第26話 【永遠契約】氷上の姉

 目茶苦茶に成長する木と、それを食い止める氷が織り成す氷の大波を青い鳥が滑り駆けていく。俺のおねえちゃんだ。

 キラキラ輝く氷の欠片を弾きながら飛ぶその姿は、神々しくも美しい。


「綺麗だよ〜!」

「おねえちゃん凄いよ……!」


 俺は歩いてるんだけど霜柱が踵以上まで伸びていて歩きづらいし、魔導鎧で飛んだほうが良いかもしれない。

 そう思って、飛んでみると複雑に絡み合った枝と氷製の天然牢獄に妨害を受ける。

 下手に飛行したら、いつの間にか囚われてしまうだろう。訓練しておいて良かった。


 空中子鬼ごっこの成果が出ている。


 ローズの方は太めな枝の上に立ってデザインノートに風景を描いているみたいで、相変わらず多才だ。

 氷柱を振り回して木を傷つけている環境破壊エルフに、近づいてその目的を聞いてみる。


「何してるんだ?」

「樹液を出してるよ! 魔樹の樹液は美味しいんだ!」


 出てくる端から凍りつく樹液をフォークに絡めてるアルテの真似をしてみると、フォーク先に黄金色の冷たくて美しい飴玉が完成する。


 舐めてみると本当に甘いので量産したら甘い物が食べ放題だ!


 皮算用しながら皆の様子を眺めていると、おねえちゃんが何かを見つけたみたいで大きな木の洞を覗き込んでいる。


「皆〜! ダンジョンを見つけたよ? どうする?」

「ウハハ! 旅先で隠れダンジョン発見! 面白いね!!」


 おねえちゃんの成果を見に行くとエルフが先に覗き込む木の洞の中は、そのまま洞窟になっており、間違いなくダンジョンの入口だ。


「もちろん、怪しい所が無いかを確認した後でダンジョンブレイクするわ!」


 ここは王国では無い上に未発見と思われる珍しく平原以外にあったダンジョンだ。

 ダンジョンは平原に生まれるが端末の放出だけでは飽き足らず獲物を探して移動、こんな形で好みの場所に根を張る。


「他国のダンジョン潰しは国から推奨されているわ。紛争の原因の一つでもあるけど他国が強くなる方が損だから潰す。常識だけど大陸を殆ど横断するような国境に疎らでも警備が居る理由ね」

 

「周辺を探索してからやるわよ」と魔導鎧のスラスターで浮かび上がるローズ。


「クロ? 一緒に散歩しよ〜?」


 俺もおねえちゃんと一緒に探索だ。


 青水晶の森を青い鳥と一緒に飛び回る。


「うふふ。楽しいね?」


 慣れたみたいでバイザーを上げたまま、両手を広げて飛び回るおねえちゃんは、緑の目を細めて嬉しそうだ。


「来て良かったよ」


 俺も笑みを返すと空中で抱き着かれ制御の主導権を強奪される。おねえちゃんの主導で俺は複雑に入り組む氷の木々の間を抜けていく。


 青水晶の森の中心へ俺は青い鳥に持ち帰られる。


 視界が開けると目の前には、木々の隙間から差し込む光を乱反射する水晶の湖が広がっていた。


「おねえちゃんが見つけたんだよ~。凄いでしょ?」


 俺たちはその湖の中心にある透明の小島に立っている

 俺に抱き着く青い鳥は、輝く緑の目に俺を映して見つけてきた宝物を自慢するのを楽しんでいる。


「いつも凄い物を見せてくれて、ありがとう」


 毎度おねえちゃんには圧倒されてばかりだけど、俺も楽しんでいる。


 つい願い事が零れた。


「これからも凄い物を一緒に見て生きたい」

「ず~っと! おねえちゃんと一緒なんだから当然だよ!」


 嬉しそうな緑の目の青い鳥はフワリと浮かびあがると、水晶の湖上へ俺の手を引いて連れていく。


「どこまでも一緒に行こうね?」

「約束する。この命尽きるまで」

「じゃあ、ずっと一緒だ~!」


 輝く氷上で俺達は永遠を契約した。

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