第14話 【死地生還】戦友の姉

 ダンジョンという死地から開放されて空気が美味しく感じられる。

 ここは外だ。

 俺達はダンジョンの入口がある岸壁の上に戻ってきた。


 寄せては返す波の音が鉄火場に緊張した耳を癒す。


「悪いわね二人とも。貴重な装備を中古にして」


 ローズが珍しく目じりを下げて謝るが、こういうのは仕方ない。


 俺たちの目的はローズの治療であり、レアドロップは狙っていなかったしな。


「いいとも~」

「仕方ないさ」


 おねえちゃんの返答が軽いけど、巨大お造りを作れたのが嬉しかったんだろう。


 ローズには巨大お造りから出たコートを着てもらっている。これも多少目のやり場に困るがさっきの服が吹っ飛んだ状態よりはマシだ。


 今のローズの装備は青いコートに黒い装甲が組み合わされたような服装で、胸周りと腰周辺から太ももまでの装甲部は良いが、それ以外の青いコートの部分が一部半透明で、例えばおへそが見えていたりして妙に露出が多い。


 寒くはないらしいが目に毒だ。


 腕が生えてきたので状態確認のため、ローズが体操したりバク転したりを始めた。


「おお~、すごいよローズぅ! 元気になったんだね~」


 おねえちゃんの歓声に、ローズが答える。


「力の上昇からして2レベル上がったわね。変な癖も無さそうだわ」


「いつまで泊ってく~?」


 おねえちゃんはローズが遊びに来る約束を思い出して喜んでいる。


 出来れば、ローズには長く手伝いをして貰いたい。

 主に俺の弾薬確保のために!


「復帰が確実では無かったし、学園は辞めているわ。仲間に強い射手はいかが?」


 俺の考えはバレバレだったようで赤い眼を細めてニヤリと笑うローズ、俺もニヤリと返す。


「ここに優秀な戦士を求めてる一党がいるんだけど、興味は無いか?」


「ローズ! 一緒に暮らそう~!」


 俺の戦友達が嬉しそうだけど、すぐ同棲しようと……。

 もしかして俺のことは遊びだった!?


 まさか代わりに俺が追い出されて……!


「チェルシーと暮らすのも良いわね」


 乗り気!?

 待ってほしいローズ!

 おねえちゃんの隣は俺の場所だ。


 ……ローズが赤い目をニヤニヤとさせてる。


 どうやら、からかわれていたみたいで流石に妙な常識のローズでも、同棲夫婦のところに住まないだろう。


 大丈夫なはずだ。


 大丈夫だよね?


「アレスに帰ろう」


 暗くなる前に帰らないと家があるのに門が閉まって野宿だ。


 俺たちは足跡だらけの街道をレベル5の力で走りだし、その出力の高さに驚いた。


 すぐに速度を緩めて駆け足になる。


 ――走り始めた所からずいぶん遠くにいるぞ!?


