第17話 【最強装備】職人の姉

 深夜、残り火に照らされた真っ黒な人型が一面に広がる瓦礫の中、立っている。


 その頭部はシャープな流線型をしていて一部以外、胴体に対して小柄だ。

 その目の代わりにあるのは地面と水平に突き出る黒い両刃剣。

 その全体像は高さ5メトルほどで巨大。ただの人型には無い尖った部分が多い。


     □全ターゲットの破壊を確認! おつかれさま□


 その、人型は闇色の魔導スラスターで浮き上がると剣に成り、夜の闇に消えた。


 意識が浮かび上がってくる。

 恐ろしい夢を見た。


 状況からして暴れた後だろうが、仕事終わりで良かった。

 前回の夢は酷すぎた。

 目の前でおねえちゃんの緑の目が俺を心配そうに見ている。

 手は握られたままだ。


「クロ? 大丈夫? また休む?」

「大丈夫だよ、おねえちゃん。心配かけて……ごめん」


 一日中寝ていたのか体が痛いが、俺は戦士だ。

 立てさえすれば、どうにでもなるから立ち上がる。


 おねえちゃんも手を握ったまま付いて来てくれる。

 ベッドの横から見ていたローズが、嘘を許さない赤い眼を輝かせて俺に問う。


「正直に答えなさいナンバー20、今回は何をしたの?」

「一面に広がる瓦礫の上に立っていただけだ、仕事終わりの様で、すぐに飛び去った」


 俺の答えに嘘が無い事を認めると、ローズは宣言する。


「クロ、チェルシー、病み上がりで悪いけど今日からウォータードラゴンパピーを狩りに行く! レベルアップの回復で持たせるわ。精神の傷にもレベルアップは有効なの。ついてこれるかしらナンバー20?」


 ローズがニヤリと俺に問いかける。俺もニヤリと答える。


「当然だ。遅れるなよナンバー2」


 おねえちゃんが俺たちの手を握る。


「がんばろ~!」


 俺とローズは苦笑しておねえちゃんに引っ張られていった。


 #####


 南の果てアギア共和国の山々から流れ出て、都市アテナの横を通る大河。

 俺達は騎士の全力ダッシュにより、その大河のアテナ付近に来ていた。

 騎士全力ダッシュの補修もローズの交渉でギルドが直してくれる。

 ローズが鬼だ。


 ローズは懐かしそうに都市アテナを見ている。

 その寂しげな背中に声をかけた。


「悪かったなローズ。嫌がってたのにおねえちゃんに話させて」

「この腕の借りは返したわ。仲間は対等じゃないとね?」


 右腕で俺の肩を叩くと金色の長髪を揺らして、おねえちゃんの方へ歩いていく。


「クロ~! ローズぅ! 出来たよ、見て~」


 おねえちゃんが呼んでいる。俺も行かなくては。

 ローズの頼りになる小さな背中を追う。


 #####


 俺たちの目の前には、不自然に造成されたすり鉢状の地形がある。

 その中心には巨大なドラゴンのお造り、素材はダンジョンの時より小さく10メトルほどだ。

 おねえちゃんはすり鉢状の地形を皿に見立てて巨体のウォータードラゴンパピーをお造りにしたみたいで、嬉しそうに見ている。


「切り身を綺麗に並べられたよ~」


 確かに綺麗に並んでいる。

 もうおねえちゃんのお造りを見るのは11回目だ。

 回数を重ねるごとに進化していくその手腕、正にお造り職人!


「おねえちゃん、すごいよ……!」


 俺の感動にローズが水を差す。


「その何時ものセリフはもう良いから、さっさとやりなさい」


「毎回だと流石に鬱陶しいわ」と辛辣なローズに、対等な仲間の厳しさを感じる。


 しぶしぶ、可愛いお造り職人が用意してくれた豪華な爪楊枝代わりの、おねえちゃんが使っていた凄い剣(普通の剣)に手をかける。


 プスプスと……。


 俺たちの体が輝く。

 おねえちゃんは今回の狩りがお気に召したのか、緑の目を細めて、ニコニコだ!


 レベルアップ直後の桃色ショートカットは、いつも通り絶好調で太陽の光に煌めいている。


 この笑顔だけで今回来た価値がある! ありがとうローズ!


「感謝は良いから。宿に帰って装備を整えるわ。行くわよ!」


 レベルアップ直後でこちらも全身が煌めいているローズが、腰に手を当てて指令した。


「了解だ!」

「どんどん行こ~」


 俺たちが去るすり鉢状の地形付近には、ドでかい釣り竿でひたすら文字通りドラゴン釣りをやらされた熟練の傭兵ギルド職員が、死屍累々と横たわっている。


 鬼ローズだ。


 #####


 都市アテナは全体を旧文明の巨大な魔導盾アイギスに守られている都市で、その中心は学園になっており、盾と学園の間に街がある。


 その街にある宿の三人部屋に、俺たちは集まっていた。


「なぜ三人部屋なんだ?」


 集まってドラゴンパピーのドロップした強力な装備を確認中だ。


 青い剣やらナイフに服などのドロップ装備の山を吟味する二人に、黒一点の俺が問いただす。


「仲間外れはダメだよ! クロ~、コレ付けてみて~」

「そういうことね。諦めなさい。私は諦めたわ」


 おねえちゃんが言うのなら……。


「そうか……」


 おねえちゃんが渡したのは全身を覆うような黒いマントだ。

 これは……。ローズの服とセットの物ではないだろうか?

 彼女の方に目を向ける。


「マントは私の戦い方に邪魔ね。要らないわ」


 そういう事なら羽織ってしまう。


 マントを羽織ったことによる劇的な変化に驚いた。


 涼しい?


 ローズに目を向ければ、ニヤリとされる。


「ドラゴンの装備は耐環境、常識だわ。これで何処へでも獲物を狩りに行ける」


 ベッドで薄着になっていたおねえちゃんが頭から青いワンピースを被っている。

 脱ぎ方を間違えたのか、黄緑の下着も飛び出して大変なことになってるぞ!?


「涼しいけど~脱げない~、ローズぅ! クロ~手伝って~!」


 おねえちゃんを助けないと……。


「それはガントレットとグリーブを外してからじゃないとダメよ?やれるわねクロ」


 俺のことを面白いおもちゃのように見る赤い眼。


「と、当然だ」


 俺と鋼の理性はこの場でも自称不敗の連勝記録を更新した。


 とうぜんのことだ。


「そこで寝るの? 常識してない。なるほど、確かに本とは違うわ」

「どうすれば良い~? ローズぅ」

「本によると……」

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