第57話 【漢罠解除】力技の姉

「あれかな? 皆、来てほしいのだ」


 白鎧のエテルナは周りを見渡すと森の一角に目を向け、俺達に声を掛けて、そこへ歩き始めたので皆でついて行く。


 森の一角に到着すると地面の一部を軽く蹴り始める。


「この地面にある枠が罠なのだ。 一回作動させるから、離れていて欲しいのだ」


 エテルナが蹴っていると、段々と積もっていた落ち葉が払われて、確かに何か四角い枠がある。


「罠って、ああいうのなんだ?」

「俺も実物は初めて見るよ」


 おねえちゃんと一緒に罠の作動を眺めていると、エテルナの蹴りに罠が起動して枠の中が開いた。


 枠の中は空洞になっていて、膝まで程度の深さがある穴になっている。


「あれだけなの〜?」

「あれだけでも戦っている時に、足を取られるのは危ないよ」


 おねえちゃんが大した事無い罠発動の光景に首を傾けるけど、舐めたら危ないので注意を促す。


「見ての通り浅い落とし穴なのだ。このまま残っていると戦闘中に足を取られるかもしれないから、こうやって! 解除するのだ」


 腰に差していたメイスを抜いた白鎧は罠に対して叩きつけた!?


 突然の行動に一体何をと思っていると、メイスでたたっ壊された罠が消えて、穴も無くなった!?


「罠もダンジョンが作った物だから、壊すと消えるのだ!」

「要するに!ぶっ叩いて!!ぶっ壊せば大丈夫って事!!!」


 エルフ二人が胸を張って説明しているが、なんて力技だ……!


「壊せば良いんだね〜!」

「物事は単純な方がやり易い……良いわね!」

「俺もやってみよう」


 二人は乗り気みたいだし、俺も頑張ろう。


「エルフの罠対策、脳筋すぎだよ……」


 森の中でエルフに導かれて俺達は罠破壊の練習に向かう。


「アレが良いかな?」


 アルテが指差した先には先ほどのと同じような枠が地面からせり出している。


「私がやるね~?」


 おねえちゃんが一目散にそれに向かって行き、蒼い剣を振り上げて枠の付いた地面へと振り下ろした。


「ちょっと、やりすぎたぁ……」

 すると振り下ろされた剣が勢い余って罠の周りの地面も破壊して、枠は光を放って消え去ったが地割れが残された。


「思い切りがよろしい!お見事!」

 エテルナが拍手をして褒めるので、俺達も釣られて拍手をする。


 どうやらエテルナは褒めて伸ばすタイプみたいだが、罠より深い地割れが起きた地面はさらに危険が増してるように見える……!


「次は、あれでどうだ!」


 アルテが指差したのは木の根元にある小さめの四角で落し穴では無いタイプの罠だ。


「私がもらうわ」


 それに挑むのはローズで、自信ありげに機械槍を構えると発砲して小さめの四角に当て、罠を発動させる。


 手の平ほどの目標に一発命中、流石だ。


 すると、木の上から石が降ってきて罠を潰してしまい、そのまま消えて行く。


 落石の罠だ、石が罠に直撃して自爆したみたいで何も残らない。


「イイネ!最後にクロくんには、あれをやってもらおうか!!」


 残った俺に名指しでアルテが指差すのは、木から突き出る棒で知らずに触れると作動するのだろう。 


「やってやるぞ!」


 先に罠を破壊した二人に触発された俺は、やる気十分に罠に近づいて、起動させないように棒の根本にナイフを差し込んだ。


 罠が消えていくのに安心した俺が振り返ると、目の前に手を上げているアルテが居て、嬉しそうに警告する。


「油断大敵!二重の罠にやられちゃう!!いい感じに引っ掛かってくれて僕は嬉しいよ!!!」


 その言葉に楽天エルフの手の先を見ると、目を見開いて明後日の方向に火炎弾を連発するリンゴが捕まっていて、ゾッとする。


「木の上にモンスターが待機していた……?」

「そのとーり!罠を見せ札に本命!!」


 長く存在するダンジョンとはここまで人の裏をかくのか、と驚いていると皆も集まってきた。


「ドラゴンのダンジョンも似たような状態なのかもね。 予行練習が出来て助かるわ」

「リンゴが火を吹いてるね〜!焼きリンゴかぁ……」


 ローズが冷や汗をかきながら、魔法を連発する巨大一つ目リンゴを見て言うと、おねえちゃんはリンゴの焼け付く香りに、新しい果物の料理方法を思い付いたみたいだ。


「じゃあ、やっちゃって?」


 アルテに放り投げられたリンゴへナイフを刺そうとすると、俺のすぐ眼の前でローズに一つ目を撃ち抜かれたリンゴが消えていく。


「何をする!?」

「忘れていたわね? こんな入口で荷物は困るわ」

「そうだった……」


 驚いた俺が抗議すると、涼しい顔のローズに言われて思い出す。


 見事に罠に引っかかりカッとなってしまったけど、俺が倒してしまうとレアドロップが出て、荷物になってしまうんだった……!


「この森ではクロはお休みだ〜。 いつも頑張ってるから、ゆっくり休んでね?」

「出し過ぎたレアドロップで動けなくなるなんて困るね。 童話みたいだよ?」

「動けなくなるのは困る」


 おねえちゃんに労られて肩の力を抜くと、ベクターの言葉に同意する。


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