救国の新婚旅行・勇者の行進 ~奪われた空~

魔樹の森の遺構

第38話 【防衛条件】橋上の姉

 巨大な魔樹の木陰で暗い森を俺達は巨木に架かった木の橋を渡って予定通りに南を目指している。


 予定通りではあるが、予定外の来客もいるようで前方から人とは違う所のある複数の小さな異形が見える。


「あれは…魔物だよ。コボルトの槍1弓1!気を付けて!」と先頭にいるベクターが振り返り、蒼の目を細めて警戒を呼びかける。


 人の使いやすい場所は人型のモンスターも使いやすい場所と言う事で必然の邂逅と言えるがこの見渡しの良い場所でローズに出会ってしまったのはモンスターにとっては不幸なことだと思う。


「ただの的ね、でも槍持ちが居る。クロ、止めは任せるわ」


 言葉と共に赤い魔導槍を構えて二発発砲、それぞれが弓持ちの犬頭と槍持ちの槍を撃ちぬいて、その場には毛皮1枚と武器を失い戸惑う犬面が残された。


 ローズの言葉に音もなく接近していた俺は蒼いナイフを戸惑う犬面に差し込み追撃すると、レベルアップに高まった出力の為か犬面が咄嗟に身を守った腕を砕いてしまう。

「ガウ?ガ!?」「おわっ!?」

 あんまりにもあんまりな威力に驚き軽く下がると一気に皆のところまで戻ってしまう。

 久しぶりのまともな戦闘に出力が把握できていなかったみたいだ。

「ッ!?」

 俺が下がった後にナイフの追撃能力が発動して胸まで砕けたコボルトは消えて、レアドロップの槍が残された。


 俺の攻撃よりも追撃の方が強いぞ!?


「話には聞いていたけど本当に簡単にレアドロップが出るのだ!?」

 白鎧が槍と毛皮を拾って、旅の間隠すのは無理なので共有していた俺の特性に、驚き手渡してくれるので背嚢に突っ込んでいるとアルテの忠告が入る。


「じゃらじゃら装備が出るから、あんまり前に出さない方が良いよ!ドロップした装備で身動きが取れなくなる!!!本末転倒!まあ、それも面白いな!」

「必要な物だけ、狙えばいいわ。ジャベリンレインの練習に丁度良かったの」

 楽天エルフが欲張りの結末を想像して腹を抱えて笑い始めて、ローズが締めくくる。


「あのスキルは槍を使い捨てにする、とんでもない浪費スキルだ、でも本当にクロ君の羨ましい特性には相性がいいスキルだよ」

 蒼い眼を見開きながら俺とジャベリンレインの相性の良さを保証してくれるベクターに、おねえちゃんはマスタークルトの攻撃を思い出して光になって分裂した槍の行き先をローズに聞く。


「光になって消えちゃうんだよね?何処に行ったの~?」

「全部、スキル攻撃に変換されると言われているわね。他のスキルとは規模、威力共に桁違いに出るから槍の補給のできる街の防衛に最適なスキルで、常識だけど巻き込みレベルアップ防止の条件である距離が稼げて、街の人や魔法使いを巻き込みレベルアップさせないように遠くで打ち倒せるのも良い点ね」

 槍の行き先と共に街の防衛の条件も常識語りするローズは生き生きしている。

 強敵を近くで倒しすぎると、巻き込みレベルアップで急に魔法使いとして覚醒した市民やレベルアップしてしまった魔法使いが急に増えた魔力の魔力制御を失敗して弾けてしまうと聞いたことが有る。


「巻き込みか…恐ろしい話だね」

「クロ〜、あの時はごめんね…」

 俺の失言におねえちゃんが村での巻き込みレベルアップ事故を思い出して気にしてしまった。


 おねえちゃんを抱きしめる。

「あの時はおねえちゃんに守ってもらったんだよ。例の法律も村長が緊急避難で許してくれたんだから大丈夫」

「守る為に戦えたチェルシーは立派だわ」

 ローズと一緒になっておねえちゃんを励ます俺たちを見ていた旅の仲間も同意する。


「ルールは人を守るために有るのだから、自分を守らないルールを無理に守る必要は無い。迷惑をかけなければ緊急避難扱いで済むんだよ?」

 シャドウナイトなんていう法の執行者その物なのに、柔軟なベクターが語ると白鎧も経験を語ってくれる。


「村でも初士まで訓練で上げている人は多いから案外はじける人はいないのだ。それに初士の時点で魔法使いだったら、相応の規模の街に避難するのだ」

 ドラゴンの流入に単騎で国家防衛出来てしまった英雄は経験豊富みたいだ。

 余裕が無くて村の近くで倒してしまうこともあったんだろう。


「何がどうなってもそのまま放っておくよりはマシだって!弾ける前に殺されちゃう!本末転倒!!」

 ドラゴンキラーは根本的な話をすると、おねえちゃんも納得した。

「そうなんだ?やられる前にやらないとね〜!」

「その通りだよ!おねえちゃん!」


 おねえちゃんを励ますことに成功した俺達は、早速俺のジャベリンレインの試し打ちのために橋のない場所へ撃ち込むことになった。


 本番前に練習しないとだからね!


 槍を持ち、発動句を唱える。


「槍よ輝け」

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