第53話 【巨龍襲来】爆裂の姉

 黒煙から飛び上がってきた巨龍は体に黒煙を纏って、ゆっくりとこちらに向かって来るが、遅く見えるけど付近にある魔樹から判る巨大さからすると凄い早さだ。


「結構な大物が来たねぇ……! ガルト王国に来るドラゴン並みだ!! 」

「あんなのが襲来して、国が残ってるガルト王国はどうなってるんだよ? 」

 ガルト王国のドラゴンキラーであるアルテが言うには、あれ位がガルト王国に来るドラゴンらしい、北の帝国出身でドラゴンに縁のないベクターが呆れている。


「今までのドラゴンより大きい~!」


「そうねガルト王国だと、ドラゴンは大戦士が足止めして、呼んだドラゴンキラーに狩ってもらうのが常識ね。 そのレベルの相手と言う事! 幸いここにはそのドラゴンキラー様が居るんだけどね」


 おねえちゃんがその大きさに驚くと、ローズはジョーシキ語りをこんな事態の時も炸裂させてアルテに目を向ける。


「あがめ!うやまえー!!」


 それを受けて目を閉じて両手を耳に当てる楽天エルフに不安を覚えるけど、事実としてさっきの活躍は本物なので、どんな事をやればいいのかを聞いておく。


「アルテが居れば大丈夫として、俺たちは何がやれる? 」

「魔導鎧ならアレだね! アレ!! 弾薬費は高いけどさ? 丁度そこに、亡国寸前の同盟所属国が有るから同盟自体から毟り取ろう!!! 」


「良いモンだぞぉ! 」とアルテが楽しそうにしてるので、禄でもないことが起きそうだが専門家の話は聞いておいた方が良い、エテルナも酷い物言いに文句も言わずに頷いているあたり、効果的な攻撃では有るんだろう。


 魔導鎧のアレは本当にとんでもなく高額な弾薬費だが!


「来るぞぅ!うて、うてー!」


 楽天エルフの気の無い号令の後に、こちらの事をようやく気が付いた巨大ドラゴンは、羽虫を払っておこうと自分から真っすぐに突っ込んでくる。


 大きくなって行動がパピーと同じに戻ってしまうのは、それだけ自信があると言う事か、大きくなりすぎて頭には血が回らなくなったのか。


 今はその単純さがありがたい。


 3人で腰にある装甲を左右同時に押して、魔導鎧の普段使わない装備を展開する。


 俺達の魔導鎧背部にあるアームキャノン弾薬保管庫の上がスライドして、アレの先端が出てくると多目的バイザーに追尾対象が映される。


 今、目の前にいるのはでかいドラゴンだけなので、迷うことなくバイザーの横を押して対象を決定すると、安全装置の解除されたアレが独りでに飛び立ち、ドラゴンへと突っ込んでいく。


 アレというのは誘導弾だ。


 魔導鎧に搭載されている切り札で、弓使いの誘導に似た魔法と高威力の爆発魔法が同時に組み込まれた高級魔道具を、敵に直撃させて起爆するという使い捨てで経済性や効率なんて全部無視した代物。


 限界まで制御力を鍛えた後からレベルアップするまで、という短い期間しか前線に出られなくて、戦士たちにレベル的には置いて行かれて、年齢的には置いて行ってしまう悲劇の天才魔法使い達の怒りと殺意の結晶だ。


 元々俺の試作機はアームキャノンを切り捨てて、これを使うためだけに試作された高速、高防御の魔導鎧だったので、二人の倍の誘導弾が装填されているが、弾薬費が高額すぎて弾薬費が都市持ちなアテナの撃墜祭りにでも行かないと使う機会なんて無いと思っていた切り札である。 


 俺が八発、二人が四発ずつの合計十六発の誘導弾は、次々と着弾していってその性能通りに巨龍の手足や翼などの末端部を吹き飛ばしていく。


 その様子はド派手で炸裂音と共に丸く広がる美しい光に、禍々しい巨龍が飲み込まれていくみたいだ。




 きっとこれを作った魔法使いたちは、自分で直接これをやりたかったのだろう。


 命を捨てればやれるだろうが、魔力制御の関係でレベルを上げる前にどんどん年齢の上がって年老いてしまう魔法使いは貴重だ。

 貴重なのに魔道具の稼働の為に必要だから、危険な戦いとなれば下手な権力者よりも先に退避させられてしまうので、そんな機会は無い。


「アテナは魔法使いの学校があるが大丈夫なのか?」


「近くでドラゴンが倒れるとダメだから、アテナの撃墜祭りは誘導弾を町の遠くでドラゴンパピーにぶつけて弱らせて、さらに弱らせたパピーの撃破記録を競う、止めを刺すお祭りね! こういった大きなドラゴンはシールド学園長が遠くで仕留めるわ」


 ローズが俺の質問に撃墜祭りの話をする。

 変なお祭りだと思っていたけどちゃんとした理由があって、弾薬費の肩代わりがあるのだと安心した。

 最終的には巨大なウォータードラゴンパピーになってしまった巨竜は、アルテの貫通槍の蒼い軌跡に串刺しとなって消えていった。


 おねえちゃんが久し振りにお造りをしたそうにしていたけど、かなり無理を押して竜巻をやっていたみたいで疲れてるから止めて、今度は俺がおねえちゃんを運んであげる事にする。


 おねえちゃんを背に乗せて持ち上げると、こちらに寄りかかるおねえちゃんは嬉しそうに頬ずりしてお礼を言ってくる。


「クロぉ、ありがと~」


 切り札である誘導弾は弾切れだけど、遠くでもあれだけドラゴンを打倒したからレベルアップは近いはずだ。


 次にドラゴンと戦う時は自力で打ち倒せるだろうか?


 エルフの森での訓練に期待しつつ、俺たちは黒煙昇るクレイドルへと向かう。

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