第52話 【大地砕く】竜巻の姉
パピーの唾みたいのとは違う、十メトル近い巨体から放たれる赤く燃え盛る炎が、本物のドラゴンのブレスが俺たちへ迫るが、それと俺達の間に割り込む花々しい白鎧がいる。
エテルナだ!
『障壁の奇跡』
神秘的な金色の光がエテルナとドラゴンの間に広がってブレスを受け止めると、ドラゴンはそのまま押しつぶしてやろうと吹きかけ続ける。
光の外側と内側で明確に差が出始めて、内側は無事だが外側は気温の上昇により燃え上がり始めて、火の海となり金の光から出たらタダでは済まないだろう。
いつまでも続くと思われた金と赤の拮抗は、ドラゴンの息切れによって幕を閉じた。
余りの長時間放射に隙を見せているドラゴンだけど、火の海の中にいる相手に下手な手は出せない。
膠着状態になるかと思った矢先に、ピンクの影が前に出た……!
俺のおねえちゃんだ!
「危ないよ、おねえちゃん!」
火の海の中はとんでもなく熱いだろうし空気が薄くて危険だ、そんなところに近づいたらいけない。
今は相手の出方を見るしか無い。
なんて思っていたら、おねえちゃんは剣を伸ばして身体を回転させ始めると、何をしてるのかと思ったら竜巻になってしまった!?
=地上で何が起こってるんだよ!?
ベクターが無線先で驚いているけど、これは……水泳中に編み出した水泳技の応用だ!?
どうやって方向を知覚してるのかは謎だけど、地面ごと火の海を打ち砕きながらドラゴンの方に突っ込んでいくぞ!?
慌てたドラゴンが火を吹いて迎撃するけどうまく出ないみたいで、あれではドラゴンパピー以下の只の吐息だ。
そのまま哀れなドラゴンはおねえちゃんミキサーに吸い込まれていった。
恐ろしい事におねえちゃんの通り道には魔樹の根より深く抉って、大地を引き裂いた道が出来ている!
「おねえちゃんすごいよ……!」
「限度が有ると思うのだ『回復の奇跡』」
横へやってきたエテルナは保険に回復の奇跡をおねえちゃんに送って呆れているけど、ドラゴンの叫びと斬撃の音が止むと竜巻は止み、フラフラしたおねえちゃんが出てきて、上目遣いで俺にお願いをしてくる。
「クロぉ、手伝って?」
こんな緊急時なのに、でもこの技は反則だ、いいよ。
「いいよ」
おねえちゃんが作り出したドラゴンの挽き肉は、中身までは火に強くなかったみたいで、戻ってきつつある灼熱の空気でドラゴン肉の焼けるいい匂いがする。
これは……肉料理の一つであるハンバーグだ!
中身はレアみたいで生きているハンバーグだ。
熱くなってきて危ないけどウォータードラゴンパピーのお造りを沢山片付けてきた俺は、ドラゴン料理の片付けに関してはエキスパートだ、手早く済ませる。
ハンバーグのウイークポイントを見定めると、蒼いナイフを突き立てる。
勿論プスス、プススと追撃付きだ……!
完食されたレアなドラゴンハンバーグからは金色の巨大な弓が出てきて、俺ですらとんでもない力を発揮するドラゴンの装備をアルテに使ってもらえば、ドラゴンなんて楽勝なのでは……?
新たなドラゴンが黒煙から飛び出して、複数近寄ってきているので相談する時間は無い。
思い付きを即断で実行しようと、ベクターに無線連絡をして楽天エルフを呼んでもらう。
=ベクター、下にアルテを呼んで欲しい。
ベクターが返事をする前にアルテがトンと後ろに現れて、ワクワクした顔で聞いてくる。
「ドラゴン装備の弓を貸してくれるの? 貸してくれるんだね!? いやー悪いね!!! 」
全然そんな事を思ってなさそうな嬉しそうな顔で、謝辞を述べる楽天エルフは弓を構えてああじゃない、こうじゃないと矢を番えるとギュルリと引いて、発動句を唱える。
『貫け』
前にローズが例えに出していた貫通矢の発動だけど、魔導兵器が放つという槍のような太さの青く輝く矢をアルテが引いている!?
「こりゃ凄い! スキルの規模を強化してるのかな!! めちゃんこ重いぞこれ!!! 」
ギャリギャリギャリと弓から出て良いのか怪しい音をさせて、それでもドラゴンキラーという頂点に近い存在の出力で引き絞られた、貫通矢と言うか貫通槍とでも言うべき代物を楽しそうに引いていく楽天エルフは、追加の発動句と共にそれを解き放った。
『行け』
青い流星がドラゴン集団と俺達の間とを青い線で繋ぐ。
流星が複数の龍を撃ち貫き真っ二つにすると、アルテが楽しそうに指を宙に這わせる通りに、深い森を裂き砕きながら帰ってきて残りの龍も後を追わせる。
酷い一撃を見た。
ドラゴンキラーにドラゴン装備を持たせると、こんな事になってしまうのか!
「イタタ、エテルナ回復お願い!」
「無茶するのはどっちなのだ?」『回復の奇跡』
「あんがと! いやーいい弓だね!! 他のスキルが楽しみだ!!! 」
流石に堪えたのか肩を抑える楽天エルフに白鎧が回復の奇跡を使うと、腕をブンブン振り回して元気になってしまった。
この二人の組み合わせは、なんというかズルい。
無法なのではなかろうか?
「ドラゴンよりもドラゴン以外の方が、周辺を破壊してるってどういうことなの?」
目を丸くしたローズも上から降りて来て、惨状に呆れている。
そんなことを考えていると、破滅的な光景の連続に興味を覚えたのか、黒煙から巨大なドラゴンがこちらへ向かって来る。
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