第45話 【温水浴び】湯船の姉 

 帰る頃にはすっかり暗くなった部屋に魔道具で明かりを灯した後、宿の居間に置かれた机に購入した品を並べて見せ合っている。


「仲間が増えたから、お皿を大きくしたよ〜!」

 おねえちゃんは一枚の大きな皿と、紫色をしているオリハルコン製で目立つ勇者の額当てに合わせ、前よりちょっとおしゃれなレース付き黒リボンを買ったみたいだ。


「描きたい景色が多すぎるから、画材を買い足したわ」

 ローズは筆や予備のデザインノートに雑多な品を買ったみたいで、今後の絵にも期待だ。


「これで対策できたはず」

 俺は目つぶし対策にサングラスと言うらしい黒いレンズの付いた眼鏡を買ったら、色々な形の付け替えレンズや替えの蔓も在庫処分だとサービスされてしまった。


「コレ面白いね〜!」とおねえちゃんがハート型のサングラスを掛けているとローズが面白がって片方を外してしまった。


「手順を踏めば簡単に入れ替えられる、アイディアは良かったけど湖を出たら暗い森だから売れなかったみたいね」

 在庫処分の理由を予想する才女。

 確かに湖以外の森の中は昼間でも薄暗いので、俺みたいに目的がなければ使う機会は無いだろう。


「戦ってると壊れちゃうから~、入れ替えやすいのは丁度良いね!」

 片目が黒いハートのおねえちゃんが珍しく武器以外を戦闘評価しているが、もしかして武装扱いなんだろうか?


 3人でレンズの付け外しを楽しんでいると来客に大き目のタオルを担いだアルテが来た。


「楽しそうな事してんじゃ~ん!」

 楽天エルフが目ざとくやってることを咎めると星型のグラスを拾っておねえちゃんの空いてるほうに付けてしまった。

 ハートと星で、ファンキーなサングラスになっちゃったぞ!?


「これから温めのお湯を沢山出す船が来るらしいからお湯で水浴びに行かない?」

「暖かい水浴びなの~?」「良いわね!」

 アルテの誘いに二人は乗り気だが、俺は気まずいので残ろうと思う。

「俺は部屋に……」

 行く気満々でタオルを二人分担いだおねえちゃんに肩をつかまれて引きずられていく。

「一緒に暖かい水浴びしようね~?」


 俺は何とか説得での抵抗を試みる。

「他のお客もいるだろうから無理だよ、おねえちゃん」


 俺の抵抗はニヤニヤした悪戯妖精に封じられた。

「勇者専用の湯船があるってさ?」


 ズルズルと抵抗にもならない抵抗をしているうちに浮橋をまた渡った先には木製の家が乗った船が繋がっていて、そこから湯気が上がっている。



「こちらは勇者様方貸し切りの湯船でございます。ごゆっくりとどうぞ」


 宿の人に見送られて家の中に引きずり込まれる。

 勇者を止められるのはそれ以上の力か、勇者の意思だけだ!

 止めるつもりのあるおねえちゃんの力を超えるモノは此処には居ないので、何も咎められることなく通り抜けてしまう。

 変な場面で勇者の力を目の当たりにしてしまった!?


「ここで服は脱ぐんだよ。湯着に着替えて入るんだ。さあ!私が向こうを向いてるうちにお嫁さんの仕事を果たすんだ!」

 アルテが後ろを向くが笑ってるのは耳の動きからわかる…!


「これはもうやったことが有るからお手本は不要ね?」とローズも後ろを向いた。

 確かに、雪の中で似たことをやられたがあの時とは違って、後ろを向いていてくれるみたいだ。


 ありがたい……なんて思っていると、鏡に映る赤い眼と眼が合う。

 ローズゥ!? 俺を追い詰める手に隙が無さ過ぎるぞ!?


 分かってはいたが、鏡に映る楽天エルフもニヤニヤしている…


「着替えようね~?」

 俺はせめての抵抗と背を向けて運命を受け入れた。


 ……


 湯着だという濃いめの色がついた寝るときの薄着みたいな服に着替えて、暖かいお湯を浴びれるという場所に入っていくと木製の池へと小川の流れの様に湯気の上がるお湯が流れ込んであふれ出している!


「なんて贅沢な物なんだ!?」

「すごいね~?」

 意識して見ない様にしていた、俺の手を握るおねえちゃんが嬉しそうに抱き着いてきて、俺の鋼の相棒にヒビを入れる。


「湖の大量の水と…燃料は魔樹ね?」

「大正解!!お湯の泉に入れるのは同盟だと、ここだけだろうね!」

 俺が恐る恐るお湯の熱さを調べていると、二人がざぶざぶと入って行っておねえちゃんも釣られて入っていく。

 手を握られている俺も釣られて入って行ってあたたかい……。


 これは、いいものだ……。


 おねえちゃんに手を引かれて、静かに深めのお湯の中へ肩まで沈んでいく。


「すごくきもちいいね~?」

「そうだね……」


 木製の戸を開けて湯着の真っ黒と真っ白も来たけど気にならないほど気持ちが良い……。


「クロ君も一緒だよ!?」

「仲間なんだから慣れるのだ」

「慣れちゃ駄目だよ!?」


 体を隠して騒ぐ黒色に「クロ君もそう思うよね?」と聞かれるが頭が回らない……。


「そうだね……」

 あたたかい……。


「おねえちゃん以外に冷静な君はどこに行ったんだよ!?」

 蒼の目を見開いて聞かれるが何も考えられない。


「本では、先に体を洗うと有ったのだけど?」

「貸し切りだから大丈夫! ま、気になるなら湯着の隙間からでも布で擦ればいいよ!」

 ローズとアルテの不穏な会話が聞こえる。


「身体を拭こうね〜?」

 おねえちゃんに抱き上げられて、楽園から追放される。

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