第7話 【孤軍奮闘】巧者の姉
隣のおねえちゃんのウェディング甲冑を見ると、大きな金属の輪を組み合わせた鎧で、全体的に白くて丸みを帯びている。
可愛らしい装飾が多いけど儀礼用鎧ってやつなのかな?
「総合商店が演目の為に用意した、特注のウェディング甲冑でございます!」
軽い装備紹介の後、司会の人が煽る。
「敵は最下級のCランクモンスター! 複数の敵から軽武装の新郎を守れるのか!?」
名前は見た目のままなのか……!?
気が抜けてしまったけど、ナイフを抜いてカバーに入る。
おねえちゃんも支給品でなく、わざわざ俺がプレゼントした剣を抜いて構える。
小鬼3体がたくさん置いてあるテーブルや椅子を倒しながら、走って向かってくる!!
くる!
「「「ア ア ア ア!!」」」
???
戦闘に入った途端に、なんだか遅く感じるぞ……。
「ア ア ア ア!」
おねえちゃんも首を傾け、自分の剣で先頭の小鬼の剣を頭の白いヴェールを揺らし巻き上げて。
「ア ……?」
後ろに追随していた2体へ目を細めて狙いを定め巻き上げた剣を器用に投げ飛ばす。
「「ア ッー!」」
並んでいた後ろの2体は、まとめて串刺しになり消えて、布が二つ残された。
「ア ア!?」
俺も剣を失って慌てている小鬼へ、テーブルに隠れて接近すると首をナイフで引き切り。
「ッ!!」
そのまま血が吹き出る方と逆に逃げる。
……剣が吹っ飛んでるのに剣がドロップした!?
視界の端に司会者が映ると、此方にウィンクを連打している……!?
これは……苦戦を演じろという事?
おねえちゃんの速度に慣れて俺も普通からはズレているのか、新婦さんは嬉しそうに披露宴の席を見回していて司会者に気づいていないぞ!?
俺の孤独な戦いは始まった。
#####
ナイフで剣の小鬼と鍔迫り合いをしている。
「アー! アー!」
小鬼の勝ち誇った威嚇が鬱陶しい……!
おねえちゃんの様に剣を叩き落とすのが正解かな……?
「クロ~受け持ってくれてありがと~」「アエッ!?」
俺の横から小鬼に回り込んだ麗しき新婦が、ヴェールを振り乱して背後から袈裟切りにすると、小鬼は自分の作った血の海に膝をついて、血の海ごと消えていく。
「エー……」
返り血を浴びた新婦がヴェールを軽く整える間に、子鬼と共に返り血も消えていく。
「ありがとう、おねえちゃん」
そんなやり方が!
折角の機会なので戦いの勉強をしていたけど、おねえちゃんの戦い方は勉強になる。
……後に残された布が懐かしい。
たくさん落ちているドロップに嬉しそうなおねえちゃん、コレ貰えるのかな?
「たくさん出てくるね~」
「そうだね!」
敵を態と複数の鉄の落とし戸から出すことで、分散して俺に1体流してるみたいだ。
流石のおねえちゃんも纏まった相手じゃないと一閃とはいかないみたいで、なんだかんだでうまく演じている……はず!
「なんということでしょう! 当闘技場のCランクモンスターが全滅してしまいました! で~す~がご安心を! Cの次と言えばB! Bランクモンスターでこの素晴らしい新郎新婦のレベルアップをご覧に入れますとも! 」
Bランクモンスター! 数ではなく質の精鋭端末!
流石は戦士の都市、そんな奴も捕獲できるのか。
司会者が後ろ手で謝っている!?
器用だな! 司会者ってあんな技能が必要なの!?
流石に危険と考えたのか出てきたのは豚面が1匹だ。
豚鬼という奴だな。
確か危険度は、レベル三である戦士の連携が必要……?
脂肪の鎧に包まれた二メトル近くある巨体に大きなハンマー。
でかい! つよい! かたい! だ。でもおねえちゃんとは相性が悪い。
「ブォアァー! ……?」
「よいしょ! 」
地響きを起こしながら突っ込んできたハンマー豚はおねえちゃんに大きなハンマーを振り下ろすが、大きめに2歩下がった彼女がはね飛ぶ小石と風圧にヴェールを乱されつつ、地面にめり込んだハンマーの付け根を剣で斬ってしまった。
――これでハンマー豚は豚棒に降格だ。
「ブア!? ブーア!?」
急に軽くなったハンマーに驚いてるハンマー豚、改め豚棒。
俺も会場に置いてある高そうなカトラリーを豚棒の顔めがけて投げて援護する。
弁償とかないよね?
「ブェ! ブェ!」
棒を取り落として顔を守るさらに降格した豚の肘の下をヴェールをはためかせた、新婦が通り抜けた。
「ブ……」
おねえちゃんの刃の軌道に豚の脇が背中まで切り開かれると、ダバリと大量の血が一瞬噴き出て地面に落ちる前に消えていく。
そのまま消えた豚は骨付き肉になった!?
初めて見たときすごい喜んだんだけど、二足歩行の豚の肉だったのか。
豚が消えた後、俺とおねえちゃんの体が光る!
レベルアップだ!
レベルアップ直後のおねえちゃんは、やっぱり桃髪がキラキラ輝いてとても綺麗だ。
戦いで小石が跳ねたり相手の装備が砕けたりで負った指先や見えないけど足の細かい傷も消えたのだろう。
気になっていたのか指をすり合わせ、今は爽快そうだ。
「華麗なる決着ゥ! ここに二人の新郎新婦の戦士が誕生しました! 戦士チェルシーと戦士クロに惜しみない拍手を!」
観客からの拍手がたくさん降り注ぐ中、おねえちゃんと一緒に手を振っていると、おねえちゃんの小さな両手で顔を挟まれる。
視界一杯に端正で艶やかなおねえちゃんの顔!?
綺麗だ……。
しばらく俺を映す緑の目と見つめあっていると、やわらかな唇を当てられた。
悪戯っぽい笑顔で新婦は笑う。
「キスしちゃった~!」
俺の顔が真っ赤になる。
会場の拍手が爆発した!
大勢の目の前で、おねえちゃん、大胆不敵すぎる!
「情熱的な新郎新婦にさらなる拍手を! 以上で本日の予定は終了でございます! 帰り道にケガなどなさいません様に!」
司会者さんが素早く切り上げてくれた!
嬉し恥ずかしかったから助かる!
その後、マイホームを手に入れた俺とおねえちゃんは大勝利記念のちょっと豪華な外食をした後に交渉の末、村に住んでいた時と同じく個室を持つことになった。
男の子には色々あるということで、ごり押しさせてもらった。
ごめんね、おねえちゃん。
俺以外には誰も救うこと出来ない相棒の為、俺の苦行に付き合ってほしい。
「おねえちゃん、おやすみ」
「おやすみ~、クロ」
ダイニングで家を見て微笑んでるおねえちゃんに寝る前の挨拶をしてから、俺の新たな聖域のドアを閉めた。
部屋に置いてあった棚に今日は活躍のなかった皮鎧を放り込み、桶の水で体を拭いてベッドにもぐる。
一日ぶりの微睡は俺に物音を無視させた。
「クロ寝ちゃったの? ……おやすみ~」
何かに包まれてひどく安心した俺は深い眠りに沈んでいった。
夢を見る。
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