第28話 【銀光の夢】雪中の姉

 輝く銀光の牢獄に最後の自律特攻兵器が火を噴くと、黒い剣の上に乗る銀の人型に無数の短剣が収まっていく。


 =ナンバー20、運搬ご苦労様でした。帰りもよろしくね。

 =ナンバー1、指令に従って運搬しただけだ。気にするな。


 感謝する人型にそっけない態度だが落とさないように低速で移動する黒い剣。


 =ナンバー20、今回の相手の目的は何だったんでしょうか。

 =ナンバー1、指令に従って撃破した。俺達に、それ以上は不要だ。


 悩む人型に経験則らしきものを伝える黒い剣は真っすぐと飛んで往く。


 意識が浮かび上がってくる。

 意外性のある夢を見た。

 あの破壊の権化のごとき化け物が他者に気遣いの心を持っている。

 前回もそうだが、ナンバーと言うのは親しい仲間だったのかもしれない。


 そんなことよりも俺の現状だ。

 俺は、俺達は散らかったお手製の雪洞の中にて。

 貴重な倒木の狭いスペースで固まって寝ており、おねえちゃんが下敷きになり、みんなを捕まえている。真ん中にローズ、俺はローズの右隣、反対側にアルテだ。

 全員、微妙に絡まっている。

 ちなみに魔導鎧と荷物は隅に積み上げてある。

 鋼の相棒が現状からの脱出の為、フル回転する。


 この状態の原因はおねえちゃんだ。


 俺達は広げた机の上に座ってお茶を飲みながら、寝る方法について相談していた。


「僕は枝の上でも寝れるから大丈夫! 森暮らしで慣れてるんだ」


 樹液で濡れた指を舐めていたアルテは上で独りで寝れると主張する。


「チェルシーとクロは寝てて良いわ。私は今後の予定を立てるために起きてるから」


 ローズはお茶を飲み切ってコップを置き、徹夜宣言だ。


「チェルシー!?」

「なんだなんだ!!?」

「寒い日は一緒に寝ようね~?」


 おねえちゃんは二人を纏めて片手で抱き寄せると、鋼の相棒の指令でお茶を置いて素早く逃げようとした俺も、もう片手で抱え込み、毛布を並べた簡易ベッドに潜り込んだ。

 装備の関係で忘れていたが、おねえちゃんは寒がりなんだ……。

 俺たちは耐環境のドラゴン装備で体温が保持されているから、暖かい。おねえちゃんの気分は、大量の湯たんぽ確保だろうか。


 回想から帰った俺は現実を認識する。

 おねえちゃんの暖かい腕と胸に挟まれて!

 真ん中にいる金の髪は羨ましくも俺の目前で胸に沈みかけていて、赤い目が助けを求めている。

 俺の手がローズの背中に回っているから、動けないみたいだ。

 手が包まれていて暖かいのは怪しい状態だが……。助けを求める目に答えて、手を引き抜く。


「ひゃん!」


 突然の嬌声に、途中で俺の手が止まる。

 自分から出た声にローズの顔が赤くなっていく。

 何を間違えたのかアーマーの背中側内部に俺の手は侵入していたらしい。昨晩緩めたから隙間が出来ていたのだろう。

 俺の腕はローズの細い首の後ろから伸びている。どうやら怪しい状態の正体は、薄着越しの背中に密着していたからだったみたいだ。


「じ、事故よ。一思いにやって頂戴!んん……」


 「では遠慮なく」と硬いアーマーに押されて暖かな薄着に手を擦り付けられながら、我慢している様子を努めて無視して引き抜く。


「んあ……これで脱出出来る。あ、ありがと」


 真っ赤な才女が抜けようとしてガシリと肩を掴まれた。


「ローズぅ、お布団での新しい遊び?私とも遊んで〜」


 泣き出しそうな赤い目をした戦友の右手が伸ばされるが無力な俺は見ていることしか出来ない。


「ひゃあ!? クロの薄情者! ひう! ちょっと! チェルシー!?」


 訂正だ。目に毒なので見ていることすら出来ない。


「見捨てた! 保身の鬼!! その名はクロ君!」


 最初から何もしないで見物していた薄情仲間が何か言っている。


 こんな調子で、朝から雪の中は大騒ぎだ。


 #####


 落ち着いたあとの朝食にコンロ魔道具で焼き戻したパンとお茶を頂く。

 雪がたくさんあるので、水には困らないのは良いところだな。火の魔道具の魔力もローズが魔導鎧のついでに魔石でチャージしてくれるのから潤沢だ。


「この後の予定だけど、この大きな宝石を売り払いたいわ」


 パンをちぎり小さくして食べる化粧を直したローズが桃色唇で切り出すが、パンにかぶりついていたおねえちゃんは小さな口の唇を突き出して残念そうだ。


「帰るの〜?新婚旅行おしまい?」


 これって新婚旅行なんだろうか……?


「仕方ないわね。アルテ、買い取りのあてはある?」


 今度はエリン森林同盟にも侵入するのかな?


「任されよう! あっちの国では今、エルフが神様扱いだから楽勝!! 楽しんでいこうか!」


 軍隊を撃退されて神様扱い?


 祟神かな?


 不安を残しつつ、早朝の朝日に薄暗く輝く水晶の森を後にする。


 俺達がエルフの従者ごっこで行くのは、ドラゴンに怯え、狂乱してガルト王国へ侵攻するエリン森林同盟だ。


 頼もしいはずの森の専門家が楽天エルフなので心配はあるが、おねえちゃんと一緒なら大丈夫なはずだ!

 しかし、俺達はずっと着ていたせいか、自分の装備が何なのかを忘れていた。

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