第35話 【勇者巡礼】計画の姉
料理の匂いの充満した小さな料理店で、魔樹をみじん切りにする音をBGMに簡単な聴取をする。
「なんでお互いに襲い掛かったのだ?」
俺達の遭遇戦を聞いたエテルナの質問である。
「不明な相手の好きにさせるのは危険だからね」
ローズの答えに、ベクターも頷く。
ベクターもスキル攻撃はしなかったから、お互いに制圧しようとしてたんだな。
「お互いに制圧しようとしていたと……十分なのだ」
エテルナ主導の簡単な聴取が終わり早速、勇者認定の力で宿の修理費をダイマジュの国が肩代わりしてくれる。
「へい!新芽の樹液和え、お待ち!」
トンと、みじん切りにされた魔樹の新芽に魔樹の樹液のかけられたものが出てきて、これで締めなんだろう。
普通の樹液と違って魔樹の樹液は何故か甘い、不思議だ。
「甘い! 甘いな〜!」
おねえちゃんは、ほんのり甘いのと甘いのの組み合わせに幸せそうだ。
食後、関係者が折角集まったので、計画を立てる。
おねえちゃんの勇者としての行動計画だ。
旅行計画でもあるので、おねえちゃんも興味津津だ!
エリンの森での修行を境目として、前半後半に分割し、まずはエリンの森へ行く前半を計画した。
帝国の観戦武官も交えた、おねえちゃんの勇者行動計画の前半はこうなった。
現在位置は大陸内の魔樹の森に沈んでいる東を占めるエリン森林同盟、以下同盟の最北部の国マダイジュなので、同盟北部の国オーヴァシー、同盟北西の国クレイドルを経由して西のガルト王国に食い込むように円状に広がるエリンの森へ北部から入り、其処でエテルナ達に修行を付けてもらいながら、エリンの森を南北に横断して後半は南部から再び同盟内に入る予定だ。
「色んな国に行けるねぇ〜!」
隠れないで旅行出来るので嬉しそうな、おねえちゃんは更に嬉しい支援の知らせにニコニコだ。
「同盟圏内では、同盟経由でマダイジュの勇者へ支援がされるのだ」
「魔導鎧の弾薬は、シールド君と友達の僕にお任せ!!」
白鎧と黒マントのエルフが、道中の支援を説明する。
「魔導鎧に使う弾薬の支援は助かるわ。アテナの街でしか生産されていないから、補給のために何度かガルトに帰ろうと考えていたの」
ダンジョンでは迷いなく撃ち込んていたが、運用面で悩んでいた様で、晴れやかな顔で感謝するローズ。
俺は黒いのみたいに、飛行だけでも十分に思える。
「クロ、手札の数は多ければ多いほど良いのは常識だわ」
「そうなのか」
「そうなんだ~! とってもお金のかかる武器なのに! 助かるね?」
俺の考えを看破した、才女のジョーシキが炸裂しておねえちゃんと一緒に感心する。
弾薬費を気にしていた、おねえちゃんは支援に嬉しそうだ。
「本当はアテナ以外で買ったら高額だけど、友達価格で用意してもらって、マダイジュの国にお金を出させるよ!」
とことん、勇者認定を利用してるが何か対価が発生しないんだろうか?
「随分吹っかけてるが見返りはどうなる?」
ニヤリと笑ったアルテが答えた。
「マダイジュはエテルナの為ならいくらでも出すよ!花の騎士大好きだからね!」
「照れるのでやめてほしいのだ…」
楽天エルフのマダイジュへの評価に白鎧が唯一出ている長耳を赤くしてイヤイヤと照れる。
「あたしが思うに修行計画というか……旅行計画だよ!?」
懸命に寄り道を添削していたベクターが深い青目を伏せさせて、自らの無力を嘆いている。
多勢に無勢だったから、旅行優先でマダイジュの友好国に次々と寄り道だ。
しかもマダイジュにはもう少し滞在して、魔物使いのディナーショーを見物したり、お城のレア装備を見学出来たりと支援の名目でサービスが多い!?
あの宿屋といい、この照れている花々しい騎士がどれだけ、この国の信仰を集めているのかを感じさせる歓迎具合だ。
「もう閉店だよ。また来てくれや」
「あいよ! 釣りは要らないよ! 皆お疲れさん! また明日!」
アルテが金貨を5枚積んで解散だ。
「またなのだ」「バイバイだよ」
エルフ二人と、ベクターは去っていく。
最近、金貨を見慣れてるけど、本当に高級店だったみたいだ。
慣れない食べ物なのに、美味しい時点で相当手がかかってたんだろう。
ドアを開けて外に出ると、人通りが減っている。
街灯の並ぶ木をくり抜いた道は、人が居ないと少し怖い雰囲気だ。
おねえちゃんの腕が絡み付いてくると、不思議と怖さが溶けて安心する。
「お宿に帰ろうね?」
おねえちゃんを挟んだ反対側には、楽しそうなローズも並ぶ。
「今度こそ高級宿を楽しまないと」
少しトラブルもあったけど、今回も戦友たちと無事に生きて帰る。
祖霊の加護も届かないだろう見知らぬ土地の、見たこともない大樹にくり抜かれた道を頼れる仲間達と歩いて行く。
くり抜かれた道の外側は魔樹の森が星空を隠し、暗闇で辛うじて月の光が枝の隙間から漏れている。
見慣れない宿に、見慣れた戦友たちと入って行く。
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