第13話 【怪物料理】破壊の姉

 俺たちは今、塩ダンジョン……。

 ダンジョンブレイクしても良いダンジョンにいる。


 ダンジョンの場所はアレス北西の海近くで、大量のダンジョンが集まるスポット。


 水没したようなダンジョン内の扉前に、俺含め3人の戦士が立っている。


「ここがボス端末の居る部屋の扉だ。ダンジョンコアもここにある」


 おねえちゃんと強くなる為に集めた情報を全放出した。

 これで俺が村で貯めた金で集めた情報は終わり。


 おねえちゃんの甲斐甲斐しいお世話を受けながら、赤い釣り目を更に細めたローズが俺を評価した。


「あれがクロの戦い方ってわけね。良いんじゃない? 興味を惹かれるわ」


 片手なのにめちゃくちゃな機械槍捌きで大体のCランクモンスターを制圧した制服の才女さんが何か言っている。


「クロ、もったいないよ~?」


 精鋭端末Bランクモンスターを危なげなく瞬殺したおねえちゃんが、俺の浪費戦術に否を唱えるけど、仕方ないんだ。


 あの披露宴でやった武器を投擲する戦い方が、しっくりきちゃったんだ。


 カトラリー替わりは、どうするって?


 俺はモンスターと戦う限り、武器を拾い続けることが可能だ。


 この意味が、わかるか?


 曲がっちゃっても、金属資源くらいにはなるから……。


 もったいなさ過ぎて、ちょっと俯く。


「俺には、他に道が無いんだ」

「格好をつけてるけど、考えは見透かせるわね。戦い続けなさい。それが答えよ」


 扉の横に寄りかかって、体力の温存を図っているローズが、俺を茶化した上で永遠の戦いの地獄へ、突き落とそうとする。


 自分で口に出した通り、他に道はない。


 おねえちゃんが、俺を救い出そうとしてくれる。


「え~? ローズと同じ奴を持ったらいいよ~」


「クロは目が良すぎるから、機械槍のマズルフラッシュで目潰しされるの。致命的に向いてないわ」


 俺も気が付いてなかったんだが、ローズの機械槍を少し使わせて貰ったら、眩しすぎて撃ち続けられなかった。


 最近レベルアップを繰り返してるから病気では無い。

 これで健常という事だ。


 生まれつき機械槍とは相性が悪いって事!


 ローズはとんでもないヤツなので、片手しか使えないのに俺にかかるマズルフラッシュを最低限にした上で、Cランクモンスターを制圧したんだ。


 実際全然気にならなかったし、知り合いがみんな強すぎる!?


 だから俺の生き残る道は、これしかないんだ。


 自分をよく知る二人を相手に不利を悟った俺は、戦術的撤退をする。


 明日へと、前進だ。


「行こうか!」

「逃げたわね」

「やっつけよう~!」


 ボス扉を開くとそこにあったものに、俺は少し呆然とする。


「情報と違う?」


 ボスの出てくる魔法陣の前に陣取り、なにかを食べながら俺たちに尻尾か尾鰭らしきものを向ける分厚い鱗のモンスター。


 それを見てローズが断定した。


「面倒なことになったわね。ウォータードラゴン? いいえ。まだウォータードラゴンパピーね。なんとか、やれるわ」


 おねえちゃんが握った両手で口元を隠して、嬉しそうに言う。


「でっかい魚だ~!」


 ボス部屋を埋めるのは、巨大な口に大量の歯を持つ手足のない体長13メトルはあるワニだ。


 ドラゴンパピーと言うのはドラゴンの幼生で、ドラゴンの繁殖の結果、増える連中。

 ウォータードラゴンパピーは水中に生息していて、稚魚が川を上り成体に近づくと、海に下るウナギみたいな性質をしている。


 海に近いここに居たなら、成体直前のドラゴンみたいなものだ!


 食らっていたのは情報上では、ここのボス端末の魚人型Aランクモンスター。


 こんな生物を倒せるのか?


 なにかピンクの影が視界を横切ると、巨体の上に飛び乗った。


 俺のおねえちゃんだ!?

 危ないから気が付いてないうちに戻って!?


「お魚は~、鱗とり~♪」


 おねえちゃんが歌いながら、巨体の上で剣の刃を立てて振り回している!?


 良く見るとパラパラと分厚い鱗が散らばってるぅ~!?


 巨体も暴れているんだけど、おねえちゃんのバランス感覚が良いので落とせない!


