第9話 【結婚祝福】逢引の姉

 朝の日差しに照らされる石造りの大通りにて。


 家を出た俺とおねえちゃんは、総合商店へ道を歩いていた。

 商店への道は人がたくさん居て流石は大都市だと二人で感心する。


 おねえちゃんは上機嫌で腕をしっかり組んできて、やわらかな二の腕で俺の腕が幸せになってしまう!?


「これって、デートだよね~」


 確かにその通り。順序が迷子だけどデートだ。


 総合商店は武器だけでなく日用品も売ってるので普通の買い物もできるから、俺の調べた情報によると、この周辺でも優良なデートスポットだ。


 俺の装備更新はボロのナイフ位だし、おねえちゃんの装備を色々見てからプレゼントするつもりで考えているので、貢いでるみたいだが行動はデートそのものだ。


 緩む顔をなんとか引き締めて笑う。


「がんばってエスコートするよ」


 桃色の頭を俺の肩に預けておねえちゃんが寄りかかってくる。


「ありがとう〜クロ!」


 その顔は柔らかそうな唇を緩めて嬉しそうだ。


 総合商店に入店すると、妙に好意的な目線が集中した。


「昨日は良かったよ!」

「お姉さんを大事にね」


 おばちゃんやおじちゃんから肩を叩かれて祝福される。


「演技抜きで戦士としては姉に劣っている。だが素質は悪くない。……がんばれよ」


 おじいちゃん方にも評価を聞かされながら激励される。


「いじらしい子! がんばって!」


 おばあちゃん方からは応援を受ける。


 お年寄りはレベルアップの抗老化を通り過ぎた人だ。

 ゆえに高齢まで生き残ってる時点でレベル上昇の機会が最大化しているので、実はすごい戦士ばかりということ。


 レベルアップの抗老化はレベルの2乗分の年齢を老化無しに過ごすことが出来る。

 だから俺とおねえちゃんの姿は事故でレベルアップした14歳と16歳の時の姿のまま、重要な事なんだけど背が伸びる時期にレベルが上がってしまったので俺の背は低い……。


 レベル3の戦士相当になったから、事故から9歳分の23歳まではこのまま過ごすことになる。


 本当はもっとゆっくりレベルを上げて身長を伸ばそうだなんて考えていたけど、若い内にレベルが高いことは良い事だと聞くし文句は言わない。


 もっとレベルが上がると、抗老化の期間はもっともっと長くなる。


 若い脳みそで時間を得ることの効力は凄まじくて、このガルド王国が豊かな理由の一つだ。


 ……。


 段々と不安になってきた、本当にこれってデート?


 なんだか顔見せみたいだ。


 失念していたけど、闘技場でこの商会の宣伝をしたから、闘技場の観客に会うのは当たり前だった。


 でもおねえちゃんの顔を伺うと、嬉しそうだから良いのかな?


「みんなから祝福されてるよ~!」

「良かったね。おねえちゃん!」


 良い事なんだけど、大都市だからか祝福してくる人が多すぎないかな?

 多分、故郷の村の人口より多くの人から祝福されたよね。


 #####


 祝福や激励の波が収まったころに買い物再開だ。


 まず来たのは、靴と剣のマークの看板があるコーナーだ。

 たくさんのグリーブや剣が値札と一緒に飾られている。


 ここでおねえちゃんが怪我をしないようにプレゼントをしたい。


「金属の靴は俺が買うね」


 おねえちゃんに試着椅子に座ってもらって、似合いそうなグリーブを付けたり外したりする。


「膝上まである靴なんてすごいね~!」


 すぐ目の前にさらされた白い太ももがまぶしい。


「これはどうかな?」


 最後は黒っぽい色のグリーブに決めた。


「綺麗な靴だね~!」


 ――おねえちゃんの白い太ももが映えると思う。


 短丈の白ワンピースに黒のグリーブの組み合わせが力強い美しさを強調している。


「綺麗なのはおねえちゃんだよ」


 綺麗で格好が良いのだ。

 鎧の下に着る布鎧はサービスで、それでも金貨3枚したけど後悔はない。

 俺はおねえちゃんを守りたいのだから、正しいお金の使い道だ。


「大きな靴下が要るんだね~。ありがとうクロ」


 おねえちゃんに自分の選んだものを着てもらえたのは嬉しかった。


 これが君を守ることを祈る。


 #####


 俺は白い太股の映える美しい戦士とガントレットのコーナーに向かって歩く、本当に巨大な店だ。陳列場所が分かりやすいのは良いけど、歩いているだけで良い運動になってしまう。


