の生った巨大ブドウは、おねえちゃんに撃破要請したローズの射撃で普通のブドウに変えられた。


「やっちゃうよ~!『砕けろ』」


 ローズのお願いに快い返事と共に飛び上がったおねえちゃんは、迎撃の魔法を魔導スラスターの推力で抜き去って飛び上がり、輝く蒼い剣を振り上げると発動句を唱えて急降下してくる。


 収束された斬撃の激流が振り下ろされる。


 おねえちゃんが斬撃の激流剣を振り下ろした跡は真っ直ぐに地面が割かれて、縦に分割された木のモンスターは消え、モンスターの絡んでいた木は立ったまま一面を製材されてしまった。


 ドラゴンパピーとの連戦で使っていた技だ。


 前に見た時より明らかに破壊力が高まっていて、レベルアップの出力の強化を目に見える形で見せられたが、戦力評価が五倍五倍で上がってるのに納得だ。


 俺とおねえちゃんにローズの体が光り輝く、これは……レベルアップだ!


 レベルアップを喜ぶ間もなく、残りの敵を殲滅していくが機械槍を構えるおねえちゃんとローズが、レベルアップで調子を上げ、凄い勢いで敵を倒していく。


 気がつけば周辺はドロップした果物で、いっぱいになっていた。


「やったねローズぅ! あと一歩だよ! 」

「ドラゴンを倒したけど、早すぎるわ。 王国に帰るころには、大戦士を通り過ぎていそうな勢いよ? 」


 おねえちゃんがローズの目標に近づいている事を祝っているが、流石のローズも速すぎるレベルアップに困惑気味だ。


「ドラゴンは強敵だからね!近くで沢山倒したから、そりゃ上がるよ!」

「基本的に大戦士以上の獲物なのだ」


 ドラゴン狩りのエキスパート達の言葉に、ローズも自分の知識に照らし合わせて頷いた。


「確かに格上狩りを続けているようなものね。 行く先々で格上が出てくるのは可笑しいけど」




 敵が全滅して空白地帯になったこの場所で、回収してきた大量の新鮮果物を食べる事になった。


「クロ~、リンゴを焼いて?」

「良いよ」


 リンゴを持ってきたおねえちゃんに頼まれたので、リンゴを焼く事にする。

 俺が罠に引っ掛かってから、ずっとリンゴを目で追っていたので余程焼けるリンゴの香りが気に入ったんだろう。


 普通に焼くだけだと失敗しそうなので、成功体験に逃げる。

 クレイドルで貰ってきた魔樹の樹液を使い、カラメリゼにしてしまえば余程相性が悪くなければ喜んで貰えるだろう。


 薄目にスライスしたリンゴから芯を抜き、魔道具の火で熱した浅めの鍋に魔樹の樹液を投入、水で焦げないように調整していい香りがし始めたらスライスリンゴを投入して馴染ませ火から降ろして完成だ。


 あの隠れ家には感謝だ、本当に応用の効く調理方法を盗ませてもらった。


 おねえちゃんの差し出す大皿に盛りつけてあげて、俺もフォークで一つ頂くと、生で食べるよりも柔らかなリンゴに絡んだカラメルが喜ばしい苦みを感じさせる。


「ちょっと苦くていいねぇ!」

 おねえちゃんも喜んで食べてるから大成功だ!


 魔樹の樹液はクレイドルの特産でかなり分けてもらったから余裕がある。

 しばらく定番レシピに出来そうだ……!


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