第8話 【新妻侵入】新居の姉
赤い閃光に魔導鎧のマジックバリアーが貫通される!
=ナンバー20!
意識が浮かび上がってくる。
恐ろしい夢を見ていた気がする……。
そんな事よりも目の前の現実への対処が先か、俺の視界一杯に鼻筋の通った、おねえちゃんの顔がある……。
昨日のことが思い出されると、妙におねえちゃんの唇が艶めかしく感じてしまう。
形状記憶合金のように復活を遂げた俺の理性が、俺のポジション変更による現状の変更を指令する。
くるりとおねえちゃんに背を向けると抱き着いて捕獲され、寝るための薄着でやわらかな色々が密着して、俺は固まった。
な……何故?
「おねえちゃん、なぜ俺のベッドに?」
俺の肩に顎を乗せて俺の頬に柔らかな頬を当てるおねえちゃんに聞く。
「部屋は別だけど、一緒に寝ないとは言ってないよ~?」
「新婚さんのジョーシキだもんね」とおねえちゃんが続ける。
ロ、ローズゥ!?
うれしいけど!
うれしいけれど……。
偏った知識をおねえちゃんに与えるのは、やめてくれ……。
この行為もローズがおねえちゃんに伝達したジョーシキなのかもしれない。
俺の鋼の相棒が欺瞞工作による危険地帯と化した作戦領域からの撤退を司令する。
「おねえちゃん。トイレに行く」
「いいとも~」
俺の首に巻き付いていた腕と俺の足を挟んでいた太股から解放される。
おねえちゃんを冷やさないようにゆっくりと、名残惜しいが暖かい布から出ていく。
……作戦領域からの撤退に成功!
後は本当にトイレに行って、そのまま朝食の準備を始める予定、俺もまた二度寝するとは言ってないからね!
ジョーシキにはジョーシキで対応しちゃうぞ。
部屋から出るその前に振り返る。
「おねえちゃん。おはよう」
ベッドの布から顔だけ出している、おねえちゃんが緑の目を細めて返してくる。
「クロもおはよう~」
#####
街に来て二日目で手に入れた俺たちのマイホームは平屋建ての2LDKで、玄関から見るとキッチンと一体化した大き目のダイニングがあり、俺とおねえちゃんの部屋のドアが奥に並んでいて縦長の構造だ。
村で住んでいた家よりも、かなり大きい家である。
めちゃくちゃ凝った仕事だったけど、1日の仕事でこんな家に住めるのは本当に運がいいと言う他なくて、賃貸でなく持ち家と言うのも恐ろしく感じる。
成り上がりを望んで村から出てきたけど、このまま天まで飛び上がりそうな勢いだ。
「金銭感覚狂っちゃうな」と、つい感想が口に出る。
ダイニングの机の上にもらった立士と戦士の冊子が有るので、昨日も見たけど片づけるついでにまたそれを開いてみる。
まずは立士の冊子を見る。
――――
・立士になったあなたは既に初士の時とは格が違います。
日常生活では抑制されますが気持ちを乱した時の行動には気を使いましょう。
・立士は2つ目のレベル、レベル2の事です。
・名前の通り貴方は戦士として立ちました。 戦士的にあれるよう心がけましょう。
・収入面では日給、金貨1枚近くが基本となります。これは市民の100倍の収入となりますので戦士的にあれるように心がけましょう。
――
冊子から目線を上げて「戦士的ってなんだろう……?」と考える。
酔っぱらいの人が言ってたあれかな?
市民の100倍……!
村人だったから市民の収入はよく分からないけど、収入面がとんでもなく感じる!
でもあんなにダンジョンがモンスターだらけだとおねえちゃん程でなくても、このくらいの収入になりそうだ。
俺の初日はレアドロップばかりだったので金貨を3枚も貰ってしまって、おねえちゃんと半分にしての金貨3枚だ。
おねえちゃんの手伝いを一日で立士の日給三日分……市民の年収を稼いだことになる。
安全のために訓練で初士になる市民もいる。
おねえちゃんは例外だと思うけど、初士になっただけではダンジョンで稼げないどころか手も足も出なかった。
地道に少しずつモンスターを倒し続けた人が立士になれるという事だと思う。
俺はかわいくて強すぎるおねえちゃんがいたから1日で立士となり、それは二人とも聞き取り調査されるくらいは異常な事みたいだった。
この聞き取りのお陰で今回の依頼があったので良い巡り合わせだ。
後日、その件についておねえちゃんがスキル検査を受ける予定で、俺もレアドロップをたくさん出したので同時に受ける予定。
なにか異常なことや不思議なことがあると、だいたいは魔法かスキルのせいらしく俺たちも自分の力が何なのか知れるのは、ありがたいことだ。
「クロ~。おねえちゃんさむいよ~」
戦士のほうの冊子を見る前にふるえてる薄着のおねえちゃんが来てしまった。
とりあえずは上着を渡して今日の予定を話そう。
「おねえちゃん、これを着てこっちに座ってて。暖かいパンもある」
「ありがとう~クロ! 朝ごはん用意してくれたんだ?」
おねえちゃんが上着を着ながら緑の輝く目を細めて喜んでくれる。
キッチンが高性能なので片手間で保存してあるパンを焼くくらいはできるんだ。
つまみを捻るだけで火が出るって楽だ。
みんな魔法の力で動く魔道具らしい。
「この家の家具すごいよ。後で使い方を教えるね」
「わかったよ〜クロ、楽しみだな~」
焼き直しでも暖かいパンを朝から食べれるなんてすごい贅沢だ。
村では保存したパンをそのままだったから、近くても都市は都市、村は村なんだな。
おねえちゃんの向かい側に座って、パンを幸せそうに食べている様子を見る。
俺も少し食べてから話そう。
……うまい!
まるで焼き立てみたいだ!
こんなのお祭りだよ!
お祭りでしか食べれない類だ。
「収穫のお祭りみたいだね~」
おねえちゃんも同じことを考えてたみたいで、緑の眼を細めて喜んでいる。
「これが戦士の生活なのかな?」
商売道具を買いに行く話をしたいので話の舵を戦士の方にきっておく。
俺の言葉におねえちゃんはキッチンにぶら下げてある俺のプレゼントした剣を見る。
気が付かなかったけど不用心だな!? 家の鍵はしてあるけど自然にぶら下がってる……!
「あんなにいい剣をたくさん拾えたもんね!」
あれはおねえちゃんの扱いが凄すぎるだけだと思う……。
普通の剣だ。
「うん、昨日のたくさん拾った剣を売ったお金で装備を整えたいんだ、買い物に行かない?」
「んん~? 剣はあるよ?」
「危ないから、防具で手足は守ってほしい」
おねえちゃんはギリギリで避けるから、跳ねた破片が掠って手足に細かいケガをしている。きっと防具があった方が良い。
他にも懸念はあるけど、そこはお店の商品を見ながらの方が良いよね。
「防具か~、ごついのは嫌だよ?」
「昨日の鎧の所だから、良い物があるよ」
あの鎧はちょっとパーツが多すぎて、運用できないと思うけど見た目に気を使ったものもある。
なんせ、権力者は力ある戦士なんだから、儀礼用の装備以外も見た目が洗練されているはずだ。
「あの鎧か~。かわいいけど、お手入れ大変だろうね~」
「きっと簡単なのがあるよ」
お店の品ぞろいに思いをはせながら、温かなパンを食べる。
――どんな装備があるだろうか?
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