第39話 【黒槍顕現】陽光の姉

「槍よ輝け」


 発動句を唱えるとコボルトからドロップした普通の槍に、スキル発動により変化が起こり、黒く浸食されていく!?


 マスタークルトのジャベリンレインは単純に光っていたのに、俺のスキルのせいなのか?

 戸惑うが攻撃スキルというのは途中停止できないので、動揺する俺の意志に反して着々とスキル動作が進行していく。


 黒に染まった槍を投げ飛ばさんと、腕が振りかぶられる。


「クロ! しっかりしなさい! 予定通りに撃てばいいわ」

「頑張って! 橋に当てなければ、大丈夫だからね~! 」


 ローズとおねえちゃんの声に我に返った俺は、振りかぶられた黒の槍を橋の無い魔樹の森林へと、自分の意志で投擲する。


 薄暗い木陰の森を高速で黒い槍が突き進んでいく様は、まるでナンバー20だ……。


 俺の意志で狙った魔樹と俺の中間に槍が到達すると、分裂した闇が直径2メトルはある大きな魔樹の幹に突き込まれていく。

 突き込まれた闇は次々と炸裂して魔樹を削り倒壊させ、その空白に久し振りの太陽の光が木陰の森に差し込んだ。


 50メトル近い巨木がゆっくりと倒れていくと、重々しい音が森に響き、断末魔の叫びのような強い香りがここまで漂ってくる。


 呆然としている俺の手をおねえちゃんが握ってくれる。

 しっかりしなければ! おねえちゃんを困らせてしまう。


「ひ……久し振りに日の光を浴びて休憩にしようかな? 」

「誤魔化すにも無理があるけど良いんじゃない?」

 俺の精一杯の強がりを茶化しながらも賛成してくれる才女におねえちゃんが続く。


「甘くていい匂いもするからね~! 魔道具で虫よけもしようね? 」

 この強い香りは魔樹の樹液なのか、虫の集まりそうな香りだから魔道具の出番だろう。


「樹液食べ放題だよ~! こっちに来て! 樹液パーティだよ!!! 」

 いつの間にか倒壊した魔樹の根元に張り付いていた楽天エルフに呼ばれて向かうと荒々しい破壊痕と自重による倒壊で裂けた魔樹の幹はダラダラと樹液を流す樹液サーバーになっていた。


 楽天エルフの誘いで近づいていくと、恐ろしい生命力で樹皮から伸び始めた新芽を折っては、樹液に付けて食べている樹木の捕食者に誘われる。


「自分から食べれる食器を出してくれて便利だ! 楽しいからみんなもやろう!!」


 木陰の森の、ここだけの日差しの中で、魔樹の樹液を肴にお茶会をすることになった。


 おねえちゃんが虫よけの結界魔道具を起動する横で、折りたたみの机を設置して、水筒の水を魔道具に乗せたポットに注いでいると、蒼の眼を見開いたベクターが喜ぶ。

「もしかして、お茶を淹れてくれるの?旅先でお茶を飲めるなんて嬉しいんだよ!」

「簡易の物なので、そこまで喜ばれるのは気が引けるかな」

 本当に茶葉をポットに突っ込むだけのお茶なので、ローズが語ってくれるお茶とは雲泥の差だと思うし、語られるお茶には色々手順が有って難しそうだ。


「暖かいお茶が飲めるだけでも有難いよ。最近、飲んでいる暇が無かったんだよ」

 処刑人であるシャドウナイトが、茶を飲む暇もないほど忙しい帝国の治安に不安を覚えるが、既に過ぎ去った国のことは関係ないだろうから、記憶の隅にでも置いておく。


「私も頂くのだ」と珍しく花々しい鎧の面貌を上げたエテルナは、金色の目を細めて腰のバッグから使い込まれた白のカップを出す。

それを見たベクターも、黒色のカップをマントの裏から引き抜いて出してくれる。

実の所そこまでカップを揃えていなかったので、ありがたい。


魔道具を止めてしばらく待ってから、簡易茶の小袋を放り込むと樹液の香りに交じってお茶の香りが広がる。

 その香りに釣られて地図を開いて色々書き込んでいたローズと、それについて聞いていた、おねえちゃんもお茶を飲もうと集まってくる。

 木の幹に張り付いて何かしていたアルテも、両手に樹液濡れの新芽を鷲掴みにしてこちらに来るので、置いてもらうために鍋を引っ張り出して机に置くと樹液濡れの新芽で鍋が満杯になった。

 自分でもお茶を飲みながら、あの隠れ家の料理のように水筒を用意して、他の鍋に新芽を移し樹液だけ火にかけ、カラメリゼにしてみる。


「いい匂いだ!!真似たんだなクロ!!!」

楽天エルフが手の樹液を舐めつつ匂いに喜んでいる。


「森にいる間はこれが毎日食べられるね~?」

「同盟圏なら、いくらでも魔樹はある。文句も言われないわね?」

おねえちゃんがローズと、さり気なく毎日環境破壊宣言する。


「お茶だけで無く、お茶請けまで……あたしはいつの間に宿に来ていたんだよ?」

「これはいい仕事をしているのだ」

白い鎧と黒づくめにもこの匂いは好評みたいだ。


 何とも言えない幸せな香りが漂うので新芽を混ぜて馴染ませ多分……成功だ。

鍋のままの安普請で申し訳ないがさっさと火から上げて全体に絡めて出来上がり、のはず!

 調理場の店主の手順を簡単になぞっただけなので怪しいが、素人の手仕事にしては上等だ。


一つフォークで頂くと「甘苦くて良い!」つい感想が出てしまう。

俺の目の前にはフォークを持った笑顔の収穫者が集合しているのでもう一刺ししたらお茶と一緒に退避する。



数分後、魔樹の新芽のカラメリゼは全滅したので好評と思っていいだろう。

拙くも真似に成功していて何よりに思う。


そんな、のほほんとしたお昼時に闖入者が現れたみたいでベクターが蒼の眼を細めて不機嫌になる。


「お客様だよ?」

「もう材料もないし、閉店なんだが」


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