第10話 【桂剥き鎧】脳筋の姉

 この国の戦士というのは、ただ武器で戦う存在では無い。

 超常の能力であるスキルを駆使して戦うこともできる。


 今までは、俺もおねえちゃんもスキルなんてものは一つも使わなかった。


 今までと何が違うのか。


 ――それは戦士だ。


 レベルチェッカーでのレベル3、戦士になった者はスキルが使える。


 今回は良い機会なので、スキルを実戦で試して貰う事も狙っている。


 俺の調べた情報によると、このダンジョンで出てくるデュラハンという魔物は金属鎧その物、そんな敵に相性のいいスキルがあるのだ。


 それは徹甲だ。


 徹甲は硬い防御を貫くスキルで手順が簡単なのが特徴。


 1、片刃の剣の背を向ける事。

 2、そのまま「徹れ」と唱えながらぶちかます。


 以上で発動した。


「ギギギ……」


 薄暗い広間の中、俺達の目の前で上半身だけの鎧が動けなくなっている。


 兜が胴にめり込み恥ずかしがり屋なデュラハンになっている。

 鉄を叩いたのに剣は無事で、破片もグリーブと貸した俺の革手袋がはじいた。


 おねえちゃんはそれを為した直後も、真剣に緑の眼で相手の動きを見定めている。

 もう一度、おねえちゃんが剣の背を向けて振りかぶり。


「徹れ」

「ギッ!」

 めり込んだ兜を地面と挟んで叩き潰した事で、鎧まで前面が真っ二つだ。


 鎧は消えて鉄塊が残される。


「おお!」


 なんだか無茶な事を筋力で解決してる様に見えるけど、異常な事を起こすのがスキルの特徴なので剣は無事だ。


 おねえちゃんが緑の目を見開いて剣をじっと見つめてる。


「う~ん?」

「おねえちゃん、すごいよ……!」


 俺は心の底から称賛しながら、何度も見た戦士の冊子をもう一度見る。


――――


 ・戦士は三つ目のレベル、レベル3の事です。


 ・戦士のあなたは超常の力スキルを使えます。 使い方は各ギルド受付にお問い合わせください。


 ・名前の通り貴方は戦士です。これで一人前の戦士と言えます。


 ・収入面では日給、金貨一枚以上が基本となります。市民の三百倍以上の収入となりますので更に戦士的にあれるように心がけましょう。


 ――――


 冊子から顔を上げて考える。

 今回もある戦士的……。

 これはなんだろう……?



 受付の人に教えてもらったスキル徹甲は、その名の通り装甲を徹して硬い相手にダメージを与えるスキルで……。


「えいえい!」


「ギッギ!?」


 おねえちゃんスキルは!?

 スキル使わなくても、鎧がつぶれて剣も無事。

 これは一体……。


「えええ!?」

「できた~!」


 ……。


 考えてもわからないときはスキルの仕業と聞いたから、明日のスキル検査を待とう!


 でも一つ問題が有って、どうやって俺が撃破するか考えていなかったんだ。



 じっとボロナイフを見つめる。


 徹甲系のスキルは短剣以上の長さが必要でナイフじゃダメらしい……。

 おねえちゃんの剣を借りたら良いのだろうけど、正直刃こぼれさせそうで怖い。

 毎日布で磨いて凄く大事にしてくれているんだ。


「どうしたら……」

「私に良い考えがあるよ~!」

「おねえちゃん危ないよ!」


 自信満々なおねえちゃんが人間の視界を狭め、重い鉄の体で奇襲するための通路の闇へ消えると、少ししてボロボロのデュラハンが飛び込んできた。


「ちょっと難しかったよ~」


 襤褸ゴーレムと一緒に、おねえちゃんも帰ってくる。


 全身を切り刻まれて鎧の桂剥きとでもいうべき姿になったデュラハンに喉を鳴らした俺は、ナイフを本体らしい部分へ突き刺す。


「ギ……ッ!」


 鎧の桂剥きが消えて出てきたのは、欲しかったレアドロップだ!


 このガントレットでおねえちゃんの装備が揃って……。


「もっとほかの形もないかな~?」


 ごつごつした形におねえちゃんは不満そうだ。


「違うの出るかな?」


「クロ~ついてきて~」


 おねえちゃんに呼ばれたので、恐ろしいけど通路の闇についていく。


「待って?」


 暗い通路の中は沢山の中途半端にボロボロにされた鉄ゴーレムが逃げようとガチャガチャやってるぅ!?


 ボロボロでもこんなにいると怖いな!?


