第27話 【蹂躙掃射】雪下の姉
「周辺に怪しい所は無かった。ダンジョンブレイクに行くわ」
赤い目を細めたローズがダンジョンブレイクを宣言して、魔導鎧の初実戦だ。
緊張するがローズの話だと魔導鎧はダンジョンキラーなので、作戦通りにやれば大丈夫。俺達は人間に対する悪意がある鍛錬の場へ踏み込んでいく。
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俺達の目に飛び込んできたのは幅2メトル、高さ3メトルほどの赤茶の石畳が続く通路。一目見たローズが特性を看破する。
「広い通路の直線か……。もったいない! 精鋭特化型、持って帰りたいほどに美味しいダンジョンだわ。精鋭端末のBランクモンスターが徘徊しているから気をつけて!」
ローズの警告の後、通路の闇からヌッと現れたのは後ろ脚で立ち上がった牛、ミノタウロスと呼ばれるモンスターだ!
作戦通りにおねえちゃんとローズがアームキャノンの掃射をする。
この武装はアテナ製魔導鎧の両腕部に仕込まれたメインウェポンだ。オートマチック射撃な上にドラゴンパピー程度の装甲を貫通する砲であり、弾切れを感知すると魔導鎧の副腕が高速リロードしてくれる。
俺は目を逸らして耐える係だ。
断続的な炸裂音の後に残ったのは、無傷の肉の塊が一つだ。通常のドロップだろうか。
強そうな敵だが、閉所でこんな制圧射撃をやられたら何の対処も出来ないだろう。
俺の仕事が無いのは気になるが、今回は活躍の場を譲ろうと思う。砲無しの魔導鎧なので仕方が無いのだ。代わりにとっておきが有るが、こんな所で使う物では無い。
何の問題もなく、中間地点である関門に到達する。
「人に慣れていないダンジョンね。罠さえ精製されてないわ。無防備な内に潰しましょう?」
ローズの話によると人に慣れたダンジョンは、どんどん人の嫌がることを学習して面倒なダンジョンに進化していくそうだ。
彼女の言う通り、お造りの出たダンジョンの豚と違って出待ちして無くて、真ん中の魔法陣から頭からゆっくり完全装備のミノタウロスが出てくる。
後ろの扉を閉じて逃げ場は塞いでくるが、これは……。
――立ち牛に向けられる二人の砲口。ご愁傷様だ。
「悪いわね」
「いくよ~!」
無防備な相手に申し訳無く思うが、断続的な炸裂音で道中の立ち牛と同じ手順で撃破されてしまった。
鎧程度ではアームキャノンの掃射は防げない。
恐怖を煽るための演出で、ゆっくりと出てきたのが裏目に出たな。
鎧装備のミノタウロスは恨めしい目をこちらに向けて消えていく。あとには無傷の肉だけが残された。
「ダンジョンを破壊だ! 楽しいね!!」
余りに無情な光景に楽天エルフは大興奮だ。
二人の魔導鎧が弾切れを感知し、腰から伸びる副椀でアームキャノンのボックス型マガジンを入れ替える。
アームキャノンは本当に強烈だ。
弾薬費が高いらしいけど、それだけの価値は十分にあると思う。俺もまぶしさに負けなければ使いたいぞ。
道中に現れるミノタウロスも弾薬費と引き換えに殲滅していき、俺の背嚢は肉で一杯だ。
新装備はその後も力を遺憾なく発揮して、あっという間にボス部屋の前まで到達してしまった。
ボス部屋の前で作戦会議をする。
「ボスは制限なしでやるわ」魔導鎧にマウントされていた機械槍を構える才女。
「やっちゃうよ~」蒼い剣を美しい細工の鞘から抜いて光らせる、おねえちゃん。
ボス部屋では流石に出待ちして待っていた。
ダンジョンが関門での失敗を学習したということだろう。
推定Aランクモンスターのローブを着たミノタウロスは、身体を輝かせて足元に魔法陣を出し、何らかの魔法を発動している。
「閉所で火属性の範囲魔法! っく、止められないわ。チェルシー、かき消して!」
即反応したローズが素早く杖を撃ち抜いたが、魔物が使う魔法の特性で即時発動して立ち牛の足元から炎があふれ出す。
ローブ牛の発動した魔法の炎が広がり、火の粉散る炎がこちらに迫ってくる。
唯一の逃げ場である後ろの扉は例によって閉じている。
ローズの指示を受けて迫る炎の前に微笑み立ち、蒼の剣輝かせる影。
「任せて〜」とおねえちゃんの剣の一振りで迫る炎は掻き消える。もう一振り、もう一振りと、蒼の剣が振るわれるたびに、ミノタウロスの魔法使いに複数の切り口が生まれてボロボロになっていく。
ボロボロになったローブが失われた頃には、牛のタタキが出来上がっていた。
道中はダンジョンを成長させないために温存していたけど、文字通りドラゴンを料理してしまうおねえちゃんにかかれば、Aランクモンスターも雑魚同然だ。
牛のタタキに止めを刺すのは、俺の仕事。
プススプススと……。
解って貰えた、だろうか?
