第46話 【力の代償】釣人の姉
湯気の充満した暖かい部屋で、お湯から引き上げられた俺へおねえちゃんの魔の手が迫るが、黒色の救世主から待ったがかかる。
「ちょっと待って欲しいんだよ」
「ベクターどうしたの〜? 代わらないよ?」
「違うよ! クロ君のぼせてるみたいだから、休ませた方が良いよ?」
蒼の目は気づかわしそうに俺を観察していて休ませることを勧める。
俺はのぼせていたのか……。
「慣れてないなら、三人共もう上がって休んでおいた方が良いのだ」
来たことがあるらしいエテルナにも、休む事を勧められる。
「確かに肌が赤い……慣れないお湯に入ったからかも。 チェルシー、私たちも休んでおきましょう?」
「わかったよローズ! クロ、おねえちゃんが休む所に連れて行ってあげるからね~?」
湯船の従業員が休憩場所まで先導してくれるので、おねえちゃんに抱かれて休憩場所に並ぶ木製寝台に、ローズの指導で横向きで寝かされる。
「普通に寝かせるよりも、横向きの方が放熱の効率が良いわ」
近くの寝台に二人が座ってこちらの様子を見て謝ってくれる。
「悪かったわね。慣れない場所で遊びが過ぎたわ」
「ごめんね~、クロが気持ちよさそうだから大丈夫だと思って」
抗いがたい気持ちよさだったからと言っても動けなかった俺自身も悪いと思う。
「心配かけてごめん、もう落ち着いてきた」
「お~い!こっちに来て、体を冷やさないように着替えよう!!今度は風邪をひくよ!!!」
湯の泉部屋に併設された小屋からアルテの呼ぶ声がするので素直に皆で小屋に入ると、その中には柵越しに湖の水面が見えている!?
濡れた湯着を脱いで体を拭いてから、アルテが持ってきてくれた服に、皆で背を向けて着替える。
「部屋の中で暖かいまま、夜釣りが出来るんだよ! バラバラ餌をバラまいて~集まった魚を釣るの! 着替えた後に楽しいからやってみて?」
着替えた後に楽天エルフが木箱から掴んだ塊を放り投げると、水面が波立って沢山の魚が我先にと飛び出している。
そこに竿を振ってみせると、すぐに食いついたみたいでピンと糸が張りぐぐぃと、格闘後に釣り上げる釣人エルフ。
「俺もやろう」「お魚! おねえちゃんもやるよ~!」「私は見てるわ」
竿を振るたびに魚が取れて楽しそうなので、俺とおねえちゃんも距離を取ってやってみると面白いように釣れる。
釣れる魚は手のひら位の魚が多くて、塩焼きに良さそうだ。
「そんなに釣っても、食べきれないわ」
ローズからストップがかかるので、魚を放り込んでいたタライをのぞき込むと山盛りになってしまっているので、元気の良さそうな一部を逃がしてあげて、食べる分についてはおねえちゃんがナイフを使いお造りの経験がそのまま生きている様子で腹を割いては浮袋や内臓と言った食べられないところを削ぎ落していき、一部を逃がしたとはいえ、大量の魚を焼いたらそのまま食べられそうな状態にしてしまった。
「おねえちゃん、すごいよ…!」
そんな事をやって涼んでいると、ベクターやエテルナも合流して、俺たちの調子を聞いてくれる。
「回復の奇跡は要るのだ?」
「ありがとう、もう大丈夫」
「マシになったみたいで何よりだよ」
二人のお陰で酷い事にならなくてよかった。
今までは強力な装備で何とかなっていたけど、旅慣れない場所には注意が必要なのだと、改めて認識できる出来事だった。
魚の沢山入ったタライを協力して持ち、暖かいお湯に暖まった面々で宿へ帰っていく、振り返ると湖の上で窓から魔道具の光と湯気を漏らす船が湖面に映っている。
「こちらで魚をお焼きになってください」
また橋を渡って宿に帰ると、従業員の人が塩の入れ物が乗った台車を押してきて勧めてくれる。
俺たちの行動が把握されていたのか、中庭に金属網の乗せられた魔道具が設置してあって既に火がついている。
網に乗せた湖の魚に塩を振りながら、この国の感想を話し合う。
「施設の方が来てくれるなんて、便利だな」
この宿に来てから、必要なものが向こうから来てくれて楽すぎて癖になりそうだ。
経験のあるエルフが調理を担当していて、魚の焼ける音と共に木製のトングで次々と魚を裏返すアルテが答える。
「明らかに特別扱いだね! それだけ期待してるって事!!」
裏返した魚に塩を振りかけるエテルナは頷いて同調する。
「……多分その通りなのだ。普通は橋を歩いてこちらから出向くものなのだ」
良く焼けた魚に串を挿してイーグルに見てもらったら、おねえちゃんとベクターがかぶりついた。
□生体反応無し!大丈夫だよ~安全!□
「勇者って便利だなぁ〜!」
「暖かい食べ物だよ……!」
机の上の皿に置いた魚をフォークでつつくローズは、俺に近づきおねえちゃんに苦言を呈してくるが、そんなローズに俺は倒れかかってしまう。
「チェルシーは完全に観光気分ね?おっと大丈夫?」
「ごめん、少し眩暈がするみたいだ」
「こんなに弱ってるクロは、悪夢の時やレベルアップ事故以前の頃以来ね」
「もしかしたら」と続けるローズは俺に忠告する。
「黒いジャベリンレインを使いすぎたのかもしれないわね。このレベルのジャベリンレインとしては、明らかに強力だったから消費が重いのね、スキルを使い過ぎた症状に似てるわ」
「そうなのか……」
俺の瞼が落ちていくとローズは右手で手を握ってくれる。
「たすかる……」
「お互い様よ。私にも利益があるからね」
赤い眼がニヤリと笑うのでニヤリと返して俺の意識は落ちていった。
夢を見る。
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