「すごい! はや〜い!」


 止まるためにものすごい足跡を残して、おねえちゃんが言う。


「おねえちゃん、ゆっくり行こう街道には優しくしよう」


 街道には古強者の加護が残されているというから、ちょっと怖い俺は止めておく。


「想像以上ね。チェルシーあまり街道を壊してはダメ。祖霊を大事にするのは常識よ」

「ローズぅ! それ~って?」


 すっかり安心したおねえちゃんがローズに絡みついている


「祖霊とは……」


 おねえちゃんの桃髪がローズの金髪に絡んでいる。

 よく見た光景をもう一度見られて俺も安心だ。


 ローズは常識云々を始めたので、もう完全回復と思っていいだろう。


 背後を見ると、蒼い海と夕暮れ空を背景にする街道に俺たちの深い足跡が残されている。


 俺たちは勝利した。


 過去の戦士たちの加護に感謝する。


 俺たちは生きてアレスに帰る。


 #####


 アレスの傭兵ギルド内、机も椅子も丈夫そうな質実剛健な交渉室にて。


 ギルドとの交渉はローズの独壇場だ。


 俺とおねえちゃんは後ろから見ているだけで、隣りにいるおねえちゃんはずっとローズがカッコいいと言っている。


「—―ので傭兵ギルドは確認を怠ったことを認め、私たちにドラゴンパピーの討伐補助を行うと言う事で良い?」


 どうやら、登竜門と呼ばれる。

 すごいおいしい狩りの補助を今回のお造りさんの件で引き出しているみたいだ。


 #####


「――から今件、証拠にコアを残してあるわ。当然買い取ってくれるわね?」


 そのまま、畳みかける様にコアを金貨100枚で売り付けてしまった。


 ローズが天才なのは知ってたけどそれが牙をむいてる様はドラゴンがドラゴンキラーのいない町に襲い掛かっているみたいだった。


 交渉後、そのままレベル測定をしてしまう。


「あなた、レベルチェッカーを持ってきてくれる? クロ、チェルシー来て」


 最後に2レベル一気に上昇した異常な集団として威嚇したということだろうか。


 酷いものを見た。


 Aランクモンスター倒すつもりで来てあの活け造りドラゴンが現れたら、大体の挑戦者は死ぬな……。

 死んでるのか、誰でも才女の様に交渉できるかは兎も角、酷い訳でも無いか。


 完全復活したローズが味方で良かった。


 3人分のギルド証の打ち直しをローズの赤い目にジッと見られて震えていたし、無駄に怖がらせそうだから、しばらくあの受付さんとは関わらないでおこう。


 家への帰り道の路地でおねえちゃんが、まっすぐ歩くローズに抱きついて話を聞いている。


 俺は寂しいよ。


「ドラゴンパピーって、なに~?」

「あのお造りにした魚のもう少し小さい相手よ。補助付きなら最高の獲物ね」


 勝利の余韻でニヤついているローズは、楽しそうに説明する。


「またお造りできるの?」


 おねえちゃんは超巨大な魚をさばくのが、好きになってしまったみたいだ。


「そうね。クロが頑張る限りは実費でやってもいいくらいだわ。やれるわね?」


「当然だ、資金は大事だよ」


 おねえちゃんがやりたい事だし、お金になる話には即飛びつく、守銭奴と言わないで欲しい。

 俺にはこの道しかないんだ。


「お金を集めるのは当然の話なのだから。卑下する必要はないわ」


 俺を赤い眼でニヤリと覗き込み、おねえちゃんの言葉に表情を一瞬怪訝にする。


「クロ〜、ナンバー20ってやっぱりすごいよ!」


 おねえちゃんに喜ばれるなら、怪しいスキルもいいかな。


 マイホームに到着してローズと今後の話をする。


「何日か泊まったら宿を借りて。チェルシーと会うために毎日通わせてもらうわ」


 当然のようにおねえちゃんを横取りに来る宣言をする才女。


「ローズ~。聞きたいことがたくさんあるんだよ~! クロが~」


 おねえちゃんはようやくローズと落ち着いて話を出来るので、俺の話を始めた!?


「そんな馬鹿な。本と違うわ。正気なのクロ? 常識足りてる?」


 ローズに常識を疑われる俺、違うのだ俺の鋼の理性が達成した偉業であって。


「俺は正気だ」


 熱があるのではと自分と俺の額に手を当てたり、俺を病人扱いする才女。


「熱はないわね、レベルアップもしてるから普通の病気でもない」

「クロ、病気なの〜?」

「俺は病人じゃない」


 女の子二人の攻勢に聖域へ逃げる俺。


「クロ〜、ローズに任せれば大丈夫だからね〜」


 しかし俺の守るべき人の手によって聖域は開かれた。


「調べるわ。待っててねチェルシー」


 とドアを閉めて真剣な表情で、俺にグングン迫ってくるローズ。


「何をする気だ!?」


 俺を壁まで追いつめてそのまま腕で逃げ場を塞がれる。


 本当にどういう事!?


「確認する事があるわ」


 そのまま俺と同じ高さの顔が近づいてきて、その赤い眼に見つめられる。


「ナンバー20ってスキルよね。私はナンバー2のスキルを持ってるわ」


 困惑した顔で聞いてくる。確かに似たエラースキルに会ったら気になるだろう。


しかし、ここまで迫る理由があったんだろうか?


「反応が楽しかったから揶揄ったのもあるわ。それにこのスキルについてチェルシーに知られたく無かったの」


「おい! 俺で遊ぶな!」とちょっと睨んでしまうが、ローズがおねえちゃんに隠し事なんてあり得るのか?


「珍しい表情ね? 私にだって隠し事の一つ位はあるけれど」


 ダンジョンの時の仕返しをされてしまった。


「夢を見るの」


 それは……。

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