俺も強化されているんだ。
この蒼いナイフの効果で追撃が発生しているから、なんと攻撃回数が2倍になってるんだ。
……それだけなんだ。
俺のナイフによる二重の二突きで牛のユッケが完食されて、出てきたのはゴロリとした宝石だ!
「本当にもったいないわ。宝石の出るダンジョンなんて、王国でブレイクしたら即手配ね」
守護者を失い現れたのはダンジョンコアだ。
球状のコアは何らかのエネルギーを放出しており、畏怖を感じさせる。
ローズの言葉とコアの畏怖で俺が固まっている間に、おねえちゃんが剣を振りかぶってダンジョンコアを両断する。
強烈な光が辺りを包む。
あまりのまぶしさに目を開けていられない。
光が収まりだんだんと俺の目が慣れてくると、周りの景色は日差しに輝く水晶の森に戻っていた。
ダンジョンブレイクの戦果で、アルテ以外が全員輝いている。
レベルアップだ。
魔導鎧を着ているのでおねえちゃんの輝く桃髪が見れないのは残念だ。
代わりに才女の長い金髪が煌めいている。
俺たちはレベル7となり、帝国の良好ダンジョンは人知れず減った。
「日中に動き回るのは得策ではないわね。ダンジョン痕を利用してビバークするわ」
随分、好き勝手したが俺たちは密入国中だ。
ローズの指示により、ダンジョンの入り口が消えたことで崩落してできた大きな横穴を更に深く掘り、周囲の雪で補強。更に出口を倒木で隠蔽すれば、雪洞風味な見た目の簡易隠れ家が完成した。
内部まで突っ込んだ倒木の上が俺たちの宿泊スペースだ。
平たい空間は狭いので、ここでも折りたたみの机が活躍する。足を展開しないで広げてしまえば、仮設の床代わりにはなる。
人心地付いたので、お茶にしよう。
鍋に雪を放り込み、コンロ魔道具に乗せたら点火のヒネリを回転だ。雪はすぐに解けて湯気上るお湯に変身する。
慣れてきたけど、洒落たことをする様になったものだ。
「ブレイク後にキャンプで茶なんて行楽みたいだ! 密入国なのに大胆!!!」
楽天エルフはバランスよく倒木の枝に座り、ゲラゲラ笑っている。
「ドラゴン装備の耐環境の効果は着ていれば大丈夫。緩めて体を拭くわ」
率先してローズが装備を緩め始めて、おねえちゃんも続く。レベルアップ直後で輝く白い肌が目に毒だ。
鋼の理性により背中を向けると、目の前に半脱ぎのマント姿になったアルテが居る。
「やあ」
目を瞑り焼き付いた、わざとらしい挨拶の真っ白薄着を忘れる。
「このマント便利だよ! 暖かいまま拭ける! 不思議だ!! 新郎君も試すと良い」
何故かこちらを脱がしにかかるアルテ、突然の凶行に驚き目を開く。
俺を脱がしにかかる楽天エルフにおねえちゃんも便乗する。
「アルテ~。新郎の服を脱がすのは新婦の仕事なのはジョーシキだよ~?」
「新婚夫婦の常識ね!」
「新婚夫婦のジョーシキなら仕方ない!!!」
ローズの常識披露に、わざとらしくニヤリと俺から一歩下がる楽天エルフ。
狙ったな!?
「クロ~、脱ぎましょうね?」
楽しそうなおねえちゃんに服を脱がされる俺は、生き残れるのか?
「自分で脱げるよ!?」
「脱ぎましょうね~?」
後ろから、戦友たちに見守られての攻防。
この狭い空間での攻防でどちらが勝ったのかは、あえて言うまい。
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