第25話 【戦慄妖精】夜影の姉
俺たちは何処からが隣国か判らない国境を夜の闇に紛れて通り抜けている。
魔導鎧の多目的バイザーに搭載された暗視機能で視界良好だ。
街道以外を旅するのは初めてだが、アルテマにはエルフの嗜みとして星見の覚えがあるらしいので、夜の間はそれに頼る予定だ。
おねえちゃんは星見が少しできる才女の親友も居るので不安は無いみたいで、昼間と同じく楽しそうに俺の手をにぎってくれている。
「真夜中に獣道をフラフラなんて! 中々機会がないし、面白いね!」
楽天エルフは夜も元気で野花を拾っては冠を作りおねえちゃんの頭に乗せた。
「ありがとうね~アルテ!」
「アルテか! 良い響きだね! 今後はそう呼んで?」
目線を俺達から遠くに向けると弓を取り出したアルテマ改めアルテ。
「そういえば腕前を見せる機会が無かったね? あれは貰うよ」
遠くから色とりどりの狼の群れがこちらに向かって来る。
あれは注意喚起されるほど面倒な魔物だ。遠くから魔法を連携して撃ち込んでくると聞いている。戦士の連携が必要なBランクモンスターが、逆に連携してくる難敵である。
アルテがレベル持ち特有のパワーで、大きな黒い弓をギュルリと引いて撃ち放つ。ドッ!と矢と思えない音をさせて飛び去った矢は先頭に居た狼の頭を貫いた!
『行け』とここで終わらないのが戦士だ。
弓スキルの『誘導』に操られた矢が、楽天エルフの指揮でとんぼ返りして狼の首を飛ばし、笑う虐殺エルフにキャッチされて再び弓に番えられる。
「アハハ! ちょっと矢が歪んじゃったな! こりゃもう駄目だ!!」
アルテは当然のように悪くなった矢でも戦慄のキャッチアンドリリースを繰り返し、最後に放り捨てられた矢は消えてしまった狼の群れの墓標になった。
「夜間の行動に弓は相性がいいわね」
「そうだな……」
隠密行動なのに魔導鎧が目立つ赤色なので、俺のマントを貸した才女が語るのに同意する。
北限の空気に寒いだろうとマントに入れてくれているが、快適な代わりに俺の尊厳が失われてる気がする。
「おねえちゃんも入れて~」
「チェルシー!?」
マントの中に楽しそうなおねえちゃんも入ってくると、俺のマントの住人は三名となり、その様子は首3つに足が6本生えた魔物だ。
ちょっと俺の尊厳だけでなくみんなの尊厳が失われてる気がするけど、ここにいるのは俺達だけだから大丈夫。
「面白い事やってるね!!!」
絶滅させた魔物のドロップを回収し終わったのか、こちらを見てケラケラと笑う楽天エルフ。
結局、更に首一つと足二本が生えて異形度合いが増してしまった。これでも暖かいのだから、ドラゴン装備はすごい性能だと思う。
そんな調子で樹氷地帯に到達した。
樹氷地帯は壮絶な魔樹の生存圏拡大と、それを封じる亜寒帯の争いで成り立っており、東の国の魔樹が雪にまとわりつかれ凍りつきながら生息域を広げていて、凄い生命力だ。
その様子は美しく、樹氷の森全体が白波の集合体の様で奥の方で凍りついた立木が氷像じみている。
「もっと奥を見に行こうね〜!」
おねえちゃんは大興奮でマントを飛び出していく。
帝国に侵入を果たした俺達は、樹氷の森を探索することにした。
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