第40話 【軍需遺構】包囲の姉

 予約無しで来た新たなお客様は物騒な機械槍を持った二足歩行のカエル集団で、周囲の大木を遮蔽にして回り込み俺の日光に輝く大自然オープンテラスを包囲する。


「不思議ね?分不相応に真新しい機械槍を装備をした魔物……」


「近くに稼働してる旧文明の工場があるわ」

 鋭く見つめる赤の目は断定した。


「人里近くに危険なのだ。動力源を潰しに行くのだ」

 白鎧の騎士は危険な場所を潰そうと提案する。


 相談している間に包囲を完成させた二足カエル達はロングバレルを開放して連射モードに切り替えた機械槍を構え突っ込んでくる。


「ゲッココー! 」

「「「ゲッコー! 」」」


 俺たちの周囲を本来よりも力を増した金色の膜が包んで弾丸を防いでいく、本来なら虫よけ程度の力だが起動したのがおねえちゃんなので攻撃も防げるのだ。


「効かないのは良いけれど魔力もタダじゃない、潰すわ」

 赤の機械槍を構えたローズが宣言すると、各々が武器を取って結界から飛び出していく「やっぱり面白い!! 」と巨大な黒弓に矢を番えたエルフが発動句を唱える。


『矢よ輝け』矢が輝き撃ち放たれた。


 光り輝く矢は分裂し破滅的な音を響かせて包囲の一部を大木ごとなぎ倒していく。

 凄い出力だが、多分俺も知っているアローレインだ。

 弓の有名な制圧スキルだが、強者が使えば制圧どころか凶悪にすぎる。


 衝撃の光景に恐慌を起こした一部のカエルは逃げるが、連携を崩したものは大木間を飛び回る黒い影に刈り取られていく。




『回復の奇跡』


エテルナが最後のカエルからメイスを引き抜くと、回復の奇跡により鎧越しに受けたダメージを回復する。

 鎧のへこみもゆっくりと治っていく。


「負傷した者はいるのだ? 」

 肩に良いのを貰ってしまった俺が手を上げると、こちらに輝く手を向けられる。


『回復の奇跡』


 奇跡により肩のダメージが回復して痛みが無くなっていく、予想外の痛手に僧侶が居てくれて本当に助かった。


 おねえちゃんが回復の奇跡で光る俺に飛びついてくる。

「クロ! 大丈夫?」

「随分沢山いたもの。仕方ないわ」

 おねえちゃんに心配させてしまったし、ローズにも気を使わせている。

 自然回復でも大丈夫だろうけど、これから遺構に突入するのだから万全にする。

「おねえちゃん、大丈夫だよ。ありがとうエテルナ」

「これが私本来の仕事なのだ。気にするな、なのだ」


「早速トラブルで楽しいね? さーてどんな遺構かな? ふーむふむ?」

 森のプロを自称する楽天エルフはマイペースにカエルの痕跡を探っている。


「随分沢山の機械槍だよ?」

 ガチャリガチャリと几帳面に機械槍を十本ごとに並べるベクターは数の多さに呆れている。

 機械槍はモンスターの物ではなく、現地調達した物なのでそのまま落ちるのだ。

 

 あの後、増援が有って混戦になったので俺も勿体ないが機械槍でジャベリンレインを使っていたんだが、慣れない攻撃と連続する敵のマズルフラッシュに集中が削がれて被弾してしまった。


 本当に機械槍が苦手で困る。


「軍需工場かもね。考えが有るわチェルシー、協力してくれる?」

「いいよぉ~! ローズゥ!」

俺が元気になったのを見て抱き着いたまま喜んでいた愛しい人は才女の提案に二つ返事で乗った。

大丈夫だろうか?


 今の俺の背嚢からは拾った機械槍がベクターが並べた以外にも沢山飛び出していて、とても物騒なことになっている。


「見つけたよ!こっちに来て!?凄いぞ~!!」

 アルテの呼ぶ声について行くと木陰の森の一部に大きな穴が見えて、崩落したと思われる金属の天井がそのまま下への道に変わっている。


「まさか、こんな機会に恵まれるとはね!楽しみだわ」

 ローズから聞いたことが有るが旧文明の遺構は上手くすると旧文明の遺物を回収できる上、何の手間も無く街が作れるので、近場の都市に報告すればそれだけで沢山の財貨が得られる。攻略を済ませていると更にドンだ。


「ローズの言ってた遺構なんだね~? 楽しみだ~! 」

「楽しみだね、おねえちゃん」

 おねえちゃんも喜んでいるので俺も嬉しい。


「現実だ……。 勇者の冒険譚そのものだね? 誇張だと思ってたんだよ」

「人はその力にふさわしい場所に導かれるものなのだ」

 ベクターはまた指を噛んで現実確認して、エテルナは泰然としている。


 下の方からは明かりが見えるので、これは生きている旧文明遺構だ……。

 俺たちは光に誘われる虫のように明かりに向かって地下に降りて行くと、壁が輝き声が聞こえてくる。


 □当工場にお越しいただきありがとうございます! 現在、当工場はトラブルと侵入者により操業停止しております。ご見学者の皆様は危険ですので退避して、お近くの係員かホームページでご確認ください。□


 壁にはおねえちゃんそっくりの顔をした二頭身の人型が微笑みながら、こちらに語り掛けている。

 ローズの語っていたのと同じ展開だ!?

 才女が前に出て質問する。


「忘れてしまって済まないのだけど、今日は何日かしら? 」


 □…? 少々お待ちくださいね? ……? ……?? …………□

 壁の二頭身おねえちゃんが段々と無表情になっていく。


 □危険です。 当機は故障を起こしています。 即座に退避して製造販売元へのご連絡をお願いいたします。□

 無表情のまま、切羽詰まって退避勧告と連絡依頼をする二頭身おねえちゃん。


「あなたは故障していないわ。本当に~だから~」

 ローズが畳みかけていくと壁に映るおねえちゃんが慌てたり泣いたりしている。

 

 ……。


 「ローズぅ……可哀そうだよ?」

 それを見て、おねえちゃんは微妙に同情してしまっている!?

 ローズぅ!?おねえちゃんと似たものをいじめるな!

 「おねえちゃんと似たモノをいじめるのは良くないよ?」


「もう少し、言ってみたかったフレーズが有るのだけど?」

 どうやらローズは本で見たセリフを使い、愉しみながら効率的に二頭身おねえちゃんを追い詰めていたみたいだ。

 鬼ローズだ。


 □当機へのご同情ありがとうございます。 お姉様のお顔を使わせて頂いている事は本当に申し訳なく、お許しいただけると幸いです。 何故か情緒プログラムが刺激されてしまったんです。□


 おねえちゃんと、おねえちゃんの事が好きな俺への配慮を忘れない二頭身おねえちゃんに好感を覚える。

 流石おねえちゃんの姿を選んだモノは良いヤツだな!


 鬼ローズから守らなければ…


 二頭身おねえちゃんのセリフにニヤリと笑ったローズが提案する。


「申し訳ないと思ってるなら直接会わない? 」


 壁に映る二頭身おねえちゃんがワタワタと慌て始める。


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