「チェルシー!? 小魚の解体じゃないのよ!?」


 流石のローズも赤い目を丸くして金髪を振り乱し、慌てている。


 これはレアだ。


「クロも何を落ち着いてるの! 物珍しそうな顔をしない!」

「おねえちゃんなら、大丈夫!」


 俺はおねえちゃんの力を信じるよ!

 見てよあの笑顔楽しそうだ。

 見ている間に、上側の鱗が粗方無くなっちゃったよ!


「背びれは~、食べれない~♪」


「……どうしよう?」

「どうしようじゃない! 攻撃するのよ! 投げて!」


「了解!」


 おねえちゃんも背びれを落としたら飛び降りたし、ローズの指揮で攻撃だ。

 こんなに慌ててるのに指揮も狙撃も正確。


 片手で逆さ持ちなのに、真っ先に巨体の目を潰した!


 ローズが制圧したモンスターを倒して、武器を大量に確保してある。

 資金にする予定だったけど、背に腹は代えられないので大放出だ!


 色々飛び出している背嚢から取り出したるは、おねえちゃんと同じ剣、おねえちゃんが振るとあんなだけど、普通の剣なので投げたら折れて欠けて鉄資源だ……。


 おねえちゃんの下ごしらえで、プリプリの身が露出している巨大魚へ剣を投擲した。


 #####


「クロ~、手伝って~!」


 おねえちゃんがいい仕事をしたと言うように、額の汗をガントレットの空いてる内側で拭いながら、こちらに来る。


「悪いわね、早めに頼むわ」

「わかったよ」


 ローズはちょっと調子が悪そうで、急いだ方が良さそうだ。


 ダンジョンの巨大魚は破壊しつくされ、お造りになっていた。


 ボス部屋をお皿にして、凄い生命力で半端に繋がった背骨でぴちぴちしている。


 いい仕事してますね。


 俺の投げた剣は豪華な爪楊枝として先端が首に差してあって、俺に力が有ればここまでする事は無かったと申し訳なく思う。


 でもよく考えたら、ダンジョンが人間に敵対してるのが悪いか?


 ……言い訳はやめる。


 サクリと一刺し……!

 活造りは完食されて残ったのは……服?

 多分レアドロップだ。

 一部が半透明の服が出た。


 俺を含め二人も輝く、レベルアップだ。


「えっ!?」


 俺は、ここまでの強行軍の疲労が吹き飛んだ。


 二人も同じだと思う3レベルの戦士とはいえ、この距離を全力ダッシュはキツイ、おねえちゃんはローズを背負ってたけど……。


 二人の様子を見る。


 おねえちゃんはいつも通り桃の髪がキラキラ輝き、緑の目も達成感にゆるみ切って、お疲れさまだ。


 ローズは……。 

 金の髪がキラキラ輝いているのはおねえちゃんと同じだけど、赤い眼は動揺したように見開かれている。


 生えた腕で制服と薄着の肩が突き破られたようで、細い手で胸を隠していて隙間から見える膨らみは思ったよりある、鋼の理性がオート起動して背を向けた。


「クロ、気にしなくていいわ。これは事故よ。このダンジョンコアなんだけど良い話があるの、乗らない?」


 即看破したローズに許され、良い話と言う言葉に相棒が半壊され振り返るが目隠しされる。


「クロ~! 妻以外の女の子の裸をジロジロ見ちゃだめだよ~!」


 おねえちゃんの小さな手で目隠しされて、その隙間から少し赤くなったローズが見えるので目をつぶる。


「本や授業では事故なら許す事、って言ってたからそれが常識よ?」

「そうなの~?」


 ローズがとんでもないことを言い始めて、それにおねえちゃんが即納得して離しそうになってる!?


 おねえちゃんのガントレットの手を自分の顔に抑えておく。

 保ってくれよ……。


「クロ~? 痛くない~?」

「常識より、おねえちゃんが優先だ」

「律儀な事ね。褒めてるのよ?」


 どんな想定の授業なのか、こういう事態が多発してるんだろうか?


 しかし、おねえちゃんのローズから聞いたジョウシキの理由も読めてきた……。

 アテナ学園開拓科の皆様方、ローズの情操教育が全く出来てないぞ!?


 腕前は学園一位って言ってた……。

 ……腕前が良すぎて友達が居なかったのか?


「良い話って?」


 とりあえずおねえちゃんのガバガバ目隠しのまま目を瞑って良い話を聞いておく。


 プライドが邪魔して背中を向けられないローズが、俺の考えに勘付きながら懐に良い話をする。


「馬鹿にされてる気がするけど……。このダンジョンコア売らない?」

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