第31話 【龍殺集団】宿木の姉
遠近感の狂うような巨大な魔樹に近づく。
本当に巨大な木だ。魔樹はたくさんの橋で繋がっており、それぞれの先が別の魔樹に作られた広場に繋がっている。
橋の上では人が列を成し、広場でも人々が活発に活動しているのが見える。
高い位置にくり抜かれているのは城だろうか。
人力で削り出したと思われる城壁みたいな木の洞に巨大な弩砲が並ぶ様は、それだけドラゴンを警戒しているという事だ。
近づいていくと目ざとい住人が声を上げる。
「花の騎士様だ! 花の騎士様がいらっしゃった!」
次々とエテルナを歓迎する声が聞こえてきた。
――何度拝見しても美しい鎧姿だ。
――周りにいる者達の装備、見たことがないか?
――ドラゴン!城に飾られてるドラゴンの装備だ!
――ドラゴン狩りを連れて来て下さったのか!?
――あんな事があったのに我らを救おうと……?
なんだか雲行きが怪しいぞ!?
ドラゴン……装備……?
忘れていたが俺達の装備はドラゴン装備ばかりだ!?
とんでもない集団だと勘違いされてる。
装備は確かにとんでもないんだが……。
「ブハハ! 確かにこんな格好してたら龍殺し集団だよ! 滅多にドラゴンの装備なんて出ないんだから!!!」
「それを先に言ってくれ」と俺が抗議すれば。
「面白そうだから!!!」等と答えてくる。
貸してる装備なので転がりまではしないが、俺と同じ豪華な黒マントの中で細い身体を抱えて笑い過ぎて苦しそうだ。
笑うばかりで役に立たない案内人その一、その代わりを努めようとこの国に明るいらしい真っ白鎧の案内人その二が提案してくれる。
「私に良い考えが有るのだ。良い宿に案内するから休んで待っていて欲しいのだ」
「良い宿~? 楽しみだな〜!」
楽天エルフが存在するエルフというナマモノの良い考えに怪しさを覚えるが、おねえちゃんが嬉しそうなのでエテルナの案内についていく。
装備で平気とはいえ、苦手な寒い中の野宿を頑張っていたので疲れたのだろう。
出来るだけ良い宿で休んで欲しい。
「ここなのだ。後で此処に連絡が行くから待ってほしいのだ」
エテルナが案内してくれた宿は高級そうな宿だった。
宿は木の洞を木材の壁で塞いだ半自然半人工の建物だ。魔樹の成長に飲み込まれないように大きく飛び出した梁には、植物の彫刻が施されている。
金装飾の施された黒塗りの玄関ドアにはクリスタルの窓がはめ込まれており、その前には護衛も立っている。
「二人とも。野宿は疲労が残るから、ここで癒やしておきましょう。あの橋で移動となると、何回か野宿することになるわ。それにしても良さそうな宿ね!」
外国の高級宿に少しウキウキした様子のローズ。
彼女も理由はつけてるけど賛成みたいだ。
あの橋で疾走するのは破壊してしまう危険があるだろうし、外国でも街道の破壊は流石の王国も非推奨だ。
しかし野宿か……。
安定した大きな木といっても高所は慣れないので、少し不安だ。
「それは疲れそうだ。休んでいこう、おねえちゃん」
「ゆっくりしようね!」
理由付きでも意見の一致に喜んだおねえちゃんが腕を組んでくる。
反対側ではローズが捕まっている。
これは……。
「一緒に休もうね? 部屋を増やすのは勿体ないよ〜?」
「諦めなさい。こうなったチェルシーは止まらないわ……」
何か手はないのか?
鋼の相棒が索敵する。
「僕は知り合いと会いに行くよ! ごゆっくり!!」
案内人その一はいつの間にか遠くにいる!?
案内人その二もいつの間にかいない……。
せめて、宿の宿泊規定があることを俺は……祈る。
今までそんな宿を見たことは無いけれど、高級宿だからこその厳格なルールよ。あってくれ。
おねえちゃんに引き摺られてドアに近づけば、護衛さんがドアを開けてくれる。
慣れた様子の優雅な所作で開けてくれたので、どうやらドアマンという奴を兼任しているらしい。
宿の中は木をくり抜いた作りになっており、所々に跡があるのは新しく出てくる芽を切っているみたいだ。隅に枝の如き芽が山積みになっている。
こんな状態の俺達を泊めるはずがないと考えていた俺は……甘かった。
「花の騎士様のお連れ様ですね! 最高のお部屋にご案内します!」
この国で花の騎士は英雄だったみたいで、装備だけは英雄級の俺達は英雄譚の参加者扱いされている!?
「役得と思いましょうか? その方が精神安定に良いわ」
ローズが引きつる俺の顔を見て内心を看破してアドバイスをくれるが、おねえちゃんに引き摺られているので様になっていない。
「役得はお得〜!」
理由付けを忘れて俺たちを引き摺る愛しい人は、ご機嫌で緑の目を細めながら従業員について行く。
木をくり抜いて作られた大きな階段を登り、何処かで見た、白くて金の装飾の花々しい扉に案内される。
「花の騎士の間です。御用があれば何でも仰ってください!」
高級宿にモチーフにした部屋を作られるって英雄どころの話じゃないのでは……?
花開くように細工された開き方の白いドアは、花開き部屋の中を公開する。蝶のように吸い寄せられたおねえちゃんと一緒に俺たちも花に呑み込まれる。
「ごゆっくり」
従業員さんが頭を下げてから花を閉じてしまった。
花の内側は魔道具の光に照らされた花々しい装飾ばかりで少女的、だがその豪華さは少女的どころの話では無い。
白塗りの家具ばかりだが全てに例の装飾が金でされている!?
部屋に入ったので開放されたけど、それぞれで荷物を下ろしたら部屋を探索する。
「かなり力の入った部屋ね。住むのは兎も角として泊まるだけなら良いわね」
「綺麗な部屋だ〜。エテルナそっくり!」
二人の言う通り、窓枠にまで装飾のある徹底ぶりで逆に嫌がらせなのではと感じるが、奥の小部屋は優しい木目の部屋で落ち着く。ここが俺の新たなる聖域だ。
ローズのあとをおねえちゃんと一緒について行く。
彼女が大きな窓を開け放つと外はバルコニーになっており、そこからはマダイジュに架かる沢山の橋が一望出来た。
橋の上を行き来する人々が見える。森の薄暗さを忘れさせるほど活気ある光景だ。
「本の光景を実際に見るのは、旅の醍醐味ね」
「描くの〜? 見せて〜」
金の髪を紐でまとめたローズは、デザインノートにこの光景を描き始める。それを左右からおねえちゃんと一緒に眺めていると、下書きの終わったところで魔道具による呼び出しがかかった。
=花騎士様御一行様、花騎士様がお呼びです。
エテルナの呼び出しに顔を見合わせた俺達は、これから何が起こるのかも知らずにロビーに出ていく。
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