大樹の国の勇者
第29話 【英傑妖精】木陰の姉
朝の日射しに輝く氷結林にて。
俺たちは楽天エルフの先導で表面の凍った魔樹の森を進んでいく。
時々、魔樹の幹や枝を蹴る事で加速して脚力を活かしながら、魔導鎧の飛行能力で推進力を維持する半飛行で移動中だ。
こんな無茶な動きが出来るのはレベルアップのお陰だ。
レベルアップによる強化は身体能力だけではなく、強化された身体の制御能力にも及んでいるので、体に纏うために身体を制御するのと勝手が似ている魔導鎧の制御能力も高まっているのだ。
「楽しいね〜?」
それが特に顕著なのがおねえちゃんだ。
元々、鳥のように軽やかに飛んでいた彼女は、今では更に進化しており、まるで風に乗って飛ぶツバメのようだ。
「おねえちゃん凄いよ……!」
朝の薄い日差しに照らされる氷の森に線を書き足す様に、青黒い鎧が流れて行く。
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俺達は氷結した森を抜けて魔樹の森にやってきた。
ここは昼なのに見渡す限り木陰なので暗い。踏みしめる地面は茶色の根で構成された絨毯になっており、魔樹の生命力を見せつけられる。
ようやく凍っていない場所まで辿り着いたので、俺達は予定通り休憩する事にした。
「ここまでくれば、森林同盟の圏内ね。作戦通り行くわ」
昼食のために折りたたみ机に火の魔道具と網を用意してると、ローズが予定を再確認してくれる。
「皆が僕の従者として振る舞うんだよね? 苦しゅうないよ?」
アルテが偉ぶり始めるが、慣れていないらしく似合っていない。
コレなら黙っていた方がマシという奴だろう。
「何か注意点は無いのか?」
なにかあると怖いので楽天エルフに聞いておく。
「花の騎士って呼ばれる変人エルフがいるけど、面倒だから避けたほうが良いよ」
意外な言葉にミノタウロス肉をスライスしながら焼く手が止まる。
何でも楽しむアルテに面倒なんて言われるのは相当だぞ?
「町の襲撃を娯楽扱いするようなアルテが?」
「もしかして、嫌いなの〜?」
おねえちゃんとローズも驚いている。
ジュウジュウ焼ける肉の面倒を見ながら聞いてみる。
「面識があるなら、どんなヤツなんだ?」
俺の質問に嫌そうな顔で思い出し、肉を回収したエルフが塩をふりふり答える。
「嫌いじゃないけど力ある者のギムがー、とかシラフで言っちゃう娘だよ。実際、力があるから誰も止めれなくてね」
アルテは思い出すように語りつつ、分厚いレア肉にフォークを突き刺して噛みちぎってみせる。
「優しい子なんだね〜? おいひ〜!」
おねえちゃんが器用にフォークで肉を巻き一口にしながら感想を述べる。正義感あるエルフに好感を持ってしまったみたいだ。
「力有る者の施しは最後に破滅を引き起こす物さ」
何かあったのか目を瞑り口を拭くアルテ。
「エリンの森への侵攻ね? 山から降りてくるドラゴンの圧力を単騎で止めてしまった。余裕が出た末の侵攻」
皿に乗せた肉をフォークとナイフで綺麗に食べるローズが、持っている情報から推測する。
「ドンピシャだ! 心でも読んだ?」
それは悲劇的な酷い結末ではあるが、結果を知っていると喜劇的だ。
「その娘、森を追放でもされたの?」
「逆さ、『良くぞエルフの力を知らしめた』って歓迎されたんだ。僕らって森に引きこもりがちだけど、暇だし武勇伝に飢えているからね。同族は無事だったけど自分の引き起こした惨事にセキニンカンを感じちゃったのかな。彼女は今、森を飛び出してドラゴンのダンジョンをブレイクする仲間を探してるよ」
ダンジョンブレイクか。最近縁があるな。
「手伝ってあげる〜?」
「おねえちゃんのやりたいようにと……」
言いたい所だけどドラゴンのダンジョンは別格、難しいだろう。
返事の途中で遮られる「良い話をこの耳で聴いたのだ」
花々しい金装飾の小さな白鎧がそこに居た。
鎧から唯一飛び出した長耳に、手のひらを当てて見せる。
「私と一緒に悪を討つのだ?」
「良いとも〜!」
おねえちゃんの軽い返事で、新たな旅先が決まった。
「エテルナ聞いてたの? 盗み聞きは楽しくないぞ」
「変人に変人扱いされれば遠方からでも聞こえて来るのだ」
エルフの掛け合いにローズが突っ込む。
「ドラゴンの巣窟をブレイクしようなんて勝算は有るの?」
「勝算は君達、というかそこのドラゴンキラーなのだ」
白鎧が指さしたのは……アルテだ。
アルテが強いとは思っていたが、突然の想定不能な暴露に驚いた。
楽天エルフ改め竜殺エルフは呑気に自己紹介をしてくる。
「バレてしまっては仕方がない! ガルト王国、東のドラゴンキラーとは僕のことだ!!! 驚いた? 驚いた!? 畏れ敬い過ぎないくらいで、よろしくね!」
……楽天エルフで良いか。
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