 おねえちゃんが1匹見繕って倒さないように剣の腹で押してくる。


「ええ!?」


 まるで、鉄板屋さんみたいだ……。


 鉄板屋さんは包丁でスライスした肉を鉄板で焼いてくれるけど、そのままの包丁で寄こしてくるお店だ。


「はい、おまち~」


「鉄板屋さんみたいでしょ~?」


 おねえちゃんが鉄板屋さんの真似を剣でしている。


  「ッギッギ……」

「そう思ってたよ」


 俺専属の鉄板焼き屋さんにとっては、危険なダンジョンも遊び場みたいだ。


「ローズに教えてもらったんだけどね~。生ものは別の包丁じゃないと、お腹壊すのがジョーシキだって!」

       「ギッギ……」

「そうなんだ」

「クロ~逃げちゃうよ?」


 ローズのこの情報は結構重要だ。鉄板屋は回避するようにしよう。


               「ギッギ……ッ!」「危ない、危ない」


 おねえちゃんと話してる間に、もう少しで逃がすところを危なく倒した。


 もう一度ガントレットだ!今度は細身の銀色だけど内側が空いてしまってる。


「これが良いよ~!」


 妙に軽量だけど、破片が防げれば良いのかな?


 おねえちゃんがボロボロにしてあった鉄ゴーレムを一気にたたき壊すと、鉄塊を拾い集めて帰ってきた。


「着けてもい~い?」


 明るい緑の目を上目遣いにして聞かれる。


 どこでそんな技を!?


「良いよ」


 おねえちゃんが、色々試しながら肩まである細身のガントレットを付けている間に、俺はおねえちゃんが拾ってきた鉄塊を背嚢にしまっていく。


 ドロップの重量も嫌がられる原因かも。


「ちょっと手伝って~」


 おねえちゃんに付けるのを手伝ってほしいと言われて肩ベルトを回すのを手伝う。

 バンザイしてガントレットを付けているので袖を上げていて見える脇がまぶしい。


 この時の俺は忘れていた。付けたら外すって事を。


 #####


 俺が部屋の桶の水に布を浸し丁寧に体を拭いていると、おねえちゃんの部屋から俺を呼ぶ声がする。


「クロ~。手伝って~」


 少し、戸惑いながらおねえちゃんの部屋のドアを開けたら、そこにはガントレットとグリーブの前にワンピースを脱いだ、寝るときの薄着に鎧姿なおねえちゃんがいた。


 鋼の相棒の指令ですぐに背中を向け、おねえちゃんに重要なお願いをする。


「おねえちゃん、服を着て?」


 俺のお願いは聞き届けられず、おねえちゃんにすごい力でベッドまで引きずりこまれる。


「手袋と靴を脱ぐのを手伝ってほしいの~。 それに新婚さんはこのくらいジョーシキだってローズが言ってたよ~?」


 ロォォォーズ!

 ありがとう!

 本当にありがとう!

 前にカード賭博で徴収した小説返すよ!


 でも、おねえちゃんに偏ったことを教えるのはヤメテ……。


 まずはグリーブの方を手伝う。


 この黒グリーブの構造はベルトで前後の黒い鉄甲をつなぎ合わせてるんだけど、デザインの関係で外す時は上からやるみたいだ。


「クロ〜蒸れてるから、拭くのも手伝って?」


 !?

「……はい」


 俺のふとももの上におねえちゃんの足を乗せてもらい、ベルトを一つずつ外していく。

 一つのベルトを外すたびに露になる白い肌を、濡れタオルで拭いてあげながら、だんだん足先へと進むのでおねえちゃんの足は畳まれていて、ふと視線を上げると足の間の薄緑の下着がちらりと見える。


 俺の反応をじっと見ていたおねえちゃんは、俺がびくりとしたのに気が付き、何故なのか気が付いたのか顔を赤くさせた。


 その事に俺も顔が熱くなるのを感じるが、おねえちゃんは足を畳んだままお願いしてくる。


「クロ左足もやって~?」


 左足を始めるときどうしてもグリーブ上側が近いため横目に薄緑が目に映る。


 おねえちゃんに目で抗議するが、おねえちゃんは顔を赤くしてコクリと頷く。


 ローズ!!!!

 これは行きすぎですよ!?

 うれしいけど!

 しかし俺は流されない!


 理性よ俺の鋼の理性よ。


 今こそ結実の瞬間だ!


 お互い顔を赤くして、無心でやりとげた。


 最後は美しい戦士のガントレットを外すのを手伝う。


 肩ベルトを外すときのバンザイは目に毒なので、目を背けてやったんだけど、いろいろと余計なところにぶつかって!?


「んふふ! くすぐったいよ?」

 

 逆効果だったかもしれない……。


 すまない相棒、俺の器がすでにいっぱい、いっぱいだよ……。


「もう片方もおねがい~」


 ……。


「ありがとうね~クロ!」


 もう語ること叶わぬ

 俺は生ること叶わぬ。

 ぐぅ……。


「クロ~? また寝ちゃったんだ? 難しいな~今度ローズに聞かないと~」


 夢を見ている。

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