樹氷の森の冒険

第24話 【敵国観光】野営の姉

 俺達はガルト王国北端、ノースアップ帝国との国境付近に向かって北上中。

 小さな町を通り過ぎる度におねえちゃんが緑の目を輝かせて手を振るので、文字通り引っ張り回されている俺は釣られて振り回され気味だ。

 大木見下ろす丘でやさしく降ろされる。

 国境を抜ける前に夜までの時間調整もかねて長めの休息だ。大木は祠を包み込むように生えており、ここに生えていた年月を感じさせる。


「ありがとう、おねえちゃん」

「ここで休もうね~」


「常識だけど、先に話しておくわ。ここから西にあるガルト王国の王都には、飛行物を自動迎撃する旧文明の魔導兵器アルテミスが有るから、高く飛んではダメよ?」

「王都にも面白そうな物が有るんだね!」


 時間調整の合間に物騒なジョーシキを授けられる。

 ここから見える王都なんて点みたいな物なのに射程範囲らしい。


 暇だし野営具でも広げるか……。

 クルトの街で購入した野営具は魔道具もあるので、少し楽しみだったりする。

 取り出したるは家でも使った魔道具の小型版。板状の火を出す部分に鍋をのせると、水筒の水を注いで準備完了だ。黒いヒネリを回して点火する。


「げいげきってなに~? ありがとね~クロ」


 おねえちゃんの質問にローズが嬉しそうに答え始める。その間に俺は丈夫そうな金属製折り畳み椅子を広げて皆に勧める。色々と購入したのだ。


「近づかれたくない相手を追い払う事よ。魔導兵器アルテミスは槍みたいな貫通矢の雨を仲間以外の飛行物に撃ち込んでくるわ。ありがとね?」

「そんなに太い貫通矢を? 面白いな~! きっとドラゴンでも吹っ飛ぶよ!!  あんがと!」


 弓を持っている楽天エルフは想像がつくのか、恐ろしい話なのに楽しそうだ。

 鍋に簡易茶を入れると火を消して水の色が変わっていくのを眺める。良い香りもするので、これで良いはずだ。


 おねえちゃんも自分なりに理解して質問している。


「剣で武器を払うみたいな感じなんだ~? 仲間になるにはどうするの~?」

「仲間になるには王国軍での軍務に参加するか、難しい事だけど個人でドラゴンを撃ち落とすようなドラゴンキラーになれば特記人物として友軍登録、仲間扱いされるわ」


 ポットのお茶を皆に配り、自分も茶を啜る。なんともスッとした味で人心地ついた。

 ここは丘の上なので見晴らしがよく、遠くがよく見える。

 東は深い森に覆われており薄暗く、北の山々は雪を被っていて寒そうだ。


「アルテミスの周りは仲間以外飛べないの~?」

「貫通矢の雨を通り抜けていけば飛べるわ。大騒ぎになって損だから、王都へ行くなら、飛ぶ以外の方法で行くべきね」


 お話に夢中な二人の前で楽天エルフに手伝ってもらいながら、折り畳みの金属机を広げる。


「悪いわね」

「ありがとう~」


 机に皆で集まりコップを置いて、野外茶会だ。

 クルトの町で色々買い込んだが、早速大活躍している。皿にアテナの宿でもらった甘味をおねえちゃんが広げて、ローズは机に地図を広げる。


「みんな食べて~」


 おねえちゃんが早速一個とりながらお勧めしてくるので、俺も一ついただく。

 これは甘いな!

 フルーツを乾燥させた物だろう。高級品だ。

 ローズも一つ取り、嬉しそうに口に運ぶ。


「今いる地点は北のノースアップ帝国と、東はエリン森林同盟の中間地点ね」

「森林同盟って何~?」

「エリンの森を焼きに来て返り討ちにあったのに、エリン森林同盟を名乗ってる芸人達さ!!!」

「エルフに軍隊が返り討ちにあった国々の同盟だったと思う」


 ローズは首を傾けたおねえちゃんの質問に、お茶でドライフルーツを流し込んだ後、もっと嬉しそうに説明を続ける。


「国自体も森ばかりだから間違ってないわ。常識だけど、エリン森林同盟は切っても切ってもすぐに生えてくる巨大な魔樹の森に沈んだ木材だけ潤沢な国々ね」

「そんな場所で暮らせるのか?」


 木ばかり生えていたら暮らせないと考えた俺の疑問に、ローズは赤い眼を細めて口の端を上げると嬉しそうに答える。


「色々な方法で家を建てて暮らしてるわ。木だけはたくさんあるから、木々の間に木製の橋をたくさん架けて街にしているの」

「そうなんだ~。空気が美味しそうだね~!」

「空気の美味しさは近くに住んでいた僕が保証するよ! 木ばっかりで飽きるけど!!」


 エルフの住処であるエリンの森付近の事なので、アルテマが知っていることを教えてくれる。木ばかりで飽きて出てきたのかな?


「火事が怖そうな国だな」

「ドラゴンが実態以上に恐れられてるわ。恐れのあまり戦力を欲し、ドラゴンより強いガルト王国やエルフの森に侵攻するほどよ」

「森林同盟も敵なの~?」


 おねえちゃんが周囲の国が敵ばっかりで残念そうだ。どうにかしてくれローズ。

念をこめて見つめる俺をローズは赤いジト目で睨むと、言葉を選んで語りだす。


「この前、クルトの町に襲い掛かってたのが同盟の軍ね。ガルト王国は豊かな分、周辺国に狙われるの。別大陸の国家からも直接ではないけど狙われている」


 この前食べたマンマル効果で、クルトの町ファンになってしまったおねえちゃんは、手のひらを返した。


「敵なら仕方ないね~!」


 お茶会が終わる頃には、待ち望んでいた夜が来る。

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