第18話 【純白の夢】飽食の姉
ゆっくりと飛ぶ黒い剣の周りを白い人型が人懐こそうに絡み飛んでいる。
=ナンバー20! 今日はお前か? お前と一緒だと強敵をすぐ食われちまう!
=ナンバー0、危険度の高い相手から潰してるだけだ。指令完遂が優先される。
黒い剣はそのままだが白い人型は飛び出して腕を組み、黒い剣の進路をふさぐ。
=ナンバー20! レベルアップには強敵の撃破が重要なんだぞ!
=ナンバー0、レベルアップとは何のことだ? それは指令完遂より重要か?
黒い剣は鬱陶しそうに白い人型を避けると、相変わらずゆっくり飛んでいく。
=ナンバー20! 強くなるにはレベルアップする必要があるんだぞ!
=ナンバー0、それは指令完遂の役に立つ。教えてくれ、どうすれば良い?
黒い剣に白い人型が絡む様は楽しげだ。
意識が浮かび上がってくる。
謎の夢を見た。
あの化け物が普通に会話を!?
発言は微妙だけど、敵を滅ぼし尽くすだけの存在では無いのか?
そんなことより目の前の事が重要だ。
やわらかいものが、俺のほっぺにくっ付いている?
これは一体……?
「そのまま続けなさい! スキンシップと言うのは、その距離が近いほど効果的よ!」
横から赤いネグリジェのローズが本を片手に指示出しをしている!?
「クロ~おねえちゃんだほ~!」
わかっていたが薄着のおねえちゃんが、俺にしがみついている!?
声の位置からして俺のほっぺたにくっ付いているのは、おねえちゃんのほっぺたらしい。
やわらかい双子山が、力が強いのに細身の手足が、楽しそうな鼻息が、俺の相棒にヒビが!
鋼の相棒からの緊急指示は、偽装工作からの作戦領域の脱出。
だがこの状況は……?
「おねえちゃん、トイレに行く」
「ついて行くよ~」
立ち上がる俺に、おんぶされる様についてくるおねえちゃん……。
!!! ローズゥ! どういうジョーシキを教えたらこんな事に!
ニヤニヤしている赤い眼に抗議する。
「獲物を逃がさないのは常識ね」
獲物!? 俺はおねえちゃんの獲物だった!?
鋼の相棒からの新たな指示は、攻撃目標の変更による脱出?
「おねえちゃん、ローズが寂しそうだ。仲間外れはダメだよ?」
「ローズぅ! ごめんねぇ~!」
「チェルシー!?」
まとめて、おねえちゃんに抱きしめられたローズは固まる。
おねえちゃんは俺を持ったままローズを抱きしめたので、結局逃げられなかった……。
俺たちはしばらく団子になった後、おねえちゃんの満足と共に解放された。
レベルアップで回復した鋼の相棒は、もうボロボロだ……。
#####
高価そうな座卓で肉を突いて食事をしている。
もう、成り上がりは成功だな。
別の理由で戦い続ける必要があるけど!
あんな悪夢に負けなくなる日が来るんだろうか?
「善き戦友に騎士を超える力、上等な装備も得た。翼を得る為にアテナの試練を突破するわ!」
フォークにブドウを突き刺したローズが、それを俺に向けて宣言する。
「ローズ~、お行儀が悪いよ~!」
おねえちゃんに諫められ、渋々とピンクの唇へと瑞々しいブドウを付ける才女。
「干し果物おいしいよ~!」
諌めた、おねえちゃんだが小さな口に信じられない速度で甘味を投入していく。
その動きは美しく正確で華麗ですらある。全然こぼさない!
「おねえちゃん、すごいよ……!」
俺は照り焼きマンガ肉のナイフでの攻略を一時休戦して、その様子を眺める。
「チェルシー、甘味ばかり食べ過ぎると太るのが常識よ。野菜も食べなさい」
ローズのジョーシキにより、そのフォーク先を野菜に定めた、おねえちゃん。
お皿の上にある緑豊かな新緑の森が、次々と伐採される。
常識による自然破壊だ!