「おねえちゃん、更に金属製の手袋をつけてほしい」


 昨日のウェディング甲冑では普通に扱ってたから大丈夫なはず。


「あ~! 飛んできた石が痛くないやつ!」


 せっかくレベルアップで回復したから、あまり無理をしてほしくない。


 レベルアップは体の異常を完全に回復する。


 なぜか拒否感があるけど神の愛だなんて言われており、レベルアップを崇める宗教もあるらしい。


 レベルアップについて想いをはせていると、ガントレットがデカデカと書かれた看板の目立つコーナーに到着した。


 色々あるけど、どれが良いんだろう指まである方が良いのかな。


 意外といい値段だ。


「片手で金貨2枚するよ~どうしよう?」


 全身甲冑の複雑な部分だからかすごい高い。


 市民の年収並みの金貨3枚もあるのに、おねえちゃんの資金が足りない。


「変な物は使ってほしくない」


 おねえちゃんの力だと、レベル2の立士の時点で敵の金属装備を破壊していたから危険だ。


 しかし両手にしたらグリーブより高い、装備の値段の高さを甘く見ていた。


 この黒いグリーブは値段が高い方だったのに、ガントレットは供給が少ないのかな?


「拾いに行った方が良いのかな?」


 自分の運に頼るという怪しげな行動も今までの実績を思うと行けそうで困る。

 おねえちゃんの顔が凄い勢いで笑顔になっていく!?


「クロ、ダンジョンにいこう~!」


「行こうか!」


 突然だけどダンジョンデートが決まった。


 #####


 おねえちゃんと一緒に再びアレス郊外に来ている。


 ここから南東に見える山々はアギア共和国という獣人の国の領土で、国土のほとんどがドラゴンの巣になっており、いつものようにドラゴンブレスが吹き付けられて山火事が発生している。


 ピクニックで火事場見物は変な気持ちだけど、遠くのことだから他人事だ。


「今日も燃えてるね~」


 きっと何かがドラゴンを怒らせたんだろう……。


 ドラゴンは強大なモンスターで別格、どこかのダンジョンで湧き出し続けて繁殖までしている。


 そして特性として高い場所にいる者を、鳥や虫でさえライバル視する。強大で迷惑なモンスターだ。


「そうだね。何かが高い所を飛んだのかもね」


 ダンジョンに向かって街道を往く、急いでないので徒歩だからデートにはちょうどいいかもしれない。


 最近来たばかりなので、街道に変わりはない。

 いつも通りの足跡でデコボコの街道だ。

 これには理由があるけれど……。


「ローズからの手紙が来たんだ~」


 おねえちゃんがカバンから手紙を出して、話を始めたのでそちらに集中する。


「ローズが遊びに来たいって~、良い?」


 都市アレスはローズのいる都市アテナと、東西を街道で繋がっている。

 村に帰る時と同じで、魔導車の定期便に乗ってくるんだろう。

 ローズはおねえちゃんに今度は何を吹き込むつもりなんだ?

 平穏なものであってほしい。


「良いよ」


 俺への当たりは強いけど、おねえちゃんの親友を邪険には出来ない。

 有用な情報を教えてくれることも有るから、俺も避けるわけにはいかない。


「あと、事故でケガをしたからレベル上げの手伝いもって……」


 おねえちゃんが心配そうだ。


 俺もローズとは付き合いがあるので、心配に思う。


 負傷をレベルアップで治療するのは、ローズに聞いたことがある。


 ローズは俺に対抗して訓練で初士になっていたから、レベル上げしても大丈夫だ、おねえちゃんの親友の負傷を癒せるなら、手間とは思わない。


「その時は手伝うよ」

「ありがとう!」


 おねえちゃんの心配そうな顔を微笑みに変えることが出来た。



 ローズは心配だが、今は目の前のことに集中する。


 今回の獲物はギルドの資料で調べた鉄ゴーレム。

 資料によると見た目は、鎧の胴丸から上が這いずっているような、ボードゲームの駒の成りかけみたいなゴーレムだ。

 鉄が得られるから鉄ゴーレムと呼ばれていて、レアドロップがガントレットとヘルム、ガントレットを狙う。


 剣と違って嵩張るので、あんまり大量確保できないだろうけど一応、ずた袋を持ってきたのでそれなりにはなるはず。


 お店で高かったのは、持ってくるのが大変なのと敵が金属で硬いからか、嫌われる要素が多い獲物だ……。



 目印のついた石造りの廃墟があって、目印の通りに回り込んでいくと暗いダンジョンの門がある。


 ここだろうか。


 暗いダンジョンへおねえちゃんと一緒に踏み込んでいく。

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