第30話 【滅龍依頼】木橋の姉

 木陰ばかりで暗い森の中で、楽天エルフにエテルナと呼ばれた花々しい白鎧が予備の折り畳み椅子に座って自己紹介する。


「私の名はエテルナ。こんな格好をしているが僧侶なのだ。戦士の傷を癒し生き残らせ、次の戦場に誘う者なのだ」


 僧侶! 傷を癒やす特別なスキル『奇跡』を使う者たちか。


「花の騎士などと呼ばれているが、この鎧は遺産武器レガシーウェポンで砕けても元に戻って便利な所が噂されてるのだ」


 遺産武器レガシーウェポンは過去の英雄が残した装備でその強力さ故に子孫には直接引き継がず、強者が残した試練を超えたものに引き継がれる強力な装備だ。

 茶を飲んで、のほほんとしていた楽天エルフは茶化すように補足する。


「自分を回復しながら突っ込んでいく脳筋なんだよ!砕ける白鎧が花の散る様だから花の騎士!体張りすぎ!!!」


 俺も茶を飲むと、アルテの垂らしてくれた魔樹の樹液が、樹液なのに良い感じだ。


「竜の巣窟に突っ込んでいくには奇跡の回数が不足するから、手出し出来なくて困ってたのだ」


 僧侶の奇跡は1日に使える回数が限られていて、使い切ればそれまでだと聞いた。


「それで? 東のドラゴンキラーが放浪してるのは有名だけど私達についてきた理由は何なのアルテ?」


 ジロリと朝の私怨込みの赤い目で楽天エルフを睨む才女。


「ドラゴンキラー仲間のシールド君とは友達でね? 面白い子がいると言うから、見に行ったら楽しい事をしてて興味を持ったんだ!」


 本当にお造りドラゴンでついて来てたのか!?


「お造りは楽しいからね~?」


「うんうん! 楽しい狩り方でドラゴン肉を出した上、新婚旅行に親友込みで行くなんてぶっ飛んでて、付いて行ったら絶対に美味しくて楽しいと思ったんだ! 正解だったなぁ!!」


 ドラゴン肉を集りに来たのか!?


「ドラゴンキラーが集りに来るほどなのか?」

「思い出だよ!良い思い出なんだ!ドラゴン肉は!!」

「わかるのだ。多少相場より高くても買ってしまうのだ」


 高レベル者のドラゴン肉への郷愁は兎も角として俺たちの今後の話だ。


「大目標はドラゴンのダンジョンブレイクとして、これからどうする?」


 俺の確認に白鎧のエテルナが予定を話す。


「アルテ以外の3人は現状でも悪くないとは思うけど、エリンの森でレベリングと罠対策の練習してから行くのだ」


「レベルの余裕は心の余裕なのだ」と脳筋らしいエルフが言ってくる。


「エリンの森にもダンジョンが有るのね。私たちに話しても良かったの?他国の者よ?」


 疑問を持ったらしいローズが話しても良かったのか確認する。


「エリンの森自体が複数のダンジョンが合わさった複合ダンジョンなのだ。入れば判ることだから大丈夫なのだ」


「魔樹が侵入できない理由でもあるのだ」と詳しく教えてくれる。


 机の地図から考えるとアレスからアテナの距離並みの直径の円型の森、どれほど成長を重ねたダンジョンなのか、軍が壊滅する訳だ。

 長く存在するダンジョンは殺し間の塊みたいなもので危険なのに、エルフはそんな所で暮らしてるのか。


「大きなダンジョンなんだね~!何が居るの~?」


 おねえちゃんが興味を持ったみたいで、横でローズがピンクの唇をムニムニさせている。

 知らないことは教えられなくて口惜しそうだ。


「歩く果物なのだ。果物がドロップしておいしいのだ」


 高級宿で出てくるダンジョンドロップしない果物や、ドライフルーツの正体か!?

 情報がないので非ダンジョン産だと思っていたが、エリンの森産だったんだな。


「次はエリンの森林に行きたいな~!」


 おねえちゃんが緑の目を輝かせて両手の拳で口を隠し食べに行く気満々だ。


「チェルシー、行き当たりばったりは良くないわ詳しい者が二人いるのだから任せましょう?」


「その通りだよ、おねえちゃん」と諫めるローズに俺も便乗しておく。

 話は終わったので、机の上をそれぞれ片付けて、薄暗い木陰の茶会は終了だ。


 おねえちゃんがお盆に入れたドライフルーツの残りを自分の小さな口へ一瞬で片づけてるのを見てしまったが、黙っててと艷やかな唇に指を立てられたので見なかったことにする。


口止め料とばかりに、こっそり素早く甘味を口移しにされる。


「秘密だよ?」


一瞬の大胆な犯行に甘い口づけを誰も気が付かなかった。


「じゃあ、このまま南に行って大きな木のダイマジュの国に行こうか! 名前の通り大きな魔樹を刳り貫いた街で宝石の買取や魔道具のチャージ位はやってくれるよ」

「魔物調教師の街でもあるから、面白い芸が見れるのだ。楽しんで行くと良いのだ」


 エルフコンビの案内で辿り着いた大きな木の周りをを回る様に作られた螺旋階段をおねえちゃんと腕を組み登る。


装備でで一部ガチャガチャしてるが腕が幸せになってしまう!


「チェルシー、この杭は魔樹に飲み込まれてるわ。凄い生命力」

「凄いね〜ローズ!」


 おねえちゃんの隣を歩くローズが指さした木へと突き立てられただろう固定用の杭は樹皮に突き立ったまま、木の成長で飲み込まれて、樹皮の模様みたいになっている。

 前方のエテルナが裏切られたというのに、この国を誇らしそうに語る。


「この国の人々は魔樹と共に暮らしているのだ」


 木々に渡された木製の橋がこの国の街道の代わりなんだろう。


 丈夫だろうが木製なので俺達の力で走る訳にはいかずのんびり歩いて行く。


 確実に迷うだろう早い成長で変化し続ける森で、変化なき薄暗い樹の下に伸び続ける橋はこの国の道標なんだろう。

 無くてはならない大切な物だ。


「クロ! ずっと先の方に大きな木が見えるよ〜!」


 隣からの楽しげな報告に前方へ目を細めれば、木の街道の先に一際大きな木が見える。


 後ろを歩いていた楽天エルフが前に飛び出した。


「あれがマダイジュの国だよ! 本当に大きな木!」

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