「ローズぅ! お野菜もおいしいよ~!」
おねえちゃんが喜んでるのは良いことだが、ローズの話も気になる。
「翼を得るとは?」
俺の質問に気を良くしたローズが説明を始める。
「アテナの試練とは、この都市のギルドマスターにしてドラゴンキラーであるシールド学園長が、魔導鎧普及の為に考えた試練よ! 場所は学園地下の旧文明基地。相手は再生産され続ける暴走軍事兵器! 打ち勝ったならば、似合いの魔導鎧が与えられるわ」
魔導鎧!? あの化け物が!? この都市で、アレが作られているのか!?
「クロ、あの夢の物とは規模が違うわ。アテナの衛兵が装備する鎧と同じ、身に纏う程度の物よ」
噂ではアテナの衛兵は飛行可能で強烈な飛び道具まで備えているという……。
アテナの衛兵の装備は魔導鎧だったのか。
あんなものを与える試練とは……。
「内容が知りたい」
ローズが喜びを隠さず説明し始める。
#####
照明に照らされた地下施設の中で戦士たちの激闘が繰り広げられる。
おねえちゃんが、お造りから出てきた蒼い剣を振るうと斬撃の激流が荒れ狂い、大砲を積んだ巨大な八つ足の魔導機械を切り刻んでいく。
金色の影が走れば機械槍を連射し、小型の八つ足に積まれた機械槍が次々と火花を噴き沈黙する。
火花を吹いた機械槍を引っこ抜いては持ち主にプレゼントするのが俺の仕事。
雑魚専と侮るなかれ、これでレアドロップが……!
……?
「ローズぅ! クロのナンバー20でも何も出ないよ~!」
ショックだ。 おねえちゃんの期待を裏切ってしまった……。
「チェルシー、これはダンジョンのモンスターじゃないわ。旧文明の殺人機械ね」
「ドロップは無しだわ」と言う才女。
俺の存在意義は……。
「そうなんだ~! じゃあっ、手加減っ要らないねっ!」
増援が出てきた所でおねえちゃんが飛び上がると珍しくスキル攻撃する。
威力強化の兜割りだ。
「そ〜れっ! 『砕けろ』」
おねえちゃんのスキル発動句に蒼き剣が光り輝く!
スキルで制御された動きで光り輝く剣が床スレスレに寸止めされ、剣に込められた力が解き放たれた。
斬撃の激流が振り下ろされる。
激流が流れた後、そこには無数の斬撃痕と集中投入された元増援の成れの果て、大小の火花噴く現スクラップが残される。
ここにアテナの試練は突破された。
「おねえちゃんすごいよ……!」
「これには私も、自分の常識を疑うわ」
立ち尽くす俺たちに振り返り、おねえちゃんは上機嫌だ!
「おねえちゃん、勝ったよ~!」
スクラップの吹く火花の中、桃の髪を跳ねさせ、両手を上げて喜びを表現するおねえちゃんが飛び跳ねる!
#####
夕焼けに照らされた学園の門前、学園と皿を重ねたような噴水を背景として。
試練に打ち勝った俺達を老齢のドラゴンキラーであるシールド氏が待っていた。
「ローズとその仲間達! よくぞ僕の試練を突破したんだ!」
「全部見てたんだ」とシールド氏、ここはシールド氏の庭、試練の不正は出来ない。
「良くローズはこの短期間で腕を生やしたんだ! ダンジョンブレイクか、いいね!」
辞めた生徒のことも把握して称賛する老体は嬉しそうだ。
「僕はこの都市を守るために存在してるんだ。何もできなくて、ごめんなんだ」
悲しみに俯き老体が小さくなると、巨大な影が俺たちを覆いつくす。
そのグレーの姿は学園の高さを超えて巨大。
全身を無数の巨砲で爆装した人型!
悪夢のと似たタイプの魔導鎧!
何ができるわけでもないが、おねえちゃんの前に立つ。
影が大きくなり、赤い夕焼けが隠された。
すでにその巨体は目前だ。
「大丈夫なんだ。僕の魔導鎧、ドレッドノートなんだ」
その手にはいくつかのコンテナが握られていた。
凶悪な軍事兵器をただの運搬道具扱い!?
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