第16話 【暗闇の夢】看病の姉

 船員の無駄死にを嫌って反逆した空を往く艦隊。

 彼らは追っ手の襲撃を感知し、光学術式を起動する。


 超音速で黒い剣型の飛行物が闇色の魔導スラスター吹かし艦隊へ突っ込んでいく。


「余計なものばかり積んだ。当たれば砕けるブリキ人形が!」


 艦隊から迎撃に無数の光学術式が照射された。


「このボクたちの複合高速演算戦闘に、ガラクタが付いてこれるはずないだろ!」


 無数の光学術式が複雑な編み目となり黒い剣を捉えんとする。


「命中率95%だぞ! なんで当たらない! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ! 砕けろ! ナンバー20!

 なんで? ボクも 戦艦 なのに ゴメン……。  みんな」


 急に剣が人型になり闇色の砲撃が奔る。


 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱魔導戦艦撃沈!□


 人型が再び剣になり消え去ると、その場には再び抜けのある光の網目が展開された。

 抜けを黒い剣が悠々とすり抜けていく。


「ふざけるな! 何が黒き聖剣だ! 死神ではないか! ッ!!!!!」


 抜け目に黒い人型が立ち砲撃が奔る。


 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱魔導戦艦撃沈!□


 再び展開された光の網目は、抜けが多い。

 人型は三度黒い剣と成り、そのまま連打する。


 奔る。


「マジックバリアーはどうした! ッ!!!」

 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱魔導戦艦撃沈!□


 疎らになった網目は、黒い剣を捉えられない。

 奔る。


「撤退を! ッ!!!」

 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱魔導戦艦撃沈!□


 空を割る光に、黒い剣が纏わりついている。

 奔る。


「化け物がぁ! ッ!!!」

 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱魔導戦艦撃沈!□


 何度も闇色の砲撃に晒されても生き残った、巨大戦艦に黒い剣が突っ込んでいく。


「残ったのはやはり私一隻か。 聞こえているんだろうナンバー20! 神殺しを為そうなどと言う妄想は辞めろ。 あんな存在、打ち倒せる筈が無い。逃げよう! 皆で!」


 =GHQの指令は反乱戦艦の撃滅だ。 関係ないな。


「私の複層複合マジックバリアーを抜いてくるだとっ! 済まない……みんな。 ッ!」


 黒い極光が奔ると、複数の魔法陣の走る丸い円が巨大戦艦を包みこむ。

 黒い光纏う剣が貫いた。


 □黒剣起動! ターゲット撃破! 反乱巨大魔導戦艦撃沈!□

 □全ターゲットの破壊を確認! おつかれさま。□


 意識が浮かび上がる。

 残酷な夢を見ていた。


 あれがナンバー20?

 化け物じゃないか。

 おねえちゃんとローズが心配そうに俺を見ている。


 あれが俺に関係する?

 おねえちゃんを守らないと……。


 俺の顔をローズが挟む。


「落ち着きなさい。アレはあなたじゃないわ」


 ローズ? おねえちゃんには黙っていたいんじゃ……。


「ひどい魘され方だったからね。勝手に話させてもらったわ」


「ごめんなさいね?」と謝るローズ。


 おねえちゃん……。


「クロ~怖い夢を見たんだってね? 今日は休もうね」


 おねえちゃんが俺の額に額をあててくれる。


「今日は休むわよナンバー20。慣れておきなさい。辛いのはこれからよ」


 ローズは俺のことをアレの名前で呼ぶことで慣らそうとしてくれるみたいだ。

 少し落ち着いてきた。


 流石は経験者、これにローズはずっと耐えて……?

 天才と言うのはやっぱりローズのことなんだな。

 毎回、これだと耐えられそうにない。


 おねえちゃんが濡らした布巾で顔を拭いてくれる。


「クロ~。おねえちゃんが看病してあげるからね~。大丈夫だよ」


 おねえちゃんの大きな緑の目に涙が溜まってる。

 俺がおねえちゃんを困らせる奴になってしまった。

 早く直さないと自分を許すことが出来そうにない。


「クロ~。何かして欲しいことはない?」

「おねえちゃん……手を、俺の血に濡れた手を握ってくれますか?」


 おねえちゃんが迷わず俺の手を取ってくれる。

 ローズが俺をあの恐ろしい怪物と、関わりあると教えているのに。


「おねえちゃん……。ありがとう」


 涙と一緒に。俺の意識は落ちていった。


「クロ~。早く元気になってぇ~!」


 最後におねえちゃんの声が聞こえた気